第五十一話 シラユキの意思としつこい王子
王様との食事の席には、殿下たちは見当たらなかったのでほっとした。
シラユキもそれであればと警戒心をほんの少し解き、王様と少しだけ話をすると食事を終え、私達は部屋に戻る。
食事の席ではゼロのことをあれこれ聞かれたが下品な話をするような王様では無かったので、不愉快ではなかった。
ただ、心配なのはあの殿下達。
アルベルトは引きさがることをすんなりとしてくれそうだけど、ジェネットは到底そう見えなかった。
兄様の男の見せ所だと、内心兄様を応援したい思いでいっぱいになる。
シラユキだって兄様にはまんざらでもなさそうだもの!
男女で部屋を別れて与えられたので、私とシラユキは同じ部屋。
とはいえ、魔物同士で少し話したいとラクスターからの提案に私達は頷き、ラクスターの来訪を許したのだけれど。まさか部屋に既に殿下がいるとは思わないじゃない。
しかも、やっぱり諦めの悪いジェネットだけがいる。
「ご機嫌よう」
殿下はにこやかに微笑んでシラユキの苛立つ表情を愉しんでいる。
ラクスターが舌打ちし大筒を構えながら威嚇した。
「人間の王子、いい加減にうろちょろするのやめたほうがいいぜ」
「そうはいかないんだ、とてもとても美しいから。あまりにも見慣れない美しさで、極上の桃のようだ。つい誘われる」
「誘った覚えはなさそうだぜ、うちの姐さんは。無言で追い出して、とオレに命令するほどにな」
「朝昼晩の精霊と縁があるんだ、私は。君たちをヴァルシュアより有利に導く行為が出来ると思うんだが、それでも断るかね?」
「元天使の口から語らせて貰うが、縁故なんざお断りだ。神の奴ってのは何だって見てらっしゃる。悪い行為も狡い行為も。帰りな、坊や」
「……やれやれ、折角いい話を持ってきたのに。頑なだな。いつでも気が向いたら私の部屋にくるといい、シラユキ。オマケつきでも構わないよ、私は」
「帰って」
そうっとすれ違いざまにシラユキの肩に手を載せると、シラユキは侮蔑の表情で手を払いのけ小さく言葉を返すなり殿下を追い返した。
部屋の扉に鍵をかけたところで、シラユキは息をつく。
「参りましたわね、予想外の出来事です」
「シラユキさん、大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫。ただ……問題はこの関係性が人間との交渉に悪影響が出るか、ですわ。私はどうすればいいのか分かりません、身を渡すことは簡単です。簡単ですけれども……そこに私の意思を介在させるのであれば、嫌です」
「嫌だから関わりたくない、それでいいのよ。無理に関わる必要なんてないわ。もしどうしても必要だとしても、そんな関係性必要な交渉なんて意味ないもの」
「奥様……ッ!! 奥様はやはり、健気で美しいお心の方です。私、奥様と出会えたことを誇りに思いますわッ。さて、ラクスター。話したいこととは何ですの?」
ラクスターもめんどくさそうな表情をしながら、一枚の羽根を取り出した。
行き道中で見た時より、もう一枚増えている。
「そっちはそっちで大変そうだが、こっちはこっちで大変だと思う。天界で神の野郎はきっとご満悦で、奥様が来るのをお待ちかねだ」
「奥様に一体どうして……」
「奥様が神様候補生だからだ。人間どもの中から一人か二人選び抜いて、そいつが死んだときに万全に準備を済ませ迎えに行く。それが奥様に当てはまっていた、これはオレの憶測だが神はまだ諦めてないだろう。この羽根に、期待が籠もっている。おいでと手招かれてる」
うんざりとしながらラクスターは言葉を続ける。
「だが人間側から条件を出されたからには向かわないといけない。兄貴の願った通りだ、オレは奥様を抱えて多分天界に行くのだろう」
それぞれ顔色が重くなるけれど、私は一度ぱんぱんと手を鳴らし、暗い空気を打ち消そうと努力する。
「とりあえず、今回は話を持ち帰りましょう? 人間に合わせて移動してきたのだから、明日帰るときは魔物の手を借りて帰るのでもイイと思うわ。話を持ち帰って、ゼロの話も聞きましょう。明日までであの王子様が何か出来るとは思えないの。何か仕掛けるとしたら、朝晩昼の精霊への交渉途中よきっと。それと、神様はきっと最後の順番で大丈夫だと思うわ。全て見ていてくださるのなら、きっと待ってくださる。そこでもしかしたら、私を魔物として認めてくれるかもしれない。予測も大事だけれど、今は前向きに考えましょう」
「奥様……そうですわね、しっかり、しなきゃですわ」
「ううん、しっかりしなくていいってことよ。気を抜いて行きましょう? 明日帰るのだから、明日まで気を張り詰める必要はないわ」
「ご立派になられて、この私感動致しました……ッ! では、そうね。少し力んでいた肩を休ませて頂きますわ。有難う、ラクスターももう部屋に戻っていいわ」
「おう、じゃあ何かあったら呼べよ。オレと勇者は向かいの部屋らしいから」
「また明日。おやすみ、ラクスター」
ラクスターは部屋から出て行き、私とシラユキは魔物の城へのお土産を何にしようかと気分転換に話すことで楽しみを思い出した。




