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第三十八話 呪いのクロユリ

 星流れ二日目、アルギスが迎えにくるまで、馬車の上でラクスターは胡座を掻いて座っていた。

 イライラとした様子で大筒を肩に担ぎ、二人でアルギスを待っていた。

 アルギスはやがてやってきて、ラクスターに気づくと目を細めてから私へ視線を置き、微笑んだ。

「やあウル、素敵な日になったね。君と僕が、健康的にデート出来る記念すべき日だ。君の病も今はないんでしょう? 楽しめるね?」

「……楽しめるのはお前だけなんじゃねえの? 姫さんを脅すような真似しやがって」

 ラクスターが私の代わりに、アルギスへ喧嘩を売る。

 アルギスはラクスターの言葉にくすくすと笑ってから、ラクスターを見上げ丁寧にお辞儀をする。


「堕天使様はよほどお怒りか。まあそれだけのことをした自覚はあるよ。行こうか、ウル。さあ、君と僕とでデートをしよう?」


 アルギスから手を引かれて私は馬車の中へ。ラクスターはそのまま馬車の上にいて、馬車はラクスターの魔法で手綱なしに動き出した。


「ねえウル。あの堕天使様は君にとってどういう存在なのですか?」

「え? 頼りになる仲間よ」

「そう、ただの仲間……見間違いですかね。それならそれでいいですが、どうかお気をつけを。堕天使とはいえ、天使は天使。人の魂を刈り取る存在ですから」


 アルギスの言葉に疑問に思いながら、私は窓辺から見える景色を見やる。

 星流れの街につけば、ゼロと過ごした日を思い出して僅かに和む。

 アルギスはそれが気に食わなかったようで、私の手を取り町中へ進む。ラクスターも羽根を隠ししまうと、一緒に遅れてからついてきた。


「本当はアクセサリーを贈りたいところだけれど、真っ先に魔王から捨てられそうだから、花を贈っても宜しいですか、ウル?」

「……何を贈っても私は喜ばないわ」

「本当に? ウル、よく思い出して。死ぬ前に貴方が一番に頼って、心の支えにしていたのは、僕でしょう? 僕のこと、お好きでしょう?」

「自信満々な貴方のこと、今は嫌いよ」

「お厳しい」


 楽しげにアルギスが笑うと、私まで釣られて笑う。

 生前を確かに少し思い出す、楽しく過ごしたあの日々を――。

 それでも私は……。


「ウル、呪いって知ってますか。他人がかけるのではなく、自分がかかるものとしての」

「前に……ゼロが呪いを感じるって言ってたわ」

「僕の前で今日一日、他の男の話はなしですよ。いけない人だ。……呪いというのはね、誰かが恨んでかけるものじゃなく思うんです。自らが経験則により、ついてしまう足枷。それが呪いだと僕は思います」

「……その呪いがどうしたの?」

「僕は自らの呪いを持っているんですよ、魔崩れのことじゃなくてね。……貴方を愛しすぎたあまりに、貴方の気持ちを大事にしなかった。先日の非礼を詫びさせてください。しかし、それほどに貴方と二人で。二人だけで、昔のように何気なく話をしたかっただけなんです」

「……許したくは、ないわ」

「……それも知ってます。貴方のことなら全部全部知っている。だからこそ、貴方が昔僕が愛した貴方ではなく、魔王を愛する貴方に変化しつつあるのは悲しい。今ならまだ止められると思ったんです。僕のことを、愛して欲しかった」

「どうして? 私が好きだから、だけじゃないでしょう」

「僕も貴方同様、寂しかったのです。世界中でたった一人という感覚を、貴方が死んでから味わったので、拘っているんです。一人にならない為には、貴方がきっと必要だと」

「アルギス……貴方、心の何処かで、今はもう何をしても嫌われるって分かってない?」

「ふ、ふふ、ウル。人にはね、分かっていてもどうしても止められない行動っていうのが、あるんですよ。脳でも心でも分かっていても、抑えられない衝動が」


 アルギスは花屋さんからクロユリを買うと、私に渡した。


「僕からの呪いをどうぞ、お受け取りください、僕のたった一人のお姫様」


 笑いかける笑顔は、心から苦しそうだった。



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