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翔の決意

 次の朝、翔は早目に家を出て、咲の家に向かった。

 もう授業以外は俺が傍に付いてるしかない。



 昨夜仲間と相談して出した結果だった。


「取りあえず迎えに行く事を知らせとくか」



 携帯を取り出し、咲にラインを送る。


『今から迎えに行くよ』



 咲はそのラインを見て「えっ?なんで?」と驚いた。

 自分の置かれてる立場がまだ咲には分らない。



 咲は「どうしたの?」と返信した。

 すぐに返事は返って来た。



『今は咲をひとりに出来ないからだよ』



 そのラインを見ても、やっぱり何の事だか分らなかった。


 昨日の騒ぎはもう忘れてるのだろう、今自分に火の粉が降りかかってる事など考えもしていない。


 やっぱり危なくてひとりには出来ないな……。



 そんな事を考えてる内に、翔は咲の家の前まで来ていた。



「おはよう、咲。変わった事はなかった?」

「翔君、いきなり迎えに来るなんてどうしたの?」



 既に昨日起きた事など忘れていた咲だった。



「昨日のあの悪質なメールは悪戯じゃない。咲は今は誰だか分らない相手に狙われてるんだよ」

「えっ?でもアドレス変えた後はあのメールは来てないよ?」


「それは今だけだと思う。きっと何かの方法でまた咲のアドレスを調べて嫌がらせして来る筈だよ。だから今日からは授業以外は俺が咲の傍に付いてる事にした」


「もの凄く大げさな感じがするけど……そこまでする必要があるの?」


「まぁ、前にも同じ様な事はあったんだ。俺が付き合う女は殆んどが被害に合ったよ」


「被害?翔君、被害ってなに?」咲はびっくりして聞いた。


「あんまり咲には話したくないけど、俺がいない時でも気を付けて欲しいから話すよ」翔は重い口を開いた。


「俺が付き合ってた女は、みんな同じ様な手口である日ある場所に呼び出された。もちろん俺の名前を使ってな。それでのこのこ出掛けて行った女は待ち構えてた男達に拉致されたんだ。その女の末路は……男共によってたかって輪姦まわされたんだ。そのまま正気を失って、今も入院してる女もいるよ」


「まわされるってなあに?翔君?」

「へっ?はぁ~……、そこから説明するのかよ……。俺の口からはちょっと言い難いから、泉先輩にでも聞いてみてよ」



 咲からしたら素朴な疑問だったが、翔は咲がそんな事すら知らない事に驚いた。

 そしてそれと同時に背筋が凍り付く様な悪寒を感じた。



 どうやって咲を守ればいいんだ……??

 遊びの女じゃないんだ。

 俺の唯一の宝物なんだ。


 咲に何かしたら俺はその相手を生かしておかない。



「取りあえず、学校行こうか?」



 不安は取れない、咲を守る策もこれ以上出なかった。

 今は静かに傍に付いてるしか、ないんだ。



「じゃあ、休み時間になったらまた来るから」



 翔はそう言い残して、咲の教室を出た。

 大丈夫だろうか?




