それは始まり
隼人達は3時間程街を歩くが、一向に獣魔の出現情報が送られてこない。どうやら夜は獣魔の出現は落ちるようだ。だからといって昼には1000を軽く超える討伐士が相手なので狩ることができない。だから、新人はこうやって人が少ない時間を狙わなくてはいけないのだ。
「獣魔出ないわね……」
「なんだ? もうギブか?」
「違う! けど…… 3時間も出ないなんて聞いてないわ!」
「まあ、歩美の言っていることもわかる。 だが、こうでもしないといつまでも待遇が変わらないぞ」
「確かに名声は欲しいと思うわ。 この区ならオーガとコンドルが有名よね。 憧れるけど、眠い!」
「じゃあ少し休憩しよう。 いいよな翔太」
隼人にそう言われた翔太は少し考え、溜息をつく。
「まあ仕方ない。 少し休もう」
「やった! じゃあついでに肝試ししましょ」
「お前はまたそうやって、さっきは眠いって言ってたんじゃなかったのか?」
「それはそれよ。 1回やってみたかったのよね。 この先に廃れた学校があるでしょ? そこ行きましょ」
「俺は賛成だ。 すげぇ楽しそうだ」
「おいお前ら…… はあ、少しだぞ」
「「やった!」」
2人は息を合わせて喜びながら両の手同士でハイタッチをする。翔太は頭を抱えながら呆れている。
「やるならさっさと済ますぞ。 もしかしたら獣魔が出るかもしれないからな」
「大丈夫それはわかってる」
「あんま心配しなくて大丈夫だよ翔太。 俺達の付き合いじゃないか」
「そうだったな…… 行くぞ」
翔太がそう言うと歩美に先導される形で肝試しをする廃校に向かう。その廃校は山の中にあり、階段を1000段ほど登らないといけないらしい。そんなことを言わなかった歩美は可愛く誤魔化しており、隼人は理解したのか絶望の表情を浮かべていた。階段を登りきるとそこには雰囲気のある廃校が佇んでいた。
「1000段登ると聞いた時は帰りたくなったが、確かにここまで雰囲気のあるところもないな」
「でしょでしょ」
「はあ〜しんどかったー」
「大丈夫か隼人」
「なんとかってところだな」
「だらしないわね、男なら根性見せなさいよ」
「階段が1000段あることを言ってなかったのは何処のどいつだよ!」
歩美は誤魔化すように口笛をそっぽを向きながら吹いている。
「喧嘩は後にしよう。 さっさと済ませて仕事に戻ろう」
「ホホホ、こんなとこに人が来るなんて珍しいですね」
不意にかけられた声に全員が警戒し、武器を構える。目の前には気づかないうちに奇妙な仮面を被ったピエロのような姿の者がいた。
「お前は何だ?」
「ホホホ、これはこれは失礼。 私、名はマルドゥック・ディザスターと申します」
「そうか…… 獣魔か……」
「ホホホ、ご明察であります」
翔太が腕輪でランクを調べるとSと表示される。予想はしていたが、かなりの大物だ。言葉を操る獣魔はいるとされているが、人前に中々出ることはないとされている。そして、そいつらは決まって高ランクなのだ。
「ねえ翔太、あれ獣魔よね? まだ情報来てないわよ?」
「みたいだな…… 理由は分からないが、皆んな分かってるだろ? おそらく俺達では勝てない。 それを奴に気づかれないような振る舞いをして逃げるぞ」
翔太がそう言うと歩美と隼人が頷く。
「ホホホ、どうしました? お話なら私も混ぜてくださいよ。 きっと楽しいですよ」
「黙れ、お前ももうすぐ狩られることをわかってないのか?」
「ホホホホホホ、これは面白いことを言う人間だ。 私が狩られる? それはあり得ません。 この場所では獣魔が出現しても司令本部に探知されることがないことは実証済みです。 それに、貴方達も新人みたいですからね」
「⁉︎」
「おや、その反応は図星ですね? ホホホホホ。 まあ、念のためもあるでしょうし、気づかれるのも遅いから早いかの違いでしょうから問題ないです。 さて、やりましょうか」
「全員来るぞ!」
「翔太、前は任せろ」
「後方支援お願い」
「仲間とはいいものですね。 後ろを任せることができる。 ですから私も仲間を呼ぶことにしました」
マルドゥック・ディザスターは指を擦らせるとそれを鳴らす。最初は何も起きなかった。しかし、数秒後隼人達の腕輪に何百通もの獣魔の出現を知らすアラームが鳴り始めた。
「ホホホ、さて遊びましょうか」
それは隼人たちにとって最初の絶望的な戦いの始まりだった。