過去探し
ルールその1。
浴室、トイレには付いてこない❗
ルールその2。
学校にも付いてこない❗
ルールその3。
悪霊になりそうなら消滅させる❗
そして名前がない霊を私は、ユースケ。
幽霊のユースケと名付けた。
その3つの約束をかわし、彼の婚約者を探すこととなった。
霊になると、自分の中で一番不要と思った記憶がどんどん無くなっていく。
ユースケの場合は本当に彼女の事だけなのだろう。自分の事はほとんど覚えていなかった。
彼女の名前は、宮下 紗奈さん。
大学から付き合い初めて、就職が決まったら紗奈さんにプロポーズをしようと決めていた。その矢先事故で亡くなってしまったらしい。
ありがちだよね。
タメ息をつく。
(響さん?聞いてます?)
急に目の前に出てくる。
うわっ❗思わず椅子から落ちそうになる。
「聞いてますよ❗聞いてますって 」
慌てて立て直し椅子に座りなおす。
「ねぇ。ユースケはいつ亡くなったの?
それが分かんないと見つけるの難しいよ。
既に自分の名前さえ忘れてんのにさぁー」
ベッドに横になりながらスマホで一応彼女の名前を検索してみる。
該当なし。
「他に思い出せる事ない?例えば大学の名前とか、いつもデートしてた場所とか、ぶっちゃけ家とかさぁー」
適当に検索を繰り返しながらふとユースケを見る。
切なそうな顔をしている。
その場の勢いで引き受けてしまった自分の事の重さを改めて感じた。
苦しいのはユースケだ。
死んでもなお、彼女の事を想い続けて悪霊となりかけている。
本気で向き合おうと決めた。
それからは彼女の名前、私に助けを求めてきた事を考えて近くの大学を片っ端から探した。)
それでも何の成果も得られないまま時は過ぎた。
女子高生をしながら徐霊もし、その上婚約者探しで私の体は限界に来ていた。
近くに霊がいるとどうしても他の霊を呼んでしまい徐霊の量が増えてしまうのだ。
とうとう高熱を出し寝込んでしまった。
どれくらいの時が過ぎたのだろう。
そんなことはどうでもいいような不思議な感覚に襲われる。
目の前にはキレイな景色が広がっている。
そしてキレイな川。
思わず足を浸けたくなるほど澄みきっている。
その川には見たことのない魚が泳いでいる。
なんだか無性に捕まえたくる。
私は裾を幕って子供のように川に足を踏み入れた。その時、
(帰って来て下さい。)と声がした。
周りを見渡す。こえの方に行かないと行けないような気もする。しかしその一方で反対側から懐かしい声もする。
小さい時に死んだおばあちゃんの声だ。
(ひーちゃんや、ばーちゃのとこ、きんさいや)
幼い時に聞いた大好きなおばあちゃんの声がする。思わずそっちの方へと歩き出す。
(こっちやよー)
おばあちゃんの声に導かれながら歩く。
その時❗誰かが私の体を力強くひきあげた。
その瞬間我に帰る。
振りかえるとそこに居たのはユースケだった。
(しっかりして。この川を渡るとあの世へ行ってしまう。響はまだ帰れる。)
そう言って私の手をとると来た道を戻り始めた。