「おはよー咲、赤井君迎えに来てくれたの?」


「うん、いきなり朝来たからびっくりしちゃったよ。泉、あのさ、まわされるってどんな事か知ってる?翔君が泉に聞いてみろって言ってたんだけど」


「へ?随分物騒な事言ってるけど……何があったの?」

「翔君が……前にも同じ事があったって。その時も誰かに呼び出されて、出掛けて行った子がまわされたとかって言ってたんだ」


「ふぅん、それはヤバいね咲。あ、あの後メール来た?」

「ううん、アドレス変えてからはもう来てないよ」


「咲、もし誰かに赤井君の名前で呼び出されても、まず赤井君に確認する事。それだけでも咲は危ない目に遭わなくて済むと思うからね。教室にいる時はあたしが付いてるから」



 泉の以外にも真剣な表情から、咲はようやく自分は今大変な事に巻き込まれてる、という実感が湧いて来た。

 ただ、翔君と付き合った、その事実だけで咲の世界は大きく変わっていった。


 そして今も多分、何処からか自分を狙ってる人物は、確かに存在するんだ。





 ------キーンコーンカーンコーン------



 休み時間、約束通りに翔は咲の教室に来た。



「咲、何か変わりはない?」

「翔君、本当に来たの?別にないよ」



 そこへ泉が割り込んで来て、翔に詰め寄った。



「ちょっと、赤井君。咲を随分危ない目に遭わせてるみたいだけど、ちゃんと守れるんでしょうね?」


「泉先輩が怒るのも無理はないけど、まさかこの学園内に犯人がいるとは考えてなかったよ。俺のダチにも咲を守る事が俺のやるべき事って言われたし。大丈夫、俺が咲を必ず守るよ」


「授業中はあたしが付いてるけど、後は赤井君に任せるしかないんだからね?」


「うん、前の女は遊びだったから別に深く考えなかったけど、咲だけは違う。俺が守らなきゃならないたったひとりの大事な彼女なんだ。だから心配で不安でどうしたらいいのか、本当に分らないよ……」力なく話す翔。


「翔君、それ、考え過ぎなんじゃ?」


 と、咲が言った瞬間「「だから、少しは自分の立場を考えなよ!」」と、翔と泉のふたりから怒られた。


「立場?立場ってなに?あたしにはさっぱり分らない事ばかりで、それであたしにどうしろって言うの?」


 語尾は泣き声に変わっていた。


 慌てたのは翔だった。

 自分のせいで咲を追いつめた。


 結果、咲は混乱して泣いてしまった。



「咲、ごめん。全部俺のせいなのに、咲にばかり辛い思いさせちゃった。俺が守る、だから咲は俺から出来るだけ離れないでいて欲しいんだ。それだけは分かってよ」と、辛そうに翔は言った。


「咲、赤井君の言う事聞いときなよ。あんたが今まで誰とも付き合わずにいたのに、赤井君の時にはその場で付き合うって答えた時は、正直驚いたんだ。でも咲は赤井君に何かを感じたからなんじゃ、ないの?」



 泉の言葉はさすがに咲をよく知ってるからこそ、出たのだろう。

 核心に迫っていた。



「授業が始まるから、俺は戻るけどまた次の休み時間に来るよ。何か方法はないか考えてみるけど、今はただ咲の傍にいるぐらいしか出来ないんだ」


「うん……。分かったよ」



 咲の落ち込み方は、見るに堪えないものだった。



「あたしが付いてるから、何かあったら知らせる様にするよ、赤井君」

「うん、泉先輩。それじゃ後はよろしく」


「咲?大丈夫?あたしも赤井君も付いてるからね。誰にも咲に指一本触れさせないから、元気出しなよ」

「ありがと、泉……」



 何が何だか分らないうちに、咲の日常は大きく変わっていった。



 翔と付き合う様になってから、だけど。

 そんなに翔君と付き合うのって、大変だったんだ。



 咲は今更ながら、翔にどれだけのファンがいるのか分かる様な気がしてきた。


 そして、その怒りの矛先は自分に向けられている、という事も何となく理解出来た。



 嫉妬って恐い。

 人を魔物に変えてしまう力がある。



 咲は、自分の席に座ってぼんやりと窓の外を見ていた。

 もちろん授業なんか、今の咲の頭に入る筈がなかった。


 ただひとつだけ、今の自分にも分かる事があった。


 それは。

 翔君を誰にも取られたくない、という思い。


 自分がどんな危険に晒されてるのかは分らない。

 でも、翔君は守るとはっきり言ってくれた。



 それだけでもいいじゃない?

