それは戦いではない
隼人は赤を基調としたコート、翔太は白のスーツ、歩美はピンクのゴスロリのような衣装に着替えると、獣魔を探しに街に出かける。そして、運よく見つけることができたのだが、隼人は目の前に潰れたスライムのような獣魔を見ながら焦る。
「ごめん! まさか1撃で死ぬとは思わなくて!」
隼人は咄嗟に振り向き目を瞑り謝る。そして、軽く目を開けると般若のごとく切れている歩美と呆れている翔太が目に入った。
「1人で突っ走らないでって言ったわよね?」
「ごめん歩美、このとおり」
「運が良く獣魔と戦うことができたのに…… 私達が攻撃を倒したら意味ないでしょ!」
「落ち着け歩美、隼人のこれはいつもじゃないか」
「確かにそうだけど……」
「それに俺達は運が良かったんじゃない。 同時刻に別の場所にランクが高い獣魔が現れたからそこに集中したんだろう。 獣魔は減るわけじゃないんだから、また見つけよう」
「翔太がそんなに言うんだったら…… 許してあげるわ」
「ありがとう翔太、歩美」
「隼人も次からは気をつけろよ」
「ああ、わかってる。 1度失敗したことは絶対に2度としない」
「だと、いいがな。 どうやら他の獣魔も狩られたらしいな」
翔太は右手に嵌めた腕輪のようなものを弄っている。それから小さな画面が飛び出している。それを再び弄ると画面が変わる。この腕輪は討伐士に必須なものであり、役割は4つある。1つは獣魔が現れた時、場所と強さの指標となるランクを教えてくれる。そして、もう2つ目は自分の扱う武器を具現化し、身体能力をあげる事ができる。3つ目は獣魔のランクを測ることができる。4つ目は自身の能力を発動することができる。
「ねえ、この獣魔ってランクいくつなの?」
「こいつか? こいつは最低ランクのEだな」
「やっぱり弱いのね…… もう少し強いのが出てきても私は全然良いんだけどなー」
「歩美は相変わらず自信家だな。 今の俺達だと最高ランクのSSSランクはおろかSランクが関の山だぞ」
「Aはいけるってことよね?」
「まあ、3人で協力すればな。 なあに、焦る必要ない。1ヶ月努力すれば1人でSSランクを倒せるぐらいにはなるらしいからな」
「1ヶ月じゃ遅いわ。 1週間でなって見せるわ」
「頑張れよ、隼人は少し出遅れてるから余計に頑張れよ」
「それぐらい理解してるさ、絶対に2人を抜かして驚かせてやるからな」
「楽しみにしてるわ」
そんな時腕輪から音がなる。どうやら獣魔が出現したらしく、場所を確認する。
「この獣魔こから近い。 それにBランクみたいだ。 急ごう歩美、隼人」
翔太がそう言うと2人は頷き、走って向かい始めた。
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隼人達は無事に着いたが、どうやら既に狩られたらしく無残にも死体が残っていた。
「間に合わなかったみたいだな」
「なによ、あれだけ走ったのにもう狩られたの? 早すぎでしょ」
「まあ、仕方ないんじゃないかな? ここら辺には他の討伐士も多いし」
「まあ、そういうことだ。 さっきは運が良かった。 そして、俺達の本当の敵は同じ討伐士だ。 どれだけ早く狩れるかが勝負の肝だな」
「はあ…… これだと給料が上がるのも当分先ね……」
「まあ、気を落とさずに行こう歩美」
「あーあ、あんたが狩っちゃうから」
「それは本当にごめんて……」
歩美が隼人で遊んでいると、翔太はやれやれと思い横から口を挟む。
「今日はまだ6体しか出ていない。 平均すると1日に18〜32体出るそうだ。 それまで時間を潰そう」
「そうね…… それにしてもこんなに人が余っているのにまだ募集をかける必要ないんじゃないの?」
「そこは知らんが、まあ何かあるんだろ?」
「何かってなんだ?」
「それはわからんが、俺達は言われたことをやっとけばいい」
「そうね……」
そう言った瞬間、獣魔の出現を知らせる音が鳴り響いた。
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「今日はもう終わりか……」
「時間的にそうだな」
「結局あれから1体も狩れなかったわね……」
時計の針は10時を示しており、隼人達どれだけ動いたのかがわかる。皆んな初めてだからか顔に疲れが浮かんでいる。
「疲れた…… この服は持って帰っていいのか?」
「まあな、今日が初めてだったから行っただけだからな。 だけど、指令本部には行かなきゃ行けないからな」
「それくらいわかってるって」
「後、これからは夜も活動したいと思う」
それを聞き、歩美はあからさまに嫌そうな顔をする。
「夜はちょっと……」
「何かあるのか?」
「そのね…… 夜は寝たいと言うか、お肌に悪いと言うか……」
「それでもいいが、昼だと獣魔をなかなか狩れない。 夜だとまだマシな部類だと思う。 それにすぐにやるっていうわけではない。 週に1日とかだからな」
「だったら良いわ」
「良いのかよ」
「何よ隼人。 文句ある」
「すみません、なんでもないです。 それよりもみんなはどんな能力を使うか教えてよ」
「特別よ、私は腕輪の身体能力の他に車さえ超えるスピードで動き回れるわ」
「それすごいな…… 翔太は?」
「俺は光の弓矢を生成することができる。 速さ能力を鍛えてないからそこまでないけどな」
「隼人はどうなのよ?」
隼人は歩美にそう問われると自信ありげにある花を鳴らす。
「俺の能力は炎を操れるんだ」
「何その能力…… せこい」
「随分と良い能力だな。 交換してほしいくらいだ」
「まあ、まだ掌サイズの火しか起こせないけどな」
「いいなー私もそういう系が良かったな」
「歩美も使いこなせれば強いと思うからそう卑下することはない」
「そっか…… そうだよね。 自分の能力を信じないでどうしろって感じだものね」
「そうだ、さて隼人家に着いたぞ」
「もう着いたんだ。 じゃあまた明日だな」
「ああ、また明日」
「明日はもっと早く出なさいよ」
「わかってるよ」
隼人はそう言うと2人と別れていく。この日は何事もなく終わり、ホッとする。このまま楽しい日々が続けばいいと密かに思うのだった。