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第二十二話 大事な隠し物

 ゼロは辺りに炎をまき散らし、水を蒸散させるが、アルギスは余計に水を多く流し込んでくる。ゼロが蒸散させればさせるほどに。

 それだけで、自分はこの男に負けたくない、という意思が透けて見えた。

 ゼロは場に炎をまき散らしたまま、アルギスへ幾らか槍でなぎ倒すように攻撃をしかけるが、交わされる。

 サキやリデルにも炎の槍で向かうが、交わされ続ける。

 サキやリデルは攻撃を流すのがとてもうまくて、だけどたまにぎこちない姿勢を取る。

 アルギスが今度は、二人を攻撃してる間にゼロを攻撃しようとし、ゼロは炎で視界を邪魔し攻撃を受けずに済んでいる。



 サキやリデルから交わされてるというのに、ゼロは嗤った。

 こんな状況でも嗤ったのだ。


「項の、いや、背中の真ん中といったところか」

「ッな?!」

 最初に反応したのはサキ。自分の背中を振り返った瞬間に油断を生み、間合いに踏み込んだゼロから頭をあっという間に鷲づかみにされる。

 宙で足を藻掻かせるサキは涙目で、ゼロを睨み付ける。


「勇者よ、確か核を壊すのだったな? 宝石を」

「そ、そうだ」

「嗚呼、人間よ。お前は些か調子に乗り、情報を出し過ぎた。邪魔なのだよ、何処に核があるかすぐに分かった。さようなら、もう二度と会わないだろう」


 サキの背中に金属の剣を生み出すと、ゼロはそれであっという間にサキの背中を貫き、宝石を壊す。

 サキの異様だったオーラは消え、異形の怨念が詰まったような何重もの声が悲鳴をあげ、サキは黒い吐血をした。

 サキの身体はだらりと、人形のように力を無くし、興味をなくしたゼロがミディ団長に向かって放り投げるものだからミディ団長は慌てて受け止め抱き留めて治療する。


「次はお前か。お前は左の腕の肘裏だな?」

「そんなに分かりやすかったか……!?」

「いいや、先ほどの女と違って貴様はとても旨かったよ。攻撃を躱すことで、何処が弱味になるのか情報を与えてしまうという意味合いにさえ気づいていれば、お前は隠し切れていただろう。綺麗に少し、隠しすぎたな」


 ゼロはリデルに歩み寄り、リデルが怯えながら繰り広げる攻撃にものともせず、退屈そうに欠伸さえするものだからリデルは完全に恐怖に支配された。

 逃げだそうとした刹那、リデルはヴァルシュア自身に核となる宝石を水で射貫かれ、先ほどのように悲鳴があがるとリデルは気絶し倒れた。

 リデルの身体をヴァルシュアは引き寄せ、四方八方から飛ぶ水を氷にし、八つ裂きにした。

 うっとりとヴァルシュアは微笑みかける。


「アルギス、この感じだと貴方の核もばれてるわア。一旦退かない? 頭のわるうい男嫌いなの」

「……分かりました、貴方様が仰せになるのなら。だけど、僕はウルを諦めませんよ」

「ああ、そのことなら任せて。あたしも、ゼロを諦めないものぉ♡ というわけで、ゼロ、今度仕切り直ししましょう? 式自体はもう邪魔はしないわ、今度違う機会に奇襲するわあ。今回あまりに奇襲タイミングが分かりやすくて、貴方にとって有利すぎてつまらなかったわあ。でもやっぱり期待に応えないとーって思ったしー。勇者とまで組んじゃって、少しつまんなあい」

 ヴァルシュアが色香を全開にし、魅了技を使うが、私のバリアのお陰で誰一人心を動かさない。

 その分私に負担が来る、魔力が一気に吸い取られて、徐々に意識が朦朧とする。


 駄目よ、まだ、起きていないと。


「ふふ、中々強い魔王が誕生しそうね? あたしのチャームを全て押さえ込むなんて、中々やるじゃない。少しは。式をやるだけのことは、認めてあげてもいいわあ。じゃあね、ゼロ。あたし、これからエステもあるから。いくわよ、アルギス」

「おい、待てよ、オレ達は無視か、ヴァルシュア! テメエを倒すのはオレ達なんだよ!」

「ギルバートちゃん、あのね、今日は虫けらの相手はしたくないのお。もうちょっと強くなってから、出直してね? ああ、作戦は悪くなかったと思うから頭脳は褒めてあげるわ」

 食ってかかっていった勇者のパーティをヴァルシュアは弾き飛ばすと、アルギスと二人で虚空に産まれた水疱に消えていった。

 場に残されたのは、リデルの死体と、気を失って人として戻ったサキ。

 それから弾き飛ばされ大けがを受けた勇者パーティだった。


 ゼロは最後までヴァルシュアの気配を睨み付けていて、ラクスターの声で我に返ったようだった。


「おい、魔王! 奥様の様子が変だ!」

「何だと!? 下りてこい!」


 命令通りラクスターが地上に降りる頃には、私の魔力は尽きて意識を失っていた。



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