第七話 羽根のない弟、羽根を沢山持つ兄
外で何日か魔法の練習をしていた。
ここのところ、秋が近い気候で少し肌寒くもあったので、夕方になるとすぐに引き上げていたが根気よくシラユキ、またはラクスターが教えてくれていた。
「イメージがないわけじゃない、話を聞いてみると。まったく魔法にイメージを持ってないわけじゃあねえんだよ、お前は。理屈上、出来ないわけがないんだ」
「だとしたら何が悪いのかしら」
出来るだけ役に立ちたいのに、魔法を使おうとする度に具合が悪くなる。
時には吐きそうになったこともあった。
「恐らく、自分の中に何か魔力が外へ繋がるドアのようなものに鍵をかけられているんだ。魔力が溢れて外へ出たくて扉をノックしてるのに、鍵が塞ぐから魔力が逆流して具合が悪くなるんだろうな」
「ええと、それって何か封印されているってこと?」
「そう、ゼロからの封印ではなくてな。他の誰かの封印ならまだしもいいが、下手したら呪いだ」
ということは、その呪いを解かないと先へ進められないということになるのかしら。
嘆息をつけば、ラクスターが気分転換代わりに話を変えてくれた。
「そういや、天使の間じゃ雪を見れば奇跡が起こるって言われててな。願いが叶うんだそうだ」
「どうして?」
「普段雲の上にいるから、雪なんてそう滅多に縁はない。オレ達は地上に行けば大体晴れるしな。だから雪を扱うシラユキ姐も、結構尊い扱いされてるらしいな。そういやお前は何の魔物なんだ?」
「そういえば……自分が何の種族だか聞いてなかったわ」
「オレの予測だと、人型に無理矢理にした何かの化身だろうな。炎とイコールするにはジャックオランタンかな。いや、でもそんな低級の魔物は嫁として認められないだろうしな」
自分が何者かは確かに気になる話題であった、二人でわくわくしながら話していると、遠くの空から何かが近づいている。
三体の天使だ――気づくなり、ラクスターは私を自分の背中に隠し、何かしら詠唱を唱えていた。
地面が光り終わり、詠唱が終わる頃にラクスターと見目が似ているのに何処か厳かな青年が中心人物らしく、話しかけてきた。
金髪で青目の青年だ。
「ラクスター様、そこをお退きください」
「嫌だね、何のようだ」
「其方の御方をお迎えにあがりました」
「此処の地主は断るみてえだけど? 魔王に喧嘩売るっていうのかぃ、天使どもは」
「貴方も天使でしょう。ラクスター様どうか、お退きください」
「ざぁんねん、オレはもう魔王側だ。その契約も結んだ。カシラにいっておきな、我が儘全部叶うと思うなよってな」
「貴様、神様に刃向かうつもりか!」
「よせ」
青年の後ろに控えている二人が怒りに震えてるのを、青年は一睨みで制した。
睨んだだけで二人は身が凍り、一礼をし控えた。
ラクスターはその様子に肩を竦めて、嘆息をついた。
「神様はお前をお待ちですよ、アインツ様をお連れになると信じている。どれだけ日数がかかろうとね」
「オレが魔王を裏切って連れてくると思っているのか、あの馬鹿は」
「いいえ、裏切るか裏切らないかじゃない。いつか絶対にお前は、そこのお嬢様を連れてきてくださるよ。それなら早めに連れておいで。情がわいたなら、僕が連れて行って差し上げます」
「なア、兄貴。オレはさあ、昔からアンタが嫌いだった。一つはオレの主張を聞きはするけど全然受け付けないところ。もう一つは……てめえにだけ与えられた六枚もある沢山の綺麗な羽根だ。燃やしたくなるな」
ラクスターが好戦的に笑って手を縦に振り下ろした瞬間、先ほど光った魔方陣が現れて、瞬時に後ろの二人は光りの檻に捕らえられた。光りが鳥かごのような形をなし、天使達を捕らえようとしたのだ。
その中で、兄と呼ばれた天使だけが綺麗に、確かに六枚持つ羽根を羽ばたかせて空へ。
兄と呼ばれた天使は冷たい眼差しで、ラクスターを見つめていた、が、その眼差しには同情も混ざっていた。
ラクスターは舌打ちし、武器を召喚する。大筒を。
「っち、嫌味な野郎だぜ、オレより階級がかつては低かったのによ」
ラクスターはゴーグルを取り出し、大筒で狙いを定める。
「野鳥狩りしてやる」