第五十八話 幸せな祈りを
次の日になり。体調と魔力を確認した私はラクスターを連れて、まず最初にゼロに会いに行った。
ゼロの部屋は朝だからか灯りを消していて、ベッドの上で上半身裸で横になっている姿に目のやり場が困った。
ゼロは私と目が合えば、ふ、と笑いかけてシャツを羽織ってくれた。
「先に、最初に余のもとへ来たか」
「ええ、それが筋だと思ったし、心配だったから。もしね、私の気持ちを疑うのなら、アルギスのことについて話そうと思って」
「……申せ」
「あのね、私。アルギスに世話されるだけであの人のこと何も知らなかったの、あの人の家族でさえ本当はどうしてるのか分からない。過去も何も知らない。アルギスはただ、城からの命令で来たってことしか私あの人について知らない。それでも、アルギスは誠意を私に尽くしてくれた。そして、尽くしすぎてしまった……依存になってしまった。その状態を、解きたいの」
「……人間に戻したら魔崩れをどうするつもりだ」
「……分からない。ただ、アルギスが好きなようにはさせたい。……アルギスが私を好きだというのなら、それは応えられないってはっきり伝えるわ」
「……ウルよ、お前はまだ年幼く若いのだ。……男を、知らないね?」
「ゼロ?」
「良いか、何が何でも、何を犠牲にしてでも手に入れてやるという人種も少なからずいる。余のようにな。もしお前が真っ先に来なければ、余はお前を最早軟禁していたかもしれぬ。……そういう、力ずくだとて、あり得るのだ。それでも、アルギスの意思に任せる? どうして、甘いんだお前は」
「……私は、私の好きな寝物語は全部ハッピーエンドを選んで貰っていたの」
唐突な切り返しに、ゼロは眉を寄せ私を見つめて黙り込んだ。
私は震える手に力を込めて、ゼロの両手を握りお願い事をするように見上げた。
「私は、王子様がお姫様と愛し合う、ハッピーエンドがイイ。王子様が冷たくなったり、お姫様から愛情がなくなるなんて嫌よ……皆が幸せになれる世界が、好きなの。ゼロ、そこには貴方も含まれていて、貴方が一番幸せでいてほしいわ」
「……ウル」
「……勝手なこと言ってるのは分かってる。でも、アルギスにもきっと、そういうお姫様が現れるはずだから。今はちょっと見つけられなくて、道を踏み外してるのよ」
「ウル、お前に夢を見させろと。そういうことか? 甘い持論で夢にくるまれて生きたいお前を、そのまま持論を持たせて守れと」
「そういう私のことは、ゼロは嫌いじゃないと思っているから」
「強かだな」
ゼロは笑って私の頬やおでこ、唇へキスをしてから、頭を撫でて深く深呼吸した。
ようやく落ち着いてくれたらしい。
ゼロは後ろに控えるラクスターに命じる。
「余もついていく。ラクスター、お前はアルギスの部屋に入ったとき、扉で見張れ」
「オレに命令できるのは姫さんだけなんだけどなあ、って言いたいけど、お前の言うことならうちの姫さん何でも叶えちまうから頷いてやろう」
「ほら、今日も君は他の男を誑かす」
ゼロの言葉に、私達は噴きだして笑い合った。




