第十五話 作戦会議(今度こそ)
対象とすべき魔崩れの似顔絵と、水の魔王の特徴を描いた紙が配られる。
先ほどとは違う意味で真面目になる一同。
私は一度恥ずかしさで失った気力を取り戻すのに必死だった。
「注意すべき魔崩れが三名です。一人は事前情報もあるアルギスですね。この方の目的はウル様奪還です。事前情報ですと、植物にまつわる物を操る能力があったのですが、水の魔王様から力を借りたことにより、どのような魔法になるか……水の魔法が加わることは間違いないでしょう。魔崩れの他二名に関しましては、勇者、ご説明をお願いしますわ」
一回立ちっぱなしであったシラユキは会話のリードを兄様に任せると席へ座りお茶を飲んだ。ぐびぐびと飲みながら、兄様の様子を伺う。
兄様は席から立ち上がり、あーと、と言葉を探してから皆を見やり不思議な笑みを浮かべた。
「一緒に作戦会議ってぇのはなれないが……まあいい。確認をまずは、取りたい。怪我を治させてくれる部隊がいると聞いたが、そっちは今回に限り、人間も治してくれるんだな? 勿論こちらから情報を探る真似はしねえ」
兄様の真面目な発言にミディが挙手してから、眼鏡をかけなおしながら兄様を見つめた。
「普段なら魔物と人間の衝突だから、治癒団は関与しないつもりだったね。しかして、今回は別だ。協力態勢となれば、きっと奥方様も力になりたいと思うはず。そうであれば、我々は力を人間と我が軍どちらにも貸すつもりだね。勿論魔王様から許可が下りれば」
「許可は出す」
「だとしたら、勇者の確認通り、治癒はするね」
「分かった、治癒をしてくれる前提で作戦の話をする。まず共通認識として、魔崩れは核となる魔力を送られてる宝石を持つからそれを探して砕けば、宝石に囚われてる心が解放され人間に戻ることが昨今分かった。各自、魔崩れが大事にしてる宝石があったらそれを壊せ」
こほんと咳払いをすると兄様は資料の二枚目である、女性の魔崩れの似顔絵が描かれた紙を掲げる。
「まず、サキ・ナガラエ。こいつは毒を使う。やたら強い毒で、人間でも最高位のシスターとかあのへんにしか治せない毒なんだ。治療してくれるってことは、当てにしていいな?」
「勿論。毒に対して特に、僕はエキスパートだ。僕を中心に解毒チームを作るんだね。治癒チームとは違うチームを約束しよう。奥方様、他の怪我などの治癒のリーダーは君が担うんだね」
「分かりました! あの、今回魔崩れが狙うのは、婚礼の儀で乗り込むときなのですよね? でしたら、儀式の招待客に戦闘チームと回復チーム、解毒チームを紛れさせて外には能力をアップさせる補助団を置いておくのはどうでしょう?」
「名案だ、ウル、オレもそれを考えていた。もしくは、儀式の会場に最初から魔方陣敷いておくとかな。まあまず厄介なのがこのサキって女だ。覚えておいてくれ。次に、三人目。リデル・アスファルト。このおっさんはかつて発明家だったが、資金の援助が切れ、その弱味につけこまれて魔崩れになったと調査で分かった。このおっさん、とにかくバフ――補助がすごいし、回復魔法もえらい使う。筋肉隆々おっさんなのに!」
確かに似顔絵を三枚目捲れば、大柄な男性の似顔絵だった。
「このおっさんは見かけたら問答無用で殴るレベルには警戒したほうがいい。アルギスのいいバディ状態だ。アルギスが戦闘を担当し、リデルが回復なり能力増強なりしてる。サキが邪魔する奴らに邪魔してアルギスの目的を達成させるだろう。つまり、魔王のお前が警戒すべきは、アルギスとリデル。サキのほうは、部下に何とかしてもらえ」
言いたいことを全て伝えると、兄様は椅子に座ろうとしたが、その前に声をシラユキからかけられた。
シラユキは女性魔物ということで、兄様もあまり視線がトゲトゲしくはない。
「人間はどなたがきますの? あまり大勢でも、城の位置がばれて困りますわ」
「ああ、安心してくれ。うちのパーティーだけだよ。後日紹介するが、人数はオレ入れて五人の少数精鋭であり、お前らには見慣れた顔だ」
「ああ、あの方達ね。分かりましたわ。どうぞ、お座りになって、有難う」
シラユキは人間相手でも礼儀がしっかりしているからか、兄様は言うことをすんなり聞いて、丁寧に一礼すると座った。
シラユキが立ち上がって資料を睨みながら、考え事をしている。
「何か提案や質問ありまして?」
「魔王相手にはどう闘うつもりだ?」
ゼロからの質問に、兄様は唸ってからすぐに答える。
「それなんだけどよ、あいつらチャーム使うのが厄介なんだよ。魅了技。それはそっちもだろ、かかるんだろう、そっちの魔物だって」
「魔力の低い物はかかるだろうな」
「チャーム対策さえ練ることができりゃ、オレ達で相手できる。お前ほど手間取る相手じゃアない。どうやって水の魔王のチャームから逃れられるかだよ、一番のオレ達の問題は」
「なあ、チャームって女の魔物なら誰でも出来るのか?」
ラクスターが突然挙手もせず、机に脚をあげながら話しかけた。
無礼な態度とはいえ、話題が気になったのか、ゼロは頷いた。
「誰でも女性魔物であれば、習得は出来るだろう」
「魔力が馬鹿高いうちの姫さんが覚えたら上書きして、正気に戻って戦えるんじゃねえの?」
ラクスターの言葉にはっとして、一同が私を見つめる。
私は驚きの発想に、瞬時に反応出来ず、戸惑っていた。
皆が、まさにそれが名案だと瞳で訴えていたので、小さな声で私は「頑張ります……」と告げた。