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どうやら歓迎されていないようです⑤

「まったく馬鹿らしい」


 急に留城也先輩が、不機嫌そうな声をあげた。


「凪先輩が血相を変えて生徒会室を飛びだしたところに遭遇したから、なにか起こったのかと一緒にきたが、とんだ茶番じゃねぇか。ついてきて損した。帰る」


 続けて言うと、さっさと図書室の入り口へと歩きだす。

 わたしは、ハッと気がついた。

 凪先輩も留城也先輩も、ふたりはわたしのことを心配して駆けつけてくれたんだ。


「あ、あの、留城也先輩、ありがとうございます!」


 慌ててわたしは、図書室から出ていく留城也先輩の背中へ声をかける。

 一瞬、驚いたように横目でわたしを流し見た留城也先輩は、けれど立ち止まらず、そのまま姿を消した。


「凪先輩もありがとうございます。心配をかけてすみません」


 すぐにわたしは、凪先輩のほうに振り向いて、頭をさげる。


「わかればいい。次からは気をつけろ。――きみが放課後、生徒会室へこない気がしたとき、透流さんから預かっていた受信機できみの位置を特定したんだ。これから、こんな手間をかけさせるな」


 しおらしくうつむいて、凪先輩の言葉を聞き流しながら、わたしは、ほわりとした透流さんの笑顔を思いだす。

 さすが透流さん、こういうことも見越していたのだろうか。

 おとなしく反省するわたしの横で、紘一先輩が悪びれもせずに口を尖らせた。


「なんだよ。それってまるで、オレが悪いことをしたみたいじゃないか」

「悪いことだとは思っていないのか? 紘一がしたことは、実際ぼくたちによけいな手間をかけさせている」

「オレは協力してあげようと思ったんだ」


 紘一先輩の言葉に、わたしは驚いて顔をあげ、彼を見た。


 協力って、どういうことだろう。

 眉をひそめる凪先輩とわたしの視線を、紘一先輩は臆することもなく受けとめ、悠然と微笑んだ。


「たぶん凪先輩は桂ちゃんに対して、最初にくるであろう実技試験の対策をしていたんでしょ? だからオレも協力したんですってば」

「え? 最初? 試験って、この一週間のあいだに一回だけ受けるんじゃないんですか?」


 思わず声をあげる。

 困ったような凪先輩の表情を見ながら、紘一先輩は笑顔のままでわたしに告げた。


「残念ながら、桂ちゃん。適性をみるための試験は何回かあるんだ。試験の内容を教えられないけれど、練習とかあれば、オレでも付き合ってあげることはできるよ」


 そうだ。

 紘一先輩も留城也先輩も去年、試験をクリアしてメンバーになっているんだ。

 さっきのことも、全部わたしのためを思ってしてくれているのなら、ここはお願いするべきところだろう。

 留城也先輩と違って、紘一先輩はわたしの試験に対して好意的に思ってくれている気がする。


「よろしくお願いします」


 そう言って頭をさげると、紘一先輩は、挑むような目で凪先輩を見た。

 凪先輩は、仕方がないというように、黙ったままうなずく。


「やったね! それじゃあ、オレは先に留城也のところへ行くよ。彼にも協力するように言っておかなきゃならないもんな」


 満足そうに叫んだ紘一先輩は、楽しそうに図書室から駆けだしていく。




「――きみから見て、紘一はどんな人物に映っている?」


 そのまま図書室へ残っていても仕方がないため、戸締りをした凪先輩とともに生徒会室へと向かう。

 その途中で、凪先輩は前を見据えながら、ささやくように訊いてきた。


「――そうですね。人の心が読める能力だなんて、びっくりです」


 正直に、まず最初に思ったことを口にする。


「それから、やることは突拍子もなかったですけど、親切そうで、性格も良さそうですよね。あと女の子に甘い感じがします。話し合いの余地もない留城也先輩よりも、うまくやっていけそうな気がしますけど?」


 凪先輩がわたしの言葉をとめる様子もなく黙ったままなので、続けて思いついたことを言葉に出す。

 すると、凪先輩が大きくため息をついた。


「紘一は、こちらが思ったことを読める。だから、あまりきみには最初から、彼の情報を教えないほうがいいかもしれない。良い印象も悪い印象も」


 含みがある言い方。

 いつものような、わたしをからかうための、もったいぶった雰囲気ではない。


「そんな風に言われたら、もっと気になりますけど!」

「ああ、そうだな」


 わたしは上目づかいになって不満そうに言うと、凪先輩は、そのまま黙りこんだ。

 どう口にするべきか、迷っているというような表情だ。

 なにかしら話してくれる気配がするため、わたしは歩きながら、凪先輩のほうから口を開くのを待った。


「――紘一は、サラブレッドなんだよ」


 ようやく口にした凪先輩の言葉は、それがどういうことをあらわすのか、わたしには、すぐにはわからなかった。

 首をかしげたわたしへ、凪先輩は続けた。


「心が読める能力を一族の長男が先祖代々継いでいて、彼はその直系にあたる。苗字の『左部』は、人の心が読めるという『さとり』という伝説の妖怪からきているそうだ。ぼくも苦労したクチだが、皆の期待を背負うということに対して彼はその比ではない」


 そこまで口にした凪先輩は、わたしのほうを向いて、なんとも言えない困ったような表情を見せた。


「きみは素直な性格だ。それ自体は良いことなのだが、あまり他人を信用するな。そういう意味では、好き嫌いがはっきりしていて態度にもでている留城也のほうが、わかりやすく扱いやすいだろうな」

「――それって、結局わたしは、どうすればいいんですか?」


 わたしは聞き返す。

 凪先輩はようやく、いつもの真面目な表情になって、わたしに言った。


「ここで聞いたことは忘れろ。気にするな。きみの単独行動をとめるために話したが、中途半端に思いだすと、紘一に考えを読まれることになる」


 だったら、こんな話で釘を刺さないで欲しい。

 遠回しな理由を言わずに、勝手な行動をとるなって言い方だけにしてくれなきゃ!

 そうじゃないと、絶対わたしは紘一先輩の前で、この会話を頭の中に思い浮かべちゃう気がするじゃない?


「まったく。このチームは癖のあるメンバーばかり集まる」


 そうつぶやきながらこちらを流し見た凪先輩へ向かって、わたしは思いっきり心の中で叫んだ。


 それは凪先輩も一緒です!


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