EP1-3・サザナミインザコンバート
動こうと思った。メグは生きたかった。
シーカーは凶暴凶悪な種族である。知性はほぼ無く、他の動植物全てを捕食する。
彼らの知能はとても異様である。人間で言う三大欲求しか存在しない。寝るか繁殖するか食うかしか能がない。そんな動物は少ない。機械的過ぎる。
しかし逆を言えば、彼らはそれさえ出来ればどうでも良いらしく、その目的を果たすためには他の生き物を蹂躙することも厭わない。
巣を作るのに適した場所に他の生き物がいるならば殺すし、丁度良い温床がなければ他の如何なる生物の雌を攫って胎内に卵を産みつけ苗床にするし、食糧が足りていないなら群れで近くの群れや村や街を襲って肉も草も確保する。そんな野蛮な種族だ。
メグはただ、少し戦えるだけの十七の少女である。そんな地獄から出てきたような非生物に遭遇などしたくない。苗床か食糧かどちらにもなりたくはない。
メグはなるべく音を立てないように体を起こし、瓦礫の山から這い出た。まずは武器を探さねばならない。自分のでなくてもいい、死体のものでもいい、戦える力が欲しい。
幸いにして雨が降っている。視界も悪いし音も聞こえづらく匂いも落ちる。虫たちにはあまり良い狩場とは言えまい。
シーカーの包囲網は半径百メートル弱。中心はメグから少し離れたところにある列車の残骸だ。丁度いい餌になる肉が転がっていないか確認しに来たのか、あるいは自分達に害意のある新手がいないか偵察しに来たのか。どちらにせよすぐにメグは見つかってしまう。
石を投げようとメグは思った。少し大きめの石を包囲網の外へ投げれば、着弾点の近くにいるシーカーはそれを見に行く。その部分の包囲網は穴が開く。
シーカーとシーカーの間は約十メートル程。気味が悪いくらいに統率が取れている。
思い立ったらすぐ、メグは足元の一メートル四方の瓦礫を掴んだ。二十キロはある。
気合を入れて遠くへ投げる。それだけでいい。その方角が空くはず。
メグは大きく振りかぶった。
マリョクユーザーの筋力は並みの人間の五、六倍だ。
だから簡単に放り投げられるはず。
だったはずなのに、メグの肩はすっぽりとネジが外れたように力が入らなかった。実戦経験も豊富な彼女はこれ程自分が焦る場面はそうなかったと冷静な部分で思い返した。
必死で何度も投げようとするが、腕が上がらない。
六回目、もう時間がない時に、メグは失敗した。
手から瓦礫が滑り落ち、足元の地面と盛大に激突する。派手な音がなって、持っていた方の瓦礫は砕けた。
虫たちの動きは早かった。
メグのいる場所へカサカサとした節足動物特有の関節がきしむ音が集合していった。
気持ちが悪い。
吐き気がした。
メグは短い人生の終わりを自覚した。
こんな訳のわからない終わり方が、世界の終わりなのだと悟った。
自分の使命など、果たしようもなかった。
メグは謝った。
この使命を任せてくれた長に。この場所へ少しでも催促してくれた薄ぼけた光に。そしてまだ見ぬ、背後に感じていた大いなる気配に。
虫たちはメグから十メートルの所から飛び上がった。
群がっていた。
水面の餌を求める哀れな鯉の群れめいた貪欲な波は、すぐにメグを飲み込む。
三秒程だった。