かけら1
「では、おまえは討つべき敵は隣国ではなく我が国にいるというのか?」
頭上から、半ば苛立ったような声が響く。
恐ろしいほどの、圧迫感。圧力。
それでも、ここで引いちゃいけいないんだ。
僕には、守らなきゃいけない人がいる。守らなきゃいけないものがある。
それを守るためにも、ほんの少しの間だけでいいから……。
「はい、陛下。だからどうか、軍の編成はおやめください! この度の元凶、街を滅ぼした犯人は、この国の首都に隠れ住んでいることを突き止めました!」
「ホントだ、アレス。トワの言ってることは事実だし、俺も視た。隣を責めるのは、いらぬ争いを招くだけだってのは分かるだろう」
隣に立つ彼が、そう言葉を補ってくれる。
あらかじめ伝えていたから、合わせてくれたんだ。
それがわかっただけでも、落ち着くことができた。大丈夫。何の問題も発生しない。このまま戦争を止めて、隣国から主犯が届くのを待てば、この争いは回避できる。
そうすれば……そうすれば、今のこの国から争いの種は無くなる。
彼女も、殺されることは、なくなる。
「ふん。おまえたちがそこまで言うなら、しばし待つ。すぐに敵を引き連れてこい」
「はいっ!」
大丈夫。大丈夫だ。
そう。大丈夫の、はずだったんだ。