表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

不穏な空気

 小谷洋子が翔の仲間の手に堕ちた、という噂は学園内を駆け巡った。

 その噂を聞いた誰もが、不思議に思った事だろう。

 小谷洋子の本当の姿を知っている者以外は。



「ねぇ、どうして小谷さんが赤井君の仲間に捕まったの?」


「さぁ……、詳しい事は解らないけど、工藤さんに何かしようとして捕まったらしいけど?」


「やっぱり工藤さん絡みなんだぁ。凄いね、彼氏が学園のアイドルだと、障害も多い訳だ」


「でも、工藤さんも男子に人気高かったじゃない?それで赤井君随分先輩達から責められたみたいだよ」


「どっちも人気あるのも大変だね。でも工藤さんって、自分がモテてる事に気付いてなかったんじゃ?」


「だから余計に赤井君、責められてるんじゃないの?騙したとかってさ」




 学園中がこんな話題で蔓延まんえんしている頃、当のふたりはというと……。



 相変わらずそんな噂を気にする素振りすらなかった。

 もう慣れた、と言った方が正解かも知れない。


 特に咲は元々あんまり周りの雑音に気を取られる様な事はなかったし、翔はまだ咲を狙ってる奴がいないか、目を光らせていた。



 それより咲が気になってたのは、あの日を境に小谷洋子が学校に来なくなった事の方だった。



 あの時、確かにあたしは小谷さんの悲鳴を聞いた。

 でも、翔君は何も教えてはくれない。

 小谷さんに、何かした事は間違いない筈なのに。

 どうしてあたしには話してくれないんだろう?



 咲からしてみれば、そうだろう。

 けど、本当の事なんか、咲に言える筈がなかった。

 そして、本当は咲がその被害者になってたかも知れないなんて。

 翔が言える筈がなかった。




「ねぇ、翔君。あの時小谷さんに何したの?」


「えっ?俺は何もしてないだろ?ずっと咲と一緒にいたんだからさ」


「でも、あの時翔君、見るな、って言ったよね?あたしが見ちゃいけない事だったの?」


「う、うん……そうだな。あんまり見ない方がいいかな?」




 翔の言い訳もぐだぐだだった。

 咲が不振に思わない筈がない。

 咲が本当の事を知ったら、やっぱショック受けるよなぁ。


 あれで小谷は壊れたみたいだしな。


 まぁ、あれで普通にしてられる女は今までにはいなかったけどな。

 咲、小谷は本当は心が壊れて戻れなくなったんだよ。

 惚れてた俺の見てる前で、他の奴らにやられたんだからな。



 咲、お前だったらどうなる?

 咲だったら、俺以外の男に弄ばれたら死んじまうだろうな。

 だから、俺が守るしかないんだ。



「小谷は咲を罠に嵌めようとしてた。その罠に自分が堕ちただけだ。自業自得だ。」


「罠?罠ってどんな?」


「それは俺は知らないなぁ……。だからさ、咲ももう小谷の事なんか忘れろよ」


「そう言えば小谷さんに呼び出されて、いきなり翔君と別れてって言われて、何でそんな事小谷さんに言われなくちゃならないのかと思ったよ」


「あの女、そんな事を咲に言ったのか?何を勘違いしてんだかな」



 突然、泉が声を掛けて来た。



「ねぇ、赤井君。小谷さん大丈夫なの?何だかどっかの病院に入院したらしいけど?」


「泉先輩、その話しは今はまずいんだけど……遅かったか」


「翔君、小谷さんに怪我させたの?相手女の子だよ?」


「あ、いや、その、怪我じゃなくて多分精神的なダメージと言うか……ほら、やっぱり俺、咲以外眼中にないからさ。多分それのせいじゃね?」


「本当にそれだけなの?翔君何かあたしに隠してない?」


「何を隠す必要があるのさ?何度も言ってるじゃん、俺は何もやってないし、勿論咲が気にする事はないって」



 翔の言葉を聞いた泉は、ピン!と来た。


 成る程、小谷さんも赤井君の罠に堕ちた訳か。

 咲を守る為なんだね、赤井君。


「咲、赤井君が好きなら、信じてあげたら?」


 傍で聞いていた泉が翔をかばった。



「泉、何か知ってるの?最近翔君の肩ばっかり持つよね」


「咲が赤井君を信じなさ過ぎるからだよ。惚れた男なら最後まで信じなさいって、言ってるの」


「んー……何か引っかかるなぁー」



 納得いかないのは、あたしだけなの?




