第五十二話 木製の刻印入り指輪
朝起きて朝支度を調えると、私達とラクスターや兄様で合流し朝ご飯を終えると、陛下へ顔見せして帰ることを伝えた。
陛下は頷き了承すると、馬車を出そうとしたが私達はすぐに帰りたいので、自分たちの足を使うと伝え遠慮する。
陛下は少しだけ寂しげに笑って頷き、あとは兄様との別れだけだった。
「いいか、オレのお勧めは朝昼夜の精霊はお前たち二人とあの蛇で担当し、四季の精霊をウルと魔王のバカで担当することだ。相性はきっといいはずだ、魔物だってその七つ精霊と共に生きてきたんだからな。頑張れよ」
「有難う兄様、頑張ります」
「シラユキ、それと……簡単なもんだけど、さ。これ受け取れよ」
兄様は手からおずおずと照れた様子で木製の指輪を手から取り出し、シラユキの手に嵌める。
木製のリングには人間達の信仰する精霊のお守りとなる印が刻まれていて、シラユキはまじまじと嬉しげに微笑んで大事そうに手を包んだ。
木製のリングは中々調整がむずかしい、作るのも難しい指輪だと聞いたことがある。
王子の言動に焦った兄様は、慌てて作ったのかな。
「しょうがないから受け取ってあげる。宜しいこと、貴方は他のに心奪われるんじゃあないわよ」
「オレの女王からの命令とあれば。その指輪は一回、厄除けになってくれるよ」
兄様とシラユキはくすくすと互いに笑って、そこから私達魔物はサークルを描き、一瞬で魔王城へと戻った。
「あー、どこもかしこもラブラブで息しづらいわー」
「ラクスターからかわないの!」
「だってこの後は姫さんと魔王のラブラブ見るンだろ? はー、胸焼けしそう」
ラクスターへもうっと怒ると、ラクスターはげらげらと笑っていた。
シラユキの表情をそっと伺うと、私達の喧噪が聞こえないほど慈愛に満ちた顔で指輪を大事そうにいつまでも抱えていた。
はっとしたシラユキが「帰りましょう」と慌てて魔王の城の中へ入った。
城の中へ入れば、魔物達がどうだった? と尋ねるように姿を見かける度噂をする。
詳しいことは後でね、と皆に手を振ってゼロのいる執務室へ向かう。
執務室には、ゼロが唸りながら書類を見ていて判子を片手にくるくると回していた。
私達に、いえ、私に気づくなりゼロは穏やかに笑みを浮かべて出迎えてくれた。
「おかえり、さてゆっくりと話をしよう、ウル。遠いところまでよくぞ行ってくれた」
「それ、オレ達もなんだけどなあ」
「先陣をきったのはウルであろう? シラユキも何かいいことがあったのか、随分と朗らかな顔をしている」
「勇者といちゃついてたんだよ、シラユキ姐は」
「ラクスター、余計なことは仰らないでくださいませ! 謹んでご報告申し上げますわ、全ての顛末を。お時間宜しいでしょうか、魔王様」
「ふむ、もうすぐ茶の時間でもある、休憩がてらに聞こうか。ああ、ウル。話が終わったらお前は此処に残るように」
「? はい、分かったわ」
にこーっと少し幼い笑みを浮かべたゼロは、私を見つめてから咳払いし、シラユキに話を促した。