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第三十五話 水を差す人

 お弁当を全部食べきると、私達は帰り支度を整えて帰ることとなったのだけれど……城へ戻る途中の道にて。

 雨が降ってきて、橋のかかってる川が増水し危険なため私達は立ち往生する。


「ふむ……雨がやんで川か落ち着くまで、何処かで宿を借りるか」

「それって……泊まりってこと?」

「そういうことになるな。テレポートしてもいいのだが、人が何処で見ているか分からない。見知った顔や馬車になるのはリスクが伴う。何処かで一晩過ごした方がリスクもない」

「人里に戻るの?」

「いや、貰った地図によれば確かこの辺りに、山小屋があったはずだ」

「そ、そう……」

「……安心しろ。式を挙げるべき日までは、手出しはしない。紳士である余の方が好きだと言うならな?」

 こくこくと私は頷くとゼロは「いいこだ」と私の頬を撫でてくれて、そのまま馬車を山小屋の方角へ向かわせた。

 手綱を引かれないのにうまく走る白い馬車は、山小屋に着く頃には泥まみれだった。


 私達は山小屋に入ると、ぶるっと身体を震わせ、ゼロの魔法の火で薪を燃やし身体を温める。

 ゼロは衣服の上半身を脱ぎ、火で乾かそうとする。

 私は顔を真っ赤にしてゼロから視線を外す。

「ウルよ、お前も脱げ。風邪を引いてしまう」

「えっ、で、でも」

「お前には代わりの服を宛がう、だから脱ぐと良い」

「そ、れなら……」


 私が脱ごうとした途中で誰かが入ってきてゼロは殺気立った。

 それもそのはず、入ってきたのは――アルギスだった。




 私は胸元を隠してアルギスを驚いた眼差しで見つめていると、上からゼロに新しい服で隠され、アルギスに警戒で満ちた声を向ける。


「何故お前が此処にいる?」

「この街の視察だ、数日後、襲いに行くようヴァルシュア様から命じられている」


 二人が会話してるうちに慌てて私は、ゼロの背中に隠れて着替える。


「あの街は襲うな、駄目だ」

「どうしてだ? 資源も豊富で、綺麗な水の川も側にある。ヴァルシュア様が狙うには相応しい街だが」

「お願い、やめて。あの街に、私達、星流れのとき見に来るの」

「へえ? 魔王ゼロとデートかぃ、ウル」


 着替え終わった私がゼロの後ろからひょこっと顔を覗かせると、いつもより落ち着いたアルギスがそこにはいて、私と目が合うなり微笑んでくれた。

 アルギスはそれでも視線には嫉妬の色が宿っていた。

「それなら尚のことあの街を壊してやろう」

「駄目! お願い、アルギス!」

「……星流れは三日間あったな、確か。それなら、ゼロ、ウル、取引しましょう。ウルが僕とも見ること。それであの街は見過ごしましょう」

「……卑怯な真似を」

「いつもよりは友好的なんだけれどなあ、だいぶ」


 忌々しく睨み付けるゼロに、アルギスは感情を一つも浮かべない涼しい顔をして私に視線を向ける。返事を待っているのだろう。私は、やむを得ず頷いた。


「条件があるわ、私は護衛を連れて行く。二人きり、ってわけにはいかないの」

「ああ、いいよ、それで。さて、そろそろ僕もその火に当たっていいだろうか、ここは山小屋だ。誰もが火に当たる権利はある。魔崩れもな」


 ぱちっと薪の火の粉が跳ねたところで私はびくっとし、ゼロの後ろに隠れる。

 ゼロはアルギスへ吐き捨てるように「好きにしろ」と告げた。


 アルギスは干し肉を木の枝に刺し、火であぶると齧り付く。

 暫く沈黙が流れていたのだけれど、ゼロがイライラしていくのが分かる。


「魔王ゼロは、随分とウルに弱いのですねえ。牧場で暢気に草を食べる牛みたいに愚鈍になる」

「アルギス、お前とて牙を抜かれた狼のようではないか、まるで犬だ」

「……しかし星流れですか。嫌な日ですね」

「っふ、幸せになれる言い伝えのある日が嫌な日だとは変わっているな」

「ウルには嫌な日でしょう? 勇者が選出されて、僕がくるまで一人になるのが決まった日だ」


 黙り込む私達に、アルギスは笑いかけて続ける。



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