第十一話 認められる為に頑張る花嫁は治癒団に。
あれからラクスターが戻ってくるまでに他の魔物の態度をよく観察した。
よくよく見れば好待遇してくれる魔物と、よくはしてくれるけどぎこちない魔物、嫌悪を隠してる魔物が分かった。
幹部でも半分に分かれてる印象だったから、ラクスターの勘は馬鹿に出来ないと実感し、向かわせた自分を評価しようと思うほどには私を嫌う魔物はいた。
認められるには何が一番いいか考えた結果、魔物の治療を手伝うことだった。
魔物の城には、怪我や討伐で生きながらえて傷の手当てを受けに戻る魔物がいるのだけれど、回復魔法を出来る魔物が少ないみたいで私はちょうど回復魔法が得意だった。
あの日から枷がとれたかのように、以前より問題なく魔法は使えるようになった。
「もしかしたら此処でなら役に立てるかもしれない……あの、失礼します」
治療室にノックして入ると忙しそうな白衣を着た巨大な蛇が近づいてくる。
蛇は人型の姿に化けると、一礼をし、眼鏡越しに金色の眼差しで私を見つめた。
蛇だった魔物は、水色のマッシュと呼ばれる髪型で、糸目を限界まで開眼し私を見つめる。臆しては駄目だと私は、蛇だった魔物をじっと見つめる。
「あの、なんとお呼びすれば」
「ミディで結構。どうされたね、奥方様。何か不調というわけでもなさそうだね」
「ではミディさん、あの私も治癒するのをお手伝いしたいのです。私も回復魔法が使えます」
「奥方様に?」
ミディは目を見開き、とんでもないと青ざめた。
「奥方様のする仕事じゃあないんだね。お帰りしなさい」
「でもっ、お願いします!」
「遊びじゃあないんだね、こっちは。帰った帰った!」
ミディは私を部屋から追い出すと扉越しにシャーと威嚇した。
私は此処で諦めては駄目だと思い、そのまま部屋の扉越しにずっとノックをし続ける。
それが三日三晩続き、ゼロがやがて心配しやってきた。
「食事にも来ず、何をしてるかと思えば」
「私ね、ただ此処でのんきに暮らしてるだけじゃ、ゼロのお嫁さんだなんて認められないと思うの。少しでも皆の仲間として受け入れられたい」
「……ウル。命じてやろうか」
「ううん、私が頑張らないといけないの。私だけの力で、まずは受け入れて貰わないと。この部屋が一番役立てそうなのよ」
「そうか……程ほどにするんだぞ、我が乙女よ」
ゼロが私の手に携帯食を握らせてくれた辺りで、扉が開いた。
中には苦い顔をしたミディがいて、じいいいいいいいいと私を品定めする。
「参ったんだね、ほんっっとうにこき使っていいんだね? 汚れ物にも触れることになるんだね。女性には見せられないえぐい傷だってあるんだね」
「構いません、頑張ります!」
ミディは、はーっとため息をついてゼロを見やる。
「魔王様、貴方から直接ご命令しないのですか」
「それはたった今、我が乙女に断られたものでな。余が言ってもきかんのだ」
「……~~宜しい、よっぽどのご覚悟があるんだね。朝は食事が終わったらすぐに此処へくること、昼餉は此処で携帯食にする。休憩は各自の判断で五回まで。魔力の補給で飲むポーションを支給するから一日五本まで飲んでいい。夕方からは自由だ、守れるね?」
「ッはい!!!」
私はミディが条件を出してのんでくれたことに大喜びして、ミディの両手を握った。
ミディの半分蛇の名残がある鱗に触れ、驚いたがミディは気にした様子もなく、「負けたよ」と項垂れた。
ミディはポケットから予備に持っていたらしいポーションを二本私に渡してくれて、中へ入る。
ゼロも入ろうとしていたけれど、ミディから「魔王様はお仕事をどうぞ」と暗に追い出され、ゼロは笑って出て行った。
室内に入れば巨大なドラゴンの魔物がちょうど深い傷を負っていて、ミディはドラゴンが顔を寄せてくるとよしよしと撫でた。
「この子のこの傷、何処まで治せるね? 腕前を見せてくれ。一人につき、全力を使っては駄目だね。一日一人につき十分の一までしか魔力を使ってはいけない。そうしないと倒れるね」
「分かりました、やってみます……十分の一……調整しながら、ですね?」
私は頷いて目を閉じドラゴンの傷に意識を集中させると、辺りに金色の炎が過る。
ミディはそれに驚くものの止めはしないでくれたので、集中出来た。
「金色の頂よ、我が思い、我が願いに応え給え――稲穂のように揺れろ、揺れろ、揺れろ……!」
詠唱を唱えると、金色の炎が傷の部分に燃えさかり、ドラゴンが少し唸る。
「我慢して、少し痛むけれど」
私はドラゴンに願いながら、力を言われたとおり十分の一……いいえ、百分の一くらいの加減で既にドラゴンの身体は怪我など嘘かのように治った。
鱗なんか生まれたばかりのように艶々だ。
ミディは目を見張り、しげしげとドラゴンの傷を見やり私が魔法を使い終わると怪我を確認して、具合を改めて見てから私も診る。
私が一切体調を壊してないことを知ると、ミディは面白おかしそうに笑った。
「成る程、元人間ってだけで断ろうとしていた自分を恥じる。すまない、改めて助手をお願いするね。君は我が治癒団の副団長に任命しようね。僕は団長のミディ・アレム。改めて歓迎するね。団長と呼び給え」
ミディ団長は私に握手を心から求めてくれて、私は嬉しくて握手に応じた。