庭の広さ(ショートショート25)
念願だった一戸建てのマイホームを購入した。
狭いながらも庭もある。
ところがだ。
いざ家に入居し、庭に立ってみて、オレたち夫婦はひどくがっかりした。
「三ツボだもんな」
「ええ、たったの三ツボ」
はなから狭いのに、それがブロック塀を建て、さらには犬小屋を置いたせいで、なおさら狭く感じられるのだ。
「これじゃあ、植木鉢ぐらいしか……」
妻がポツリともらす。
入居前。
妻はガーデニングを始めるのだと、ずいぶんはりきっていたのである。
「こんなのを猫のひたいっていうんだな」
オレはぼそりとつぶやいていた。
ポチがピクンと耳を動かす。
それから、
ウー、ワン、ワン。
オレに向かって吠えてきた。
あきらかに機嫌を損ねている。どうやら庭の広さを猫のひたいで例えたことが、犬のポチとしては気にいらなかったのだろう。
ワン、ワン。
ポチが庭の一画に向かって吠える。
まるで地面を掘ってみろといわんばかりである。
オレはスコップでそこを掘ってみた。
するとなんと……。
土の中から、梅干し入れのような茶色のカメが現れたではないか。
「まるで花咲か爺さんね」
妻もおどろいている。
「小判が入ってるのかもな」
オレはカメを地面から掘り出すと、期待に胸をふくらませて調べてみた。
カメの中は土ばかりである。
「なんだ、ただのカメじゃないか」
その言葉がさらに気にさわったのだろう。
ウー、ワン、ワン。
ポチは少し離れた所に行くと、鼻づらで地面を指し示し、振り返ってはオレの顔をチラ見する。
「わかったよ、そこも掘ればいいんだろ」
オレはそこを掘った。
だが、今回も無駄骨に終わった。さっきと同じカメが出てきて、それにも土ばかりが入っていたのだ。
「ポチのヤツ、わけがわからんな。こんなガラクタを掘らせやがってから」
オレはポチをにらみ、カメを放り投げ、スコップを地面に突き立てた。
ウー、ワン。
ポチがさかんに首を横に振る。
それから今度は、ワンワンと妻に向かって訴え始めた。
「ポチ、なんなの、どういうことなの?」
妻もわからない。
ワン、ワン。
ポチは別な場所に行った。それから妻を見て、しきりにワンワンと訴えるのであった。
「そこを掘ればわかるのね」
妻はスコップをつかむと、ポチの示した地面を掘り返し始めた。
そして。
そこからまたしてもカメが出てきた。
「あなた! これってカメじゃなくツボなのよ」
妻が声高に言う。
「どういうことだ?」
「ほら、ツボが三つで」
「三ツボか」
オレは悲しくなった。
三ツボの狭い庭を……。
ワン、ワン。
ポチがシッポを振ってかけまわる。
妻といえば涙を流しながら、腹をかかえて笑い転げまわっていた。