第四十七話 巫山戯る勇者
翌日、勇者一行が休んでる宿を見つければあとは簡単。
現れて指を鳴らせば記憶が戻る。役目を引き受けたのは私とシラユキとラクスターだった。
シラユキは自ら挙手し、ラクスターは私の護衛として。私は兄様の記憶の引き金になりやすいだろうからと一緒に来た。
寝静まる時間に一緒に皆で兄様の部屋に入る。
兄様の部屋は散らかっていて、とても一晩で汚したようには見えないくらいの散らかりよう。
生前苦労して兄様の部屋を掃除していたアルギスを思い出した。
「それでは声をかけますわ」
「起こすのね、分かった」
「記憶取り戻したとき、シラユキ姐にどんな顔すんだろこいつ」
「ラクスター、からかい癖は今はおやめくださいますよう」
シラユキはじと目でラクスターを見やると、兄様を起こし兄様が緩やかに瞬きをしてから私達の姿に気づくと側にある剣を手に取って身構えるが私を見て戸惑う。
その隙にシラユキが指を鳴らすと、兄様は頭をゆるゆると振りながら、ぼんやりしてから瞳に光を宿しはっきりと視線の中から敵意を消していた。
「やだ、夜這い? 大胆」
「おふざけはよして! 少しねお話しがありますのよ、とっても大事なお話」
「夜中にたたき起こすほどの? ウルがそろそろ結婚するとかか」
「いえ、その結婚に邪魔な者が二名おりまして。我々ゼロ様の陣地にいる魔物は人間との和解を望むこととなりましたわ。この内容をどなたにお告げすればよろしくて?」
シラユキの言葉に兄様は眠気が一気に飛んだのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返してからシラユキに抱きつく。
「っと、なると! オレとお前も祝福されるな!? 愛してる!」
「おふざけは! おやめくださいと!」
「巫山戯てるようにみえるなら、真剣に見えるようこれからを頑張るよ。そうか、ウル、お前頑張ったんだな」
兄様はシラユキからそっと身を離すと私を抱き寄せ頭を撫でてくれた。
久しぶりの兄様からのスキンシップに落ち着く。
兄様は私の頭を撫でながら考え込み、ああでもないこうでもないと唱えてから、思いついたことがあったのか声を上げた。
「そうだ。それなら王様に会ってみるか!? 王様にこのオレが付き添って言えば信じてくれるだろうに!」
「どの王様に? 人間の王様はいっぱいいるのでしょう?」
「まずは世界を代表してオレを勇者に任命してくれている、グレアル王国の王様だ。ここが一番でかい国だよ」
兄様は欠伸をしながら、ベッド脇にある紙を手に取ると念じ、息を吹きかけ鳩へと変化させた。
白い鳩となった紙は、そのまま窓から飛び立った。
「事前のお知らせはこれで大丈夫だ。アポはとっておけたと思うこれで。一緒にグレアル王国に行こう、ウル」
「兄様、有難う御座います。そういえば兄様のほうはご無事ですか、ヴァルシュア様やユリシーズ様の被害にあってませんか?」
「ああ、ユリシーズのとこはこの間戦い申し込んで五分五分で引き分けたから、あっちは何かしでかす力も何もないだろう。問題はヴァルシュアだ。あいつ、本当なら手間取らない奴なんだ。だけど、式の時に吹っ飛ばされただろう、オレ達。おかしいなと思ってまた手合わせ願いにいったんだ。……魔崩れどもから生命力を吸収しまくって、とんでもねえ化け物の強さになってた。ありゃあ下手したらゼロよか強いぞ」
兄様は頭をぼりぼりとかき、ランプに火を宿して一同を照らしてから口元を一文字に結んだ。
「人類の敵は、恐らくヴァルシュアとなるだろう。ゼロが敵にならねえのなら。ゼロの敵もきっとヴァルシュアになるだろう、人間と手を組むのであれば。オレと魔王が並んで闘う日もこうなりゃ近いのかもしれねえ。ウル、お前は覚悟をしておけ」
「……アルギスが倒される覚悟ですか、兄様?」
「それもあるが、根本的には闘って生き抜く覚悟だ。何が何でも生き抜いて立ち続けてやるって根性を、お前はそろそろつけなさい。魔物であるというのなら。それから、ゼロの花嫁だというのであれば」
兄様は悩んだ末に言葉を選んで私を真っ直ぐと見据えて、両肩に手を置いた。
生真面目な兄様の表情が、ランプで照らされ真面目に言葉をかけてくれてるのだとすぐ分かる。
「アルギスを倒すのはお前になるかもしれないという覚悟もな」
少しだけ悲しげな顔の兄様に、もしかしたら私が人間であれば、本来はアルギスの恋路を応援したかったのかもしれないと感じた。




