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第六十八話 陽気の中で

 春の陽気が一週間ほど続いている。

 冬の試練から、一週間は桜吹雪が只管に吹いていた。


 窓辺で治療の一休みで窓辺を見ていると、外にはゼロと話し込むアルギス。

 会話は私達にも届くほどの、少しの声の大きさに感じられた。

 それとも、ゼロがわざわざ魔法で安心させるために届けさせているのかもしれない。


「はっきり言うと、君は僕を絶対許さないだろうと思っていた魔王」

「花嫁との約束だ、叶えたらさっさと人間の世界に戻るよう願っている」

「……魔王、たった一つ頼みがあるんだ。コピーの僕は僕が倒したい」

「ほおう? 何故だ」

「ウルを傷つける気がする。固執しすぎてなりふり構わずウルに接触するだろう、そういうとき負けたままでは嫌なんだ。どうか稽古をつけてくれないか?」

「主人のウルには頼まないのか?」

「君なら殺す勢いで、かかってくれると思うからね。それにウルには闘う姿は似合わなく、美しくない」

「それだけが同感だ、いいだろう」


 窓辺に寄ってきたミディは組み手を始めたゼロとアルギスを見て、目を見張る。

 飲んでいた珈琲を落としかけるくらいには魅入っていて、私はどうしたのだろうと振り返ると、ミディはじっくりと二人の組み手を観察していた。


「あの魔王様についていける人間がいるなんて。魔崩れとはいえ」

「魔力で少し闘う力は補っている部分もあるわ。早さとか、力とかね。でもそれ以外はアルギスの元からの格闘センスみたいね。瞬時に何を打つか、避けるかの判断力といい」

「あの人間育てたら面白い兵になるね……奥方様、本当に人間の世界に戻していいのかい?」

「ミディ団長、それは私にゼロの信頼を裏切れと言ってるようなものよ。聴かなかったことにするわ」


 私の言葉にミディ団長は慌てて「ご無礼を」と一礼すると、まじまじと再び二人の戦いを見つめる。

 唸った後に、観察して私もミディも厄介な出来事に気づく。


「……奥方様の属性は火であるね。だからアルギスの本物は火で……コピーはきっと、水だ。もしもコピーに勝ちたいのなら、コピー以上の魔力を与えなければいけないね。でもあの人間にそれだけの魔力を与えるのなら、身体が壊れてしまうね」

「ええ、だから、早さと力の増強だけをしているの。……ゼロとの組み手で、炎の扱い方や応用を学んでくれるとすごく助かるのだけれど。……無茶な話かしら?」

「奥方様、たった一つ。あいつのコピーにない加護を貴方は与えられるね」

「……回復という力ね。そうね、きっと私の眷属であるというのなら、回復を使いこなせればきっと強いわ。下手したらラクスターより強いのかもしれない。でもミディ、まだ教えては駄目よ。きっと焦ってあれもこれもと、炎の魔術に手をだすわ。あの人は頑張ろうとする人だから無茶をするきっと。今は内緒よ、あの人自身が本当に必要なときまで」

「奥方様もすっかり師範や幹部みたいな顔つきだ、馴染んできたね、魔物に」


 ミディは私を撫でると再び仕事を再開する。


 私は二人の組み手を数分できる限り見つめてから、仕事へと戻った。




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