「まぁ、咲も今は色々あって動揺してるんだろうし、その内落ち着くんじゃないか。本当は一番ショックだったのは、小谷が俺に惚れてた事だろ?」


「うっ、それは……そうかも知れないけど……」


「ははっ、やっぱりなぁ。最近の咲前と変わったもんな。やきもちだろ?お前めちゃくちゃ俺の事好きだろ?」


「か、翔君!分かってるんなら、そこまで言わなくてもいいじゃない!」




 咲はそう翔に文句を言って、頬を染めた。


 そりゃあ、小谷さんの事はショックだったけど。

 それにいきなり翔君と別れろ、なんて言われて正直頭に来たのは間違いないけど。

 でも、どうしてそんな事言うんだろう?

 そう言えば、翔君前にもそんな女の子いたって言ってたよ。

 あたしが翔君と付き合ってる間は、誰からそんな事言われてもおかしくないのかなぁ。



「咲?どうした?黙り込んじゃって」


「うん、あの時あたし小谷さんにいきなり翔君と別れろ、って言われたけど、翔君前にもそんな女の子いたって話してたよ。じゃああたしは翔君と付き合ってる間はまた言われてもおかしくないって事だよね?」


「そんな事気にしてたのか。咲はそんな心配する立場にいないから、大丈夫なんだよ。って言っても分かんないかな」


「立場?それってどういう意味に取ればいいの?翔君?」


「そうだなぁ……咲だけは特別なだけ俺が愛してる、って事かなぁ」



 愛してるって、どんなふーに?

 胸が苦しいよ……翔君……。

 翔君の事を考えるだけで……胸の奥が痛いよ……。




「赤井君、その言葉、信じていいんだよね?咲は赤井君に本気で惚れてるんだから、咲を泣かせる様な事があったら、あたしは許さないからね」



 泉が珍しく声を荒げてそう言い放った。

 本気で咲を心配してるからこその、泉の思いやりの言葉だ。



「ははっ、泉先輩にそこまで言われちゃ、俺、絶対に咲を泣かせる訳にはいかないなぁ」


「ったく、当たり前でしょ?遊びなら許さないから。それでなくても咲は散々な目に遭ってるんだよ」


「あー……まぁそれは俺も分かってるつもりだけど、それより今は咲に直接被害が行かない様に抑える事の方が重要だから」


「被害……?なぁに、それ?」


「今回の小谷みたいな奴は幾らでも隠れてるんだよ。俺が族やってたのは聞いただろ?」


「うぅん、聞いてないよ。聞いたのはケンカばっかりしてた事だけだけど?」



 あれ?俺言ってなかったんだっけ?まずかったかな。




「翔君、族ってなぁに?」


「あ、いや、聞いてないんならあらためて話す程の事じゃないから。まぁ、中等部の頃の話しだしな」




 あたし……。

 翔君の中等部の頃の事、何も知らないんだ。

 どうして教えてくれないんだろう?



「ねぇ、翔君、中等部の頃に何やってたの?あたしには言えない事?」


「うーん、どうだろ?でも咲には想像出来ない世界かな?」


「それって、この間連れてってくれたお店みたいな?」


「あれは直樹のかーちゃんがやってる店だから、俺らの溜り場にしてるだけだよ。そんなに特別な事じゃないだろ?親の店に行くのはさ」


「うん、そうだね。みんな楽しい人達だよね、翔君の仲間って」


「みんなバカばっかやってるけど、ケンカは強いんだぜ」


「それって、自慢出来る事?」


「まぁ、男だからな。ケンカ強いのは自慢してもいいかもな。じゃないと大事な彼女ひとり守れないだろ?」


「さて、と。そろそろ時間だから俺戻るけど、咲には自分の身を自分で守る事は出来ないから、危ない行動はすんなよ?」


「危ない行動って、なに?」



「基本はひとりにならないで欲しいんだ。何処か行くにしても泉先輩に一緒にいて貰ってよ。勿論、トイレもね」


「トイレ?そこまでする必要あるの?」


「うん、前に俺が遊びで付き合ってた女が、トイレで誰かに水ぶっ掛けられた事あるんだ」


「なにそれ、怖いよ……」


「誰か一緒にいれば出来ないからな。泉先輩よろしくね」


「分かった、咲はあたしがちゃんと見張ってるから、心配しなくていいよ」


「んじゃ、放課後迎えに来るからさ。あ、咲今日はどうする?家に帰る?」


「えっ?なに言ってるの?帰るのは当たり前じゃない」


「ふぅん、そっか。残念」




 翔の顔に、落胆の色はこれっぽちも見られなかった。

 どうせ俺とふたりになったら、咲は俺の言う事を聞くしな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=549147387&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