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第十八話 式の前日に、兄妹水入らず

 ラクスターに話し終えると、微苦笑を浮かべて、会議室の誰も居ない部屋で椅子に座った。


「魔王がどれだけお前を愛しているのか分かった。ヤキモチあいつすげえんだな」

「そういう、ヤキモチ、なの?」

「独占欲はあいつは強いと思う。どうしてかは分からないが、それほどお前に拘ってるんだ、奥様。お前の全てを手に入れたいって視線は日頃からしているし、話を聞いて納得した部分がある」

「納得した部分って、どこ? 恩人って存在になったのが呪いになったってあたり?」

「違う。あいつは、きっと産まれたときからお前と同じ種族でありたかったんだ、それは人間が好きかどうかじゃなくて。産まれてから自然な流れで、お前と出会いたかったやっかみなんだろうな、アルギスってやつへの」

「……無理よ、そんなの。だって、今から変えられることじゃない」

「それも魔王は分かってるから一人になりたかったんだろ。お前に全てを八つ当たりしたくなかったんだ。気にするな、全てあいつが背負うべき思いだ。チャームについてだって、お前が決める問題なんだよ。魔王と対等である花嫁になるのだったら」

 ラクスターは自分の持っていた似顔絵の中からアルギスの似顔絵を取り出すと、へっと鼻で笑った。


「そんなに良い男だったのかな、こいつ。似顔絵だとそうは見えねえ」

「とてもお世話になったことは間違いないわ……ずっと一人だったのを支えて貰っていた」

「ふぅん。で、肝心の姫さんはどう思うんだ、こいつのこと。好きなのか?」

「……今は怖いと、思う」

「じゃあそれを自信もって魔王に伝えりゃいいんだよ。今は魔王が気になるんだろう?」

「…………うん、そうね。ありがとう、ラクスター。頑張ってみる」

 こくりと頷くとラクスターは立ち上がり、そういえば、と振り向く。

「チャームはするのか、しないのか?」

「それなんだけど聞きたいことがあって……」


 私がとあることを提案すれば、ラクスターは驚き微苦笑した。


「またしんどい選択肢を選ぶなあ。それだけ魔王を尊重したいのな」






 兄様のパーティは、日がずれながらも徐々に集まった。

 僧侶の女の子は状況を説明すると目を回して倒れた。

 魔法使いの女の子は状況を説明するとゼロに感心し、感激を叫んだ。

 シーフの男の子は状況を把握すると兄様の心に気を配った。

 格闘家の男の人は状況を説明しても聞き入れず、魔物の色んな人に戦いを挑むものだから婚礼まで気絶させておこうという話になった。


「兄様の仲間は面白い人が多いのね」

「まあ自慢の信頼出来る仲間達だ。しかし、結婚式がもう少しか……アルギスをおびき寄せるための、偽結婚式は」


 婚礼の儀は二回行おうという話になった。

 一回目はアルギスをおびき寄せるためにわざと盛大にする婚礼の儀。

 二回目は……本物の、きちんとした式。


 想像するだけで顔が赤らむのをどうにかしたい。

 兄様は私に気づくと笑い、それから頭を撫でて微笑んだ。


「本当にそれでいいんだな? 魔王と結婚、ホントは嫌なら今なら兄ちゃんが闘って奪い取るぞ」

「い、いいの。私は、ゼロの側にもう少しいてみたいと思ったから」

「恋心が今完全にあるわけじゃないだろ? どうして」

「こんな私に対しても、ゼロは生前の私に対してでも義理を尽くそうとするから。そういう人って損をしやすいの。私がいて、損しないように見張らないと」

「っはは。お前も結構損しやすい性格だけどな!」


 兄様は笑いながら、グラスに入ってる果実酒を呷り、俯いた。


「お前がいるなら、実現したいかもな。記憶が消えても、まだオレが願っていたら実行しようと思う」

「何を?」

「……魔物との共存ってえやつをさ。オレも夢見たくなる時がある。魔王はくそみてえに最低だが、雪の女王サンは……その、別だよ」

「兄様……もしかして、シラユキさんのこと……」

「ほ、惚れてはいねえけど、別に、その、良い奴だよな! 人間に対しても、情け深い女だなって思う。ああいう人が……いるのなら、夢くらい見てもいいのかもな。なんつって、勇者失格かな」

「それを言ったら私なんか勇者の妹失格じゃない」


 私と兄様は笑い合いながら、偽の式前日を過ごす。




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