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第十六話 愛されない前提

「反対だ!」


 ゼロだけが大声で咄嗟に反対していた。

 あまりの大声に皆は吃驚しゼロへ振り向くと、牛の姿になるほど憤慨している様子だった。

「ぜ、ろ? どうして?」

「我が乙女に、他の者を誑し込めと!? 婚礼の儀でか?!」

「闘牛、落ち着けよ。オレだって可愛い妹にそんな真似はあまりさせたくはない。けど、お前さっきの奴を上回る策が思いつくのか?」

「……っく、こんな屈辱……! 知らぬ、余は一人で闘おう。乙女よ、手は治癒以外貸すな!」

 ゼロは怒って会議室から出て行った。

 皆はざわつく、私は慌てて頭を下げて会議室から出て行く、背中へ私の名を呼ぶ兄の声が響いた。


 ゼロは憤慨し、自分の周りに火の粉をまき散らしながらどすどすと歩いて行く。

 私はゼロの後ろをついていき、いつ声をかけようか悩んでいると、ゼロは振り返ってくれた。


「ゼロ、……あの」

「チャームは確かに効くし、お前も習得できるだろう。だからこそだ。だからこそ、余は……嫌なのだ。チャームが解除された後、心に名残があるものができるかもしれぬ!」

「ゼロ、自分が選ばれないかもしれなくて怖いの? 貴方はさっきから、自分が愛されない前提で話を進めているわ」

「人間から見た魔王が如何ほどの者か、自覚してないわけではない」

「ねえ、いい加減その……私を元人間だけって視線で見るのやめません? 私だって、魔物の皆と親しむことだって最近してきてるわけだし、魔物として生きていこうって。慣れていきたいの……ゼロはそれに、私にとって大事な魔物よ!」

「…………お前に、理不尽な呪いを感じている。いや、お前自身ではなく、余が自ら選び、余が自らかけた呪いだ」

「何よ、それ。どういう呪いなの?」

「……恩人という眼差しで見ているだろう? 余は、恩人ではなく、お前とは対等でありたいのだ。対等な目線から、大事だという言葉を受け取り、信じたいのだ」

「ゼロ……それって」

「恋に落ちて、欲しいのだ。お前に」


 牛から人の姿に戻ったゼロは、私を抱き寄せ、ぎゅうっと力一杯抱きしめた。

 むうと顔を顰めたゼロはふてくされたまま、私に擦り寄る。


「アルギスとの仲を、お前に関しては疑っている。お前は、恋仲ではないとは言うが、恋に落ちてなかったとはあまり思わない。勇者の口ぶりからするとな。環境的に、以前お前から聞いた話でも余は感じる。お前は余を好いてはいるが、恩人の眼差しで。恋に落ちる候補としてはアルギスなのだろうと」

「ゼロ……どうして、信じてくれないの?」

「誰だって同種族が良かろう?」


 ゼロの浮かべた儚笑は、切なく胸が締め付けられた。

 ゼロは私の頬に手を当て、おでこにキスをすると身を離した。


「だからこそ乙女よ、宣誓しておこう。アルギスとやら、殺した方がいっそ楽だ。乙女の気も引ける……と、考えるほど冷徹であればよかったのだがな。だが安心しろ、余が告げる言葉に二言はない。あいつを人間に戻す約束は守ってやる。一人になりたい、ついてくるな」


 ゼロは少し追い詰まっている様子だった……――ゼロ、今なら私は貴方と同種族なのに。


 貴方が、私と貴方を同じにしてくれて、結びつけてくれたのに本人が信じられないのは、確かに本人にしか分からない本人が勝手にかかった呪いなのだろうと実感した。



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