第五十三話 一人にはならないよ
「なるほど、つまり七つ精霊から認められた者勝ちであり。他の魔王も動いている、と。シラユキを気にした人間の王子も何かをしかける可能性、か。……精霊からの認可はまあ人間達の気持ちを考えれば納得は行く。日頃敵対していた者の是非を問うには、信仰している精霊に問うのが一番だと。……ただ、その王子どもが頂けない。実に宜しくないな」
「よりによって、うちの華ともいえる奥様と、シラユキ姐に色目使ったんだぜ。それどころか交渉のネタにしようとしてる、横から。人間の王の許可無く。到底信頼できねえ証とも思うがな」
「何より厄介なのが、お前の元上司だ、ラクスター。ウルが神様候補であれば、この機会をみすみす黙って逃す程、神は無邪気ではないだろう。そうですか頑張ってくださいで終わる程、寛容ではないのは想像に容易い」
「天界は多分、オレと奥様でしか行けない場所だと思う。他の精霊はまだわかんねーけどな」
「ともすれば……精霊との交渉か。朝昼夜はそれぞれ個々に認められる存在が必要なはずだ。シラユキ、お前には夜の精霊を任せよう」
「はい、有難き光栄に御座いますわ」
「昼の精霊は、ミディに任せておこう。朝の精霊は、ラクスター、お前に。それと勇者の進言通り、四季の精霊は余とウルで説得をしてみようではないか」
「それが一番かと思いますわ。それにしても、朝昼夜の精霊はどうやって認可させればよろしいのかしらね?」
「それを調べるのが得意なはずであるよ、ミディは。ミディには治癒団から少し仕事を離れて貰い、調べさせろ。きっと今の時期は治癒が必要な魔物はそこまでいないはずだ。勇者自体が戦闘を仕掛けていないのだからな」
「御意に御座います」
シラユキは一礼をし、早速伝令を届けに行こうとして部屋を出ようとしたが、ふと部屋にとどまろうとしていたラクスターに気づくとラクスターの耳を引っ張って一緒に執務室から出て行った。
「いって、いてて!! 何だよ、オレは護衛なんだよ!」
「久しぶりの二人きりなのだから、気を利かせなさい! 子供じみた嫉妬で恥ずかしくないの!」
「うるせえ、相手のいるやつにはわかんねえよー! この気持ちは!」
執務室まで聞こえる賑やかな会話に、私とゼロは顔を見合わせると噴きだしてしまった。
ゼロは「来い」と腕を広げたので、少し気恥ずかしかったけれどすす、と近寄り腕の中に収まる。
ゼロは私を膝に座らせ、腕の中に収めると首元から私の匂いを嗅いで、くす、と笑った。
「他の男の香りはしない、宜しいことだ」
「そ、そんなのありえないわ」
「どうしてだ? ウル、お前は魅力的だぞ」
「だ、だって私は……私には貴方がいる」
気恥ずかしさで蕩けてしまいそうな顔を両手で押さえると、ゼロは両手を退けて私の顔を間近にまじまじと見つめる。
瞳が本当に近すぎて吸い込まれそうだと思った瞬間には、キスをされていた。
じんわりと心が満たされる感覚。それで初めて私は寂しかったことに気づく、やっぱりゼロと一緒にいたかったのだと。
ゼロは最初からそれを見抜いていたのかもしれない、キスを暫し堪能するように啄んでから顔を離すと、ゼロは喉奥で笑った。
「茹でられたような顔色だ」
「照れてる、の」
「ウル、さてお前には寂しい想いをさせてしまったかもしれぬが、一人であると感じたか? 旅の最中」
「……いいえ」
「余がお前を忘れるような心配は?」
一度だってしなかった。私は目を見開き、ゼロの衣服を引っ張る。
「覚えていたの? 私が、一人になるのが怖いってこと」
「お前に置いてはそこが一番恐ろしい部分であるのならば、余は覚えるべきであるのだよ。夫婦というのであるのなら。なア、我が花嫁よ――いつだってお前を置いてはいかぬよ」
ゼロは笑って優しく私の頭を撫でる。
「今すぐに消えろとも思わない、その恐怖心については。ただ、少し和らげたり、消えつつある実感が出来たらいいなと思っただけだ」
「ゼロ……有難う、大好きよ」
私はゼロの首根に抱きつき、感謝を。精一杯の感謝を告げた。




