第七十二話 信じて待つ心
氷の矢が消えると同時にアルギスが魔力を使い果たしそうになり、倒れかける。
眠気と闘いながらアルギスは剣を手に取り、コピーへと刃を向けようとしたが、コピーは私を盾とし避けきると窓辺から下りた。
窓から下りれば、ヴァルシュアと闘っていたらしい牛姿のゼロと目が合った。
「ウル!!」
「ゼロ!!」
私達は手を伸ばすもののふれあうことすら許されず。
コピーの手に寄って私は、ヴァルシュアの陣地へ転送されていた。
コピーに無理矢理連れられて、ヴァルシュアの城に入ってしまう。
「ウル、おいで。いつかくる君のために取っておいた部屋があるんだ、きっと君も気に入る」
コピーはにこにこと笑いながら、私を無理矢理部屋へ連れて行こうと玉座の間を通り過ぎようとする。
玉座の間には、思いがけない人物がいて私は堪らず声をあげた。
「お兄様!! お助けを!」
玉座には兄様が腰掛けて、私達が来るのを待っていたのか、私達の姿を認めるとにぃっと笑った。
「任せろウル。お前はこんな湿っぽいところにいるべき女じゃない。風の魔王は退けてやった、あとはお前たち水の魔物だけだ……あのくそ魔王の代わりに、少しだけ手助けしてやる。オレの名を呼べ、ウル」
「お兄様! ……ギルバートお兄様!!」
「いいこだ、助けを求められたのならこの勇者ギルバートが相手しよう、なんつってな。さ、妹から手を離して貰おうか、魔崩れの贋作さんよ」
兄様は背丈ほどのある剣を背中から引き抜くと、構えてコピーと距離を測る。
コピーは兄様相手だと厄介だと感じたのか、目くらましに霧を使うとすぐさまその場から逃げるように何処かへ目指す。
コピーの言っていた部屋だと分かると私は抵抗しようとしたのに、コピーが魔法で私を身動きさせなくする。
コピーは私を、異質な部屋に連れて行くと哄笑した。
「これで、これで君は僕のものだ!! ここは魔力を感知できない、誰もやってこれないぞ!!」
「離して! 貴方なんか、貴方なんかアルギスじゃない! ゼロのもとに戻して!」
「嗚呼、ウル。君はなんて残酷なんだ、僕を否定し、魔王を同時に求めるなんて! 君を……一人にすればいいんだね、そうすれば君はきっと「誰か」を欲しがる。一番寂しくなった頃合いに、僕がくれば君の中でパーツはきっと埋まる。僕しかいないと」
「やめ、て」
それは残酷な愛の宣誓だった。
私は恐怖で喉を引きつらせるも、無情にコピーは部屋から居なくなり、私は泣きながら扉を叩き続けた。
誰一人気配を感じることも、時計もないこの部屋で過ごすにはあまりにも怖すぎた。
今はただ、ゼロが勝って、この部屋に辿り着くのを待つだけだった。
自分自身との戦いになってしまうけれど、……信じればきっと平気よ。
ゼロは私を一人にしないと言っていた、だから、私も……ゼロを信じてこの眠気に負けないだけ。
涙をこぼすのをやめて、涙を拭うと私はその場に座り込んで只管に、今までみてきたゼロの笑顔を思い出すこととした。