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第四十三話 目の前で逝かないで

 ラクスターが水を汲んでるちょっとした間に山賊が現れた。

 私の背後から現れ私の口を真っ先に塞ぐものだから、悲鳴が上げられない。


「大人しくしてな、へえ魔物にも上等な女に似た奴もいるんだな」

「俺この魔物なら抱けるかも」

「中々いい肌してるよな、すべすべだ。少し楽しもうぜ、魔物のお嬢ちゃん」


 ゼロとは違う。ゼロが触れるときと違って、全然ドキドキしない。

 気味が悪くてぞわってするだけ。

 涙目で叫びたくても叫べない状態に堪えていると、やがて山賊達が騒ぎ出した。

 どうやらラクスターがすぐに戻ってきたらしく、山賊達と一人で応戦している。


「てめえら、そいつを離せ!」

「堕天使とは珍しいな! 随分と綺麗な羽根をしている、もげば金になるかもな!」

「そんなことさせてたまるかよ、おい、そいつを……ッウルを離せ!」


 ラクスターが幾人かを剣でばったばったとなぎ倒すと、最後の一人になった男が私を抱えて逃げようとするものだから、ラクスターは羽根で飛んで先回りする。


「おい、いい加減にしろよ人間」

「ひっ、ぶ、武器を捨てろ、この女が大事なんだろ!? なら……大事にしまっておけばよかったな?」


 山賊は私を激流の川の中に落とすとさっさと逃げた。

 ラクスターは大声をあげて私に手を伸ばすけれど、どんどん身体は沈んでいく。

 純水であればあるほど、浮かぶのが難しいと昔本で読んだ。

 私の服は水分を吸っていってどんどん身体が重くなっていく。

 意識を失いそうになったところで、ようやくラクスターが翼を羽ばたかせながら引き上げてくれた。


「ウル、しっかりしろ、ウル!」

「貴方……そんな、泣きそうな顔もできたのね、っふふ……」

「ウル……っち、しゃーねえ」


 そこからはあまり覚えていない、意識が途絶えていったから。

 意識を取り戻したとき、私の衣服は剥がされていて、代わりにバスタオルが私に巻かれていた。

 驚きのあまり声をなくして顔を赤らめていたら、火に薪をくべていたラクスターを見つける。

 ラクスターは私が意識を取り戻したと知るなり、泣きかけの表情で力一杯抱きしめた。


「ラクスター、あの、服は」

「今乾かしてる、ったく、お前はよお……心配かけさせるなよ。あんなひらひらした服、川で濡れて着たままだったら風邪引くにきまってんだろ!」

「吃驚した、ね」

「びっくりしたー、じゃないっつの!! こっちは……お前がまた死ぬかと……くそっ、オレらしくねえ」


 乾いた服を私に投げ渡すとラクスターは背を向けた。

 背を向け何かに対して葛藤している様子だった。私はバスタオルからゆっくりと服に着替えると、もう大丈夫とラクスターに声をかける。

 ラクスターは赤い顔で私に振り返ると、大きなため息をついた。


「なあ」

「何?」

「……死ぬなよ、オレがいるところで」


 それはラクスターの精一杯の悔しさを表現したものと、先ほど守れなかったことへの詫びだった。



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