第六十話 魔崩れ契約と、恋の別れ
「アルギス、いつか人間に戻ると。人間に戻る為の努力を怠らないというのなら、私は貴方の主人に一度なれるわ」
「ウル、魔崩れの主人を変更するつもりか?」
「やり方がないわけではないみたいなの、調べたけれど、方法はあるわ。ただ、私は貴方が人間になって、一般的な幸せを掴むつもりがないならそれはしない。ただ暴走するだけの存在は要らないの。貴方の、貴方が私にしてくれた誠意を返すには。恩返しをするには、っていう手段の一つよ」
「……ウル、君ってやつは。まるで聖母だ。有難う、ウル……ねえ、愛していた。愛していたんだよ、ウル。間違えた愛情の向け方だったけれど。少しだけ、吐き出させて」
アルギスは私を泣きながら抱きしめ、ようやく終わった恋の果てに、安堵した様子だった。
ゼロ自身も、こちらの本体のアルギスはもうこれ以上恋路を続ける様子はないと気づいたのか、安堵しアルギスが私を抱きしめることを許した。
「有難う、僕のか弱い初恋だった人、とても好きでした」
魔崩れの主人を変える儀式を行うこととした。
必要なのは一本の大樹。颯爽とゼロが一本の大樹を一晩で育てあげたので、私は有難く受け取った。
儀式を行う為に、青い炎で魔方陣を囲う。その中心に、広い魔方陣の中心に私とアルギス、それから大樹が存在する。
風がゆらゆらと私のドレスを靡かせ、髪の毛も少し靡いた。
夜の、月が綺麗な日だった。
アルギスに満月の朝露を飲ませ、短剣で刺して流れた私の血を飲ませる。
アルギスから魔力の文様が私へ伸びてくる。文様は足へと絡みつく。
今後私が魔力を提供する証だ。
「黄金に誓え、我が頂に近づくこの者を許し給え、この者は――私の使者となる、この者が私の手だ足だ、指先だ」
私が唱えて、魔法の式を脳内に思い描き、脳裏に過った魔法の式へ返答するとカッと閃光が走り、媒介に使った大樹は一気に枯れ果て生気の無かったアルギスは一気に活力を取り戻していった。
ばちん、とアルギスに薄らと見えていた鎖が断ち切れ、私へと繋がった。
アルギスは私へ跪き、忠誠の挨拶をする。
それにて儀式は終了し、それまで広がってた黄金の炎は消え、青い炎も一瞬燃えさかってから消え灯りが一気に月明かりだけになった。
私は魔力を大量消耗したので、倒れかけたがアルギスが支えてくれた。
「……ウル、有難う」
「はー、ったく奥様のお人好しもここまできたら、神様候補っつーのも納得がいくほどのバカさ加減だ。アルギスいいか、テメェはオレの次の地位だ。オレより下の地位。直属の部下はオレで、テメェはオレの部下だ。いいな?」
「人間に戻るまでの間だ、構わないよ堕天使様。そういえば、コピーを作られる前に知ったけど、君たち七つ精霊との交渉方法が見つからないんだって? 僕なら元人間だ、教えることができるよ、君たちを人間の共存に有利にしよう」
「どうして教えるつもりになった?」
「……このまま、ヴァルシュアに何も出来ないで負けっぱなしで利用されただけってのは、気分がよくないからだ。助けてくれたウルの役にも立ちたいし」
アルギスがラクスターから、ゼロへと身体を向けて、お辞儀した。
ゼロが近づきアルギスから、私を奪うがアルギスは最早抵抗すらしなかった。
アルギスの儚い笑みが記憶に残る。
「お妃様に、祝福を――七つ精霊との縁は、僕から君たちへの結婚のお祝いだ」
城へと戻るととんでもない報告が待っているとはこのとき、私達は思いも寄らなかった。
アルギスへ話題が向いている間に、シラユキが拉致られたのだった。




