暗闇の中で
討伐士の付けている腕輪にはほぼ使われない機能が存在する。それはオーバーリミットといい、自身の能力と身体能力を飛躍させ無理やり強くするというものである。しかし、最初にも言った通りそれは使われない。理由としては獣魔に使うほどではないことと、使えばその代償として半年から1年は治療に当たらなければならないからである。
「おい隼人、大丈夫か?」
「あ…… おう、大丈夫だ」
翔太に声をかけられた隼人は戸惑いつつもそれに答える。
「俺達が討伐士になって1週間経つが、最近はボーッとしすぎだぞ。 もし、何か悩んでることがあれば相談に乗るから1人で抱え込むなよ」
「いやいや、大丈夫だよ。 いつもありがとうな翔太。 それで歩美はまだなのか?」
「みたいだな…… まあそのうち来るだろう」
空を見上げると真っ黒であり、2つの星が輝いている。よく見ると薄っすらと1つの星も見えた。そう、今日隼人たちは前話していた夜に獣魔を狩るためにいつも利用しているファミレスの前に集合しているのだ。
「最近獣魔が多いな。 一体どうしたんだろ?」
「今は発生率が高いんだろ、そのうち収まる。 それに逆に考えれば今がチャンスということだ」
「結局狩れるかはわからないけどな」
「それは仕方ない、運もあるからな」
そんなことを話していると歩美がこちらに向かってくるのが見える。
「ごめん! 遅れた!」
「時間的には50秒の遅刻だから問題ない」
「ありがとう翔太」
「歩美が遅れるなんて今日は雪でも降るんじゃないか?」
「うっさいわね! 夜は苦手なの!」
「そうかそうか」
隼人は歩美をしばらく茶化す。そして、それが終わると同時に翔太が口を開く。
「さあ、行こうか。 今は獣魔は発生していないみたいだから話しながら見回ろう」
翔太のそれに2人は頷く。そして、全員が腕輪に触れると武器を具現化する。隼人は赤く染まった剣、歩美は花がついた双剣、そして翔太は白銀の弓を持ち進みだす。今日の狙いはBランク以上である。獣魔は狩る対象であり、その逆はない。そう思うのが普通であるが、それが仇とならなければいいのだが……
✳︎✳︎✳︎
討伐士司令本部の廊下を1人の男が歩いている。黒髪短髪のメガネをかけた強面のスーツ姿の男である。名前は後藤 輝明といい、ここの最高責任者である。後藤は扉の前に立つと自動で開く。中に入るとそこには大画面のスクリーンとパソコンを弄る者達の姿があった。
「獣魔の出現状況はどうだ?」
「はい、昨日の出現数が46体と平均よりも約10体以上も多い計算です」
後藤は話しかけた女性職員から報告書を受け取るとペラペラとめくる。
「その前は確か42体だったな?」
「はい……」
「日に日に増えてるな…… 原因はわかっているのか?」
「いえ…… それがなんとも……」
「そうか、それで今日の出現個体数は何体だ?」
「実は現段階で52体という数字を出しておりまして……」
後藤は女性職員にそう言われると時計を見る。時間は現段階で10時を示している。
「原因究明を急ぐように伝えろ。 それと、討伐士達も気づいてる奴がいる可能性がある。 即急にこのことを伝えろ」
「わかりました、後1つ報告があるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ言ってみろ」
「実はオーガが後藤さんと話をしたいと来ていまして……」
オーガとはG地最強の討伐士の名前である。名前に関しては実績を上げればこのように特徴などからつけられることが多い。もちろん給料も多く貰っている。
「オーガか? 今どこにいる?」
「控え室の方にいらっしゃいます」
「では、私はそちらに向かう。 お前達は先程言ったことをやるように。 最後に執務室には誰も入らないように伝えておけ」
「わかりました」
そう言うと後藤はそのまま出て行く。後藤は優秀だが、1つ職員達はわからないことがあった。それは獣魔を危険な存在と言い、討伐士の募集をやめないことである。