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第二十七話 ゼリアの運命の相手

 朝食を終え、治癒室へと戻ればミディ団長は巨大な蛇の姿で蹲っていた。

 ぐるぐるととぐろを巻き、私が近づくとシャー!!と舌や牙を出して威嚇した。


『子供の匂いがするんだね!』

「あ、はい。ゼリアがいます」

『僕はッ、僕はあのとき、オムライスが食べたかった、それだけなんだね!!』

「……ミディ団長、諦めてください」


 私がゼリアが嫌な思いをしてないか振り返るとゼリアは顔を赤らめていた。

「ゼリア、どうしたの?」

「とと様……龍みたい、そのお姿、龍みたい」

『とと様と呼ぶでないよ!!』

「では……愛しの方、と呼んで宜しい?」

『へ!?!!!』


 瞬きをすればゼリアはぼわんと煙を立て、一気に成長し二十代の美女へとなっていた!

 小さなドレスは破れ、ぎりぎりのラインで露出が保たれている。

 ミディ団長はシャー!!!!!と余計に威嚇すると、ゼリアは長く伸びた金色の髪の毛を緩く靡かせ、ミディ団長の鱗にキスをした。


「怯えちゃって可愛い人ね、とと様♡」

『君はッ、君はいったい何なんだね!?』

「ゼリアはとと様の運命の人……番となるべく産まれたドラゴンです」

『番?! そ、そんなもの、そんなものっ、い、いらなああああああああい!』


 ミディ団長は蛇姿で泣きわめいた。

 その姿にぞくぞくと恍惚とした笑みを浮かべるゼリアに、少し寒気がした。


「ぜ、ゼリア?」

「恩人様、お願いがあります。とと様と勝負をして宜しくて?」

「そ、それはもしかして、ミディ団長と……結婚したいってこと?」

「はい♡ 是非、この方をゼリアだけの物に収めたくございます。縄で縛って、逃げないように牢屋に閉じ込めて、ゼリアだけの……旦那様に」


 肉食獣の眼差しは流石のドラゴン。

 ミディ団長が逃げようとすれば、ゼリアは蒼い炎で逃げ道を塞ぎ、怯えるミディ団長に迫った。


「ねえ、ゼリアは気が短いの。闘ってくださいな、とと様。そして、愛を育みましょう?」

『ぜっっっっっっっっっっっっっっったいに嫌なんだねええええええ!!!!』





 ミディ団長は今の姿でいると戦いを申し込まれることに気づくなり、人型へ戻る。

 べそべそと泣きべそをかいた大人がそこにはいた。

 涙を拭いてから眼鏡の位置を整えてる合間に、ゼリアがミディ団長の前に仁王立ちする。

 ミディ団長は、ぶわっと鳥肌をたたせてから、後ろに居る私に助けを求めようとした。


「とと様、どうしてゼリアと闘ってくれないの?」

「僕は回復する専門の魔物だね、馬鹿言うんじゃないね!!」


 それは嘘半分、本気半分だった。

 ミディ団長の回復速度コントロールを悪用すれば、相手にエネルギーを送りすぎて廃人状態にも出来ると自慢されたことがある。


「ううん、それなら仕方ないわ、とと様。今は我慢してあげる。三ヶ月で闘えるようになってね?」

「は!? 何だって僕が君のために?! 忙しいんだね!」

「あら、夜這いされるほうがとと様はお好みなのね、分かったわ」

「なっ…………ま、ま、魔王様ああああああああ!!!!!!!! お助けをおおおおおお!!!!!!」


 ミディ団長が三歳児の子供のように泣きわめくと、ゼリアはうっとりと認めて見惚れていた。

 ゼリアはもしかしたら、S気質なのかもしれないと思いつつ場の惨状に考え込んでいると、ゼロが現れた。


「どうした、ミディ。おお、ゼリア、淑女がそのような姿はいけない」

 ゼロはミディの姿に気づくと自分のマントを羽織らせ、ミディに事情を聞こうとする。

「無理矢理結婚させようとするんだね! この龍が!」

「ゼリアはいい嫁になるとも」

「こんんんの親馬鹿ッ!! 僕にだって理想というものがあってだね!!」

「理想とは?」

「出会い方はまずは人間の街に潜入していた僕が偶然、同じく潜入していた魔物と曲がり角でぶつかって、そこから育む愛。すれ違いや、喧嘩しながら二人は初めて夏の日に……えへ」

「ゼリア、曲がり角でぶつかればいいらしい、行こうか」

「違うんだね!! 魔王様、貴方こんなに言葉が通じない御方でしたか!!」

 何もかもがちがーう、とミディ団長は泣き叫ぶ。

 少し哀れに思えた私は口出しをしようと、意思を決める。


「ミディ団長は、運命的な出会い方をしたいのですよね、全く知らない御方と」

「そう! そういうこと!」

「……ウル、口を挟むな。妬いてしまうよ?」

「そうはいっても、このままだとミディ団長が可哀想で。力押しで任せる結婚、ってあまりゼロもしたくないでしょう? 貴方が私にそう迫っていたら、私は嫌だったわ」

 私の言葉に、ゼロは瞬きにこりと笑いかけてから、目を酷薄な色に変え私を見下ろす。

 負けずに私は言葉を続ける。


「誰にだって、好きな人を選ぶ権利はあるのよ、ゼロ」

「……ウル、何か勘違いをしているようだが、魔物同士の結婚は本来、勝った者の権利だ。この世界は何もかも、力が全てだ」

「じゃあ貴方は私を力でねじ伏せたいの?」

「ウル! それ以上はお前とて、無礼な口をきくのは許さぬぞ」

「あら、ごめんなさい。あまりに貴方が格好悪くて」

「…………ッいいだろう、ゼリアよ。お前とミディの勝負、余とウルが代行してやろうか」

「魔王様、宜しいのですか?! とと様、今すぐ勝負できるって!」

「あああああああ、奥様、駄目だよ、引き受けては駄目だよ! 僕と逃げるンだね!」


 ミディ団長は大慌てで私の手を引いて、その場から弾丸のように飛び出して逃げ出した。

 後方から禍々しいオーラと、牛の怒りの雄叫びが聞こえる。


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