 泣いてる場合じゃないよ、咲。

 こんな時こそ、自分が一番しっかりしなくちゃいけないんだから。



 本来持っている、咲の心の奥にある性格がそう言っていた。

 伊達だてにチアガール部の部長をして来たわけじゃない。



 咲は芯は強いのだ。

 嫌がらせなんかに負けない。


 だって翔君があんなに一生懸命守ろうとしてくれてる。



 今は翔君を信じよう。

 そう考えたら、何だか気持ちが軽くなってゆく気がした。


 ふ……と、気が付くと翔からラインが入っていた。




『咲、さっきはごめん。咲の気持ちも考えてなくて。一番不安なのは咲なのにな』

『大丈夫だよ、もう落ち着いたから。だってあたしには翔君が付いててくれるでしょ?』


『うんそうだよ、よかった。また昼休みに行くよ』

『あたし今回の事で翔君と付き合うって大変なんだなって、ちょっと思ったよ』


『俺の心は咲一筋。誰も俺達の仲を邪魔させないからな』

『それ、信じていいの?』


『当たり前だろ?まぁその内分かるよ』




 この時翔はあるひとつの事を決意していた。

 咲、お前の全てが欲しい。




 咲の全てが欲しい......。

 ずっと我慢して来たんだ。



 咲と付き合う様になって、咲が男と女の事を何も知らないのはよく分かった。



 だから本当は大切にしておきたかったんだ。

 でも、今の咲には逆に男と女の事を教えた方がいい気がする。



 そうすれば少しは男の怖さってもんが身に染みて理解出来るだろう。

 ……本音は自分がもう我慢の限界だって事は内緒の話しだが。




 ----…昼休み。




 翔は咲の教室に一目散に向かった。

 今は一分一秒も咲から眼を離すのが怖かった。



「咲、変わりはない?」

「翔君、そんなに急いで来なくても泉もいるし、大丈夫だよ」


 あ~……。

 やっぱり咲の明るさの訳って、この天然さにあるんじゃないのか。




 でも、温室で育った様な咲にあんな事が襲い掛かったら、咲は間違いなく自殺してしまうだろう。



「泉先輩、ありがとう。咲にはやっぱり自分の置かれてる立場が分かってないみたいだ」

「そうなんだよねー。だからって咲にあんな話しは刺激が強すぎるし」

「なんの話し?」





 咲はきょとんとして、ふたりの会話を聞いていたが『あんな話し』が気になったのだろう。


 翔と泉は目配せして、話しを逸らした。




「咲、次の日曜日部活終わってからどっか行かない?気晴らしにさ」

「え、いいけど……。うちの部は休みの日は基本午前中で練習終わりだよ?バスケは午後もあるんじゃないの?」


「大丈夫。上手くやるから」




 その話しを聞いていた泉は、ピンと来た。


 成る程ね~。

 赤井君自ら咲に教えるわけね。



「じゃあ日曜日、約束だよ」



 心なしか、翔が楽しげにしてる様に見える。



「うん、分かった。部活終わったらメールして」



 咲は何も警戒する様子すら、見せない。



 やっぱりな……。

 俺の下心も見抜けないのか。



 本当に危なくて放って置けないよ。

 でもこれで咲の全てはこの俺のものになる。





「咲、赤井君と初デート?いいねぇ~」

「デート?デートなの?気付かなかったけど」


「あのね、男と女がふたりで出掛ける事を世間ではデートって言うんだよ。本当に咲の頭の中は部活で一杯なんだから」


 咲は「そっか、それで?何するの?」と泉に聞いた。


「えっ、それはその人達次第なんじゃないの?」



 びっくりしたわ。

 思わず口を滑らすとこだった。


 せっかく赤井君が咲の為に考えてくれてる事を、邪魔しちゃあ悪いもんね。



 赤井君、咲を頼んだからね。

 あんたしか咲を守れないんだから。

 まぁ……原因も赤井君なんだけどね。




「泉?どうしたの?練習始めるよ」

「あ、ごめん」

「どうしたの?泉らしくないんじゃない?」


 晴美が不思議そうにそう声を掛けて来た。


「後で教えるから、咲に知られない様にさ」


 と、そっと晴美に耳打ちした。

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