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いきなり試験に突入です?!⑤

 先生の細かい妨害を阻止しながら、わたしはなんとかバウンドケーキを焼くところまでこぎつけた。

 焼いているあいだも、オーブンの前に張りついて、先生の動きに注意を払う。


「桂ちゃん、そんなに見ていたら疲れちゃうよ」

「だって! 目をはなしていたら焦げるかもしれないじゃない!」


 笑いながら口にする晴香に、わたしはキッと顔を向ける。

 けれど、すぐにオーブンへと視線を戻した。


 少しでも目をはなすと本当に、先生が温度設定を変えちゃうかもしれないじゃない?

 晴香は、先生がわたしの妨害をしているとは気づいていない。

 その上、自分が狙われていることも知らない。

 この段階で失敗して、もう一度作りなおしなんてことだけは、どうしても避けたいのよ。


 無事に三十分が経過して、わたしはオーブンの扉を開く。

 美味しそうな香りとともに、綺麗な焼き色のついたケーキが姿をみせた。


「やったぁ」


 安堵の息をつきながら、軍手をはめたわたしは、オーブンから型を取りだす。


「桂ちゃん、やったね。粗熱がとれたあと、うまく型から出さなきゃね」


 同じように軍手をはめた晴香が、笑顔で告げる。

 晴香がずっとついていてくれた。

 味はたぶん大丈夫なはず。

 あとは、お皿へ綺麗に盛りつけて、先輩たちに食べてもらうだけだ。


 晴香にケーキを見てもらっているあいだに、わたしは機嫌良く、けれど細心の注意を払って、ケーキクーラーを用意すべく移動しようとした。

 そのわたしの背後へ、先生が忍び寄ってきた。

 ハッと身構えるように振り向いたわたしへ、先生は笑顔を浮かべたままささやいた。


「あなた、私に一方的にやられるだけで、なんの反撃もできないの? それでいざというとき、友だちを護れるのかしら?」


 そこまで口にすると、ケーキの冷め具合をみている晴香へと視線を向ける。


 反撃?

 先生相手に反撃するなんて、考えてもみなかったけれど。

 それが今回の試験のクリア条件なんだろうか?

 確かに、ケーキがうまく焼けるかどうかじゃないと思っていたんだけれど。

 もしかしたら、今回の試験って、そこの部分をみる試験なの?


 けれど。

 ひとくちに反撃といわれても。

 あっと先生を驚かせられる、一発逆転できる反撃の方法……?


 そこまで考えたわたしは、足もとに注意が向いていなかった。

 そして、先ほどぶちまけたバター入りの生地のせいで濡れた床で滑り、空を切った手が、そばのテーブルの上へ置いてあった小麦粉の袋に引っかかる。

 きっちりと口をしめていなかった小麦粉の袋は、わたしの手によってテーブルの上から飛んだ。


 舞う小麦粉の袋。

 空中でこぼれる中身の粉。


 その瞬間、ひらめいたわたしは叫んでいた。


「晴香! できあがったケーキを護って!」


 わたしの声に反応した晴香が、なにかの気配を察知したのだろうか。

 素早くバウンドケーキを型ごと抱えこみ、調理実習室の入り口へ向かって非難するように駆けだした。


「凪先輩! 上昇気流、起こせますかっ!」


 受験者の能力的お願いは聞いてもらえるはず。

 そう考えて続けて叫んだわたしの言葉に、訝しげな表情を浮かべながらも、凪先輩は言う通りにしてくれたのだろう。

 凪先輩の手が、彼の目の前の空間にひらりと舞う。

 その動作に合わせて小麦粉が派手に舞いあがり、空中で粉が四散した。


「留城也先輩、火花をお願いしますぅ!」


 呆気にとられた顔で、留城也先輩はわたしの言葉のままに右手を目の前にあげて、指を鳴らした。


 そして。


 ケーキを抱えて入り口の外まで避難していた晴香を除く全員が、降りかかってきた小麦粉を浴びて真っ白になった。


「――きみは、なにをやりたかったのかな?」


 粉まみれになり怒り心頭の凪先輩に睨まれ、わたしはうなだれる。

 無言のわたしに、凪先輩は言葉を続けた。


「馬鹿者! 粉塵爆発を狙ったのだろうが、そんな適当なことで起こせるわけがなかろう! 着火元となる留城也の火花のアイデアが良くても、粉塵雲と酸素の比率条件がそろわなければ粉塵爆発は起こらない。第一、本当に粉塵燃焼が継続して伝わる粉塵爆発が起これば、この程度で済まずに死者が出てしまうだろうが!」


 マンガでは絶対、この展開なら爆発すると思ったんだけれど。

 甘かった。

 それに言われてみれば、本当に起こったとしたら大惨事だ。


 意気消沈しているわたしのそばで、ヘロリと笑った真っ白の紘一先輩が、楽しそうに口をはさんできた。


「まあまあ。やられっぱなしと思いきや、大胆な反撃をかました桂ちゃんを褒めてあげてもいいんじゃない? 友だちもケーキも死守したみたいだし」


 そして、ムッとしながら頭を振って粉を落としている留城也先輩へ振り向くと、紘一先輩は続ける。


「ブルーの凪先輩も、ブラックの留城也も、グリーンのオレも全員真っ白だ」

「――笑いごとじゃねぇんだよ、紘一。どうすんだ? この惨状」

「参上、ホワイトレンジャー! なんちゃって」

「あ! わたしピンクが嫌なので、全員でホワイトレンジャー賛成ですっ!」

「馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」


 調子に乗ったわたしは、留城也先輩に一喝されて小さくなった。


 でも、そうか。

 以前から凪先輩にクイズのように出されていたメンバーの色、何色なんだろうと思っていたけれど。

 留城也先輩はブラックで、紘一先輩はグリーンなんだぁ。


 なんてうつむいたまま呑気に考えていると、もれずに真っ白になっていた先生がわたしへ声をかけた。


「あらあら、大変。これじゃあどうしようもないわね。あなたも思いつきは悪くなかったんだけれど。とりあえず、全員で校内のシャワーを借りにいきましょうか」


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