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第三話 祈るときは恋い慕うように。

「躾のなってない嫁だ、いざというとき祈るのは余にしておけ」

「ゼロ!」

「知り合いか、この魔崩れは」

「魔崩れ? 何それ、この人は……私が生きていた頃は人間だったんだけれど」

「強い願いから魔物と契約し、魔物に気に入られたあまりに魔物の送る魔力と身が同化しつつある者のことであるよ、魔崩れというのは。魔物でもなく、人でもない。半端物よの」


 ゼロは胸元から取り出した薔薇に息を吹きかけると、薔薇が大きくなり、ゼロは薔薇に私を乗せ宙へと飛ばした。

 ゼロは愉快なものでも見るような笑い方をしている。


「勇者よりよほど手応えのありそうな力を持っているな」

「ウルを、ウルを返せ! ウルは僕の人生となるべき人なんだ!!!」

「不思議だな、そうであれば生きてる頃に思いを告げ、結ばれるなり助けるなりすればよかったではないか。死んでから欲しがるとは幼稚だな」

「五月蠅い、炎牛め!」

「嗚呼、そうだ。牛だとも、冥土の土産に見せてやろう」


 ゼロはごきごきと身体を変形させ、巨大な図体の黒い牛へと上体は変化を遂げ、熱い炎が辺りを包みそうになる。

 窓からシラユキが、まずいといった顔つきをして、森に火がつかないように氷の結界を生み出す。

 氷が生み出される度に炎が燃えさかっていき、燃えさかった炎に合わせて氷が生み出されていく不思議な景色。


「どうした、魔崩れ、かかってこい」

「この、人類の敵め!」


 アルギスが兄である勇者と同じ言葉を吐いてるというのに、禍々しいオーラは消えずして、剣戟が繰り広げられる。

 アルギスの剣に最初喜んで闘っていたゼロだが、飽きたのか炎を指先に点し、剣を指先で抓むと剣を溶かしてしまった。


「熱に勝てる物を用意してから挑め、我が乙女を奪うというのなら」

「くそ、もっと……もっと強い強い強い強い魔物を見つけなければ! 力が、欲しい。こいつを倒し、ウルを手に入れる力が!!」

『あらア、そんなの簡単ヨ、あたしが手を貸してあげる♡』


 妖艶な声がしたかと思えば、アルギスは黒い水疱に包まれ姿を消していた。

 ゼロが呆れた口調で辺りに炎をまき散らすが、声の主は子供のような笑い声をあげるだけ。


『愛しのゼロ、お嫁さんなんてまだ早いわよ。あたしがいるじゃない。その子にもこの男の子がいるならちょうど良いわ。まだ相応しくないっていうことなら、その子に相応しくなるようこの男の子も教育しておくから、結婚式まだしちゃだめよゥ。そんなことしたらあたしもユリシーズも手を組んで、貴方たちを滅ぼすわア』

「余が誰を嫁に迎えようが口だし不要だ、帰れ! 此処は我が領域ぞ!」

『ううん、牛さんの貴方もす・て・き♡ 今日は帰るわ、この子貰って。それじゃあね、ゼロ。お嫁さん候補ちゃんも、またねえ』


 身がすくむようなオーラが一切無くなると牛姿のままゼロは炎を吐き散らしながら、怒りを露わにする。


「何処で嗅ぎつけた、ヴァルシュアめ!! 面倒だな、くそっ」

「ゼロ……あの、アルギス、どうなっちゃうの?!」

「次に会う頃には人の姿を保っていないかもしれないな。魔王の一人、水の魔王に利用されることは確実だ。それから、貴様を思う想いも利用されてな。貴様はどうなんだ、あの男が好きなのか?」

「……私は、さっきのアルギスは、怖いと、想ってしまった」

 私の言葉にゼロは牛姿で、そうだろうそうだろうと機嫌良く笑った。

「でも、一番お世話になった人なの、どうにかできたら……いいのだけれど。アルギスを、人間に戻せたら……一番いいです」

「無理だな。魔崩れというのは、基本的に人間の状態に戻るのは無理で、心を喪失してる。心が見つかればどうにかなるかもしれんが、あの様子だと心はとっくに魔物に食らわれてるだろうな。大人しく諦めろ、あの男は」

「魔王様なんかつめたーい」

 窓辺から頬杖をつきながらシラユキが口出すと、ゼロは何だと!と怒っていた。


「ヤキモチ妬くくらいなら、花の一つでも渡して、怖くなかったかボクが側にいるよ、なんて言ってるほうがまだマシでしてよ」

「ヤキモチなわけがない! まだ嫁に迎えてもいない小娘だぞ!」

「でも魔王様あんなに三日三晩楽しそうに結婚式のプラン話してたじゃないですかあ」

「えっ、そうなの、ゼロ?」

「わー!!!わー!!! 何でも無い、シラユキ黙れ!」

「その牛姿だって嫌われないか悩んでたじゃあないですかーもう」


 窓辺のシラユキに向かってゼロが炎を吐いたが、窓辺には届かず、シラユキは笑いながら逃げていった。

 薔薇はやがて地面に下ろされ、私も地面に下りてゼロと目が合う。


 ゼロはむすっとした様子で、呼吸に合わせ炎が時折飛び散る。


「ゼロ、あのね」

「……悪かったな、人型に戻るまで時間がかかるのだ」

「そうじゃないの。ゼロ、その姿、可愛くて私、好きよ」

「……ッ!! 世辞はいらん!」

「そんなことないわ、守ってくれようとした姿だもの。さっきのアルギスのほうが……怖かった。知ってる人だったのに、まるで知らない人みたいになってしまっていて……」


 どうしよう、身体が震える。

 心配かけないように笑っていようとしたのだけれど、まだまだね。

 笑いながら身体が震えていると、ゼロが「待ってろ」と森の手前に入ってから戻ってきて、小さく可憐な白い花を渡してくれた。


「いつか、アルギスとやらを人間に戻してやるから、笑うな。お前の望みは全て叶えてやる。何だって。何だって叶えてやる。余を誰と心得ている、魔王だぞ」


 私は驚きながら、やや熱いその花を受け取り、ゼロの優しさが身に染みた。


「有難う、私の雄牛さん」

 微笑んで背伸びしても頬には身体は届かなかったから、胸元にキスを送ると、ゼロは一気にぽんっと人型に戻り顔を真っ赤にしていた。





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