第四十話 ユリシーズからの贈り物
ここのところ、ラクスターが私を避ける。
護衛はしてくれるけれど、話もしてくれないし、話しかけても素っ気ない態度。
素っ気ないというよりかは、何かに苛立っている態度だった。
何かに気づいたシラユキは「心の整理がつくまではほっといて、気づかないふりをしたほうが宜しいですよ」と私に微苦笑してくれた。
察しの良いシラユキがそう言うのならそうしたほうがいいのは目に見えて明らかではあるのだけれど、私はとても気になってしまう。
それまで親しみ溢れて、犬のように懐いてくれていた存在だったから。
小難しい顔をして唸るラクスターの顔ばかりを見ている気がした。
ラクスターが部屋の外で見張ってる間に、執務室にいるゼロに相談してみれば、ゼロはゼロで悲しげに笑っていた。
「そうか、あいつもこちら側か」
「こちら? がわ? ゼロは何か分かるの?」
「あいつが結論を出して何か言うまでは、見逃してやろう。ウルもあまりちょっかいかけてはいけないよ」
「シラユキさんにもそれ言われたわ」
二人して共通の認識を持っているみたいでずるい。
私が頬を膨らませて拗ねると、ゼロは笑って両頬にキスをしてから「治癒団の仕事があるのだろう、いってくるといい」と声をかけようとしていた。
その刹那、窓ががらんと大きく突風で開き、私達は驚く。
ゼロは目を眇めて、私を懐へ隠してから風に話しかける。
「ユリシーズ、突然の来訪は困るな」
『ゼロ、許せないのおおお……私のものにならない貴方が、とても許せないのおおお……私の物にならないのなら、いっそ……呪われちゃえばいいのよおおお……』
「ッ、ウル、耳を塞げ!」
耳を塞いだ上からゼロも私の手に手を重ね、音が聞こえぬようにしてくれたというのに、金切り声が聞こえた。
大きな金切り声が室内の書類を舞い散らして、突風は去って行った。
窓がばたばたと少し揺れていた。私は瞬いて、少しキーンとする耳を押さえながら、ゼロを見上げるとゼロは額に赤い刻印が刻まれていてやがて顔面蒼白にし私にもたれ掛かり倒れる。
「誰か、誰か! ゼロが!」
「奥様、今の声は?! 呪いの気配だったぞ! って、魔王どうした!」
「……蒼雫の花を」
ゼロはラクスターと目が合うと、切ない笑みを浮かべ、私の頬を撫でた。
「ラクスターに、余がいない間は守って貰え。心根は、他の誰より信用出来るだろう、お前を守るという点に置いては。嗚呼、悔しいな。お前を一人にしたくない……」
「ゼロ、ゼロ!? 嫌よ、駄目、起きて、眠らないで!」
「奥様、駄目だ。魔王は、混沌の呪いにかかってやがる……」
「混沌の呪い?」
「魔王ユリシーズだけが出来る呪い。相手を深く長い眠りにつかせられるんだ」
ゼロは既に眠っていて、顔色は青白いままである。
私はゼロを支えながら、ラクスターに命じる。
「シラユキさんと、ミディ団長を呼んできて」
「分かった! 此処で待ってろ、姫さん!」
ラクスターは大慌てで羽を使って飛んでいった。
そういえば、久しぶりにラクスターとまともに会話出来た気がする。
ゼロの顔色を見て、私は胸に不安が沢山募るのであった。