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不可思議な物探し

「しかし四年ぶりの食事だったな、あとは久しぶりに風呂に入りたいもんだ」


蝶は再び守衛のために、屋敷に戻り昼食は終わった。蝶の話によればなんでも住居は空き家ならどこでも良いそうで、午後は空き家探しをすることにした。その結果。何ともボロイ町はずれの小屋にたどり着いた。無論ほかに良いところもあったのかもしれないが、半日で見つけるのは困難でおまけにあの化け物どもは神出鬼没、下手なことして近所づきあいが悪くなってからでは遅いと思い。人のいない郊外に来たというわけだ。


「しっかしこの家は何てぼろさよ。木造でありながら、雨漏りしそうな屋根に穴の開いた壁、土まみれの床とは長い間無人だったんだな」


まずは清掃に取り掛かった。無論箒などあるわけがない近くの木の枝を切り、それを束ねて作ったのだ。一通りはくことはできたが、やはり雑巾がないため多少埃っぽく、これでは仕方ないと道具を探しに夕方の春都の街に出かけることにした。


「道具、道具屋はどこかなー、と」


夕方の道はカゲまみれでよけることが困難になってきた。昼でさえ蝶に注意してもらいながら言っていたのだから当然といえば当然だ。


「えーと、この建物の影は踏んでよし、あの路地の影はカゲ、となると」


「おい、あんたさっき食事してた人間か?」


狭い裏道のかべかにもたれかかりながら老人のような声の人影が俺にそう訪ねてきた。そいつの口ときたらまるで子供の落書きのようなぐちゃぐちゃな口で、唇とか歯とか区別するのが難しいところがあった。影は皆自分で顔を書くんだろうか?そんなはずはない店のやつも俺の影もしゃべれるやつは皆しっかりとした口があった。それに影の口は自傷行為をしないと作ることができないいわば刺青のようなもののはずだ。


「そうだけど、あ、ひょっとして食堂にいた影の一人か?悪いな、初めて聞いた声なもんだから、誰だかわかんねぇんだ」


「おうおうそんなことだろうと思ったぜ、ま、お前さんにとっては人影や物陰、闇はみんな同じようにしか見えそうにないだろうしな、おっとそんなことを言いに来たんじゃねぇ、お前さん服とか家とか困ってんじゃねぇか?」


「なんで知ってんだお前?」


すると得意そうな口でこう続けた。


「へへ、自己紹介がまだだったね、ま、名前なんて影しかないんだけどな、情報収集が趣味な人影だ、まぁこの老人にお前さんの話を聞かせてくれるなら、ある程度のことはするつもりだよ、なんたって人間なんて珍しくて聞きたいことも山済みさ、」


そういうと彼は自分の体をうねらせ手に八枚ほどの札、命令の書かれた札を体内から出した。


「こいつは御恩として元の世界に帰って行った奴らの札さ、こういうものが俺は好きでねこいつはコレクションのほんの一部さ、どうだいあんたもわしにくれないか?」


こいつその情報収集とやらで俺の家事情まで知ってやがったのか。何ともいやな奴だ。おまけにこの胡散臭さと言ったら俺の脳内審議所では『信用するに値なし』と判決が出ているほどだ。


「ずいぶんとグイグイ来るやつだな、お前にそんなことされる筋合いはないし、俺の札はそう簡単には見せることなんかできねぇ品物だ」


「へ?なんだそりゃ!余計にほしくなったぜ!なぁ、くれよ!」


どうも言い方が悪かったらしく余計にかぎつけられた。正直に話してやってもいいがあまりそういうことをして騒ぎにしたくないという気持ちもある。だがここで一回曲げてしまうとこのタイプのやつはグイグイときちまうからある程度距離を取るべきでもある。


「やらねぇ、失せろジジィ」


「わかった、じゃぁ元の世界帰るときなったらくれ!それまでの間、俺は持ちうる情報すべてを持ってあんたをサポートするよ」


「は?」


何を言ってんだこの爺さんは、誰があんたの情報なんざ欲しがるかよ。


「その話本当か?仮にそうだとしても俺から提供できるものは札しかないぜ?」


「ああいいさ、ここだけの話その手に関しては俺ほど頼れるやつはいないと自負してるくらいだよ」


「どうも怪しいな、だいたいあんたが俺に何でそこまで協力的なのかもよくわかんねぇしな」


そういうと影は少し頭をかき、恥ずかしそうに言った。


「そりゃぁ、なんだ・・・あんたが新参だからさ!先輩としても捨てきれねぇのよ!」


「なら言うが余計なお世話だ、じゃぁな爺さん」


「あ~、待て待てって、本当じゃぞ~嘘じゃない」


「はいはい」


「後悔させんぞ~」


「うるせぇ」


「たーのーむー!」


いい加減しつこいやつだな。そこまでしていったい何が得するというのか。


「ああわかったよ、わかりましたじゃぁ頼んだじじぃ」


めんどくさいし従っておこう。


「へ、本当か!」


意外そうな、それでいてうれしそうな口調で俺に尋ねてきた。俺はこの世界に来るまで影なんか、ましてやしゃべるかげなぞみたことはない。だが、なんとなく個体差のようなものが見えてきたような気がした。


「はよ連れてけジジィ」


「で、でもさっきあんなに嫌がってたじゃないか」


「なら帰るわ」


「よしきた!ついてきな同士!約束通りあんたを店に案内してやる!」


俺が逃げないようにしっかりと手を握りずかずか引っ張て俺を往来の多い道連れていった。影ってふめはしたが触ることはできないはずなんだがと俺は不思議に思うも、強引な誘導にあらがうすべもなく言われるがままに歩いた。


「さぁ、掃除道具つったらここだ!」


そういわれまずやってきたのは箒屋だ。無論看板があるわけではないが箒しかないのだからそうなのだろう。


「おい、箒くれ店主」


そういう老人の声がかかると店内からナニ化化け物が現れ無造作に箒を取ってこちらに投げてきた。奥からは蝙蝠らしきものがこちらを凝視しているのが見えた。あれが店主なのだろうか?


「おいもっと物は大事にしなくそざる!同士こいつに気をつけろ、あの向こうに見えるコウモリはペットでこのサルが八宇治様の臣下だ、間違えるとうんこなげてくるぞうんこ」


「間違えるのはおめぇくれぇだよくそじじぃ!」


「わ!なんだ聞いてたのかよ、おい、行くぞ!」


そういって老人はつぎの店に行くよう催促を促す。どうやらこいつはこの店に嫌われているらしい。


「なぁ、あんた」


かくいう俺はこのさるに少し引き留められた。先ほどから俺はさると呼んでいるが、そうあいつが言っていただけであってこいつはニホンザルでも何でもない毛むくじゃらの、そう人間サイズのトカゲみたいなやつが仁王立ちしてさるのしぐさをまねている。そんな生物に見える。


「なんだ?」


「本当に人間かい?あんた街では結構な有名人で噂になっててね、人間が来るなんてなかったから姿が似てるだけなんて話も出ているんだよ、まぁ私はどちらでもいいけどね」


「正真正銘人間だ、名前は星遼太郎」


「そりゃぁ、ご愁傷様、人間がこの世界でできることなんてのは限られてるもんさ、おっと自己紹介しないとね、私は箒屋を営むサルさ、命令は『箒を一億本作る』なんだけどね、まだそんなの作れきれてなくてこのざまさ」


それはまたずいぶんと無理難題を押し付けられたものだ。しかし人間は本当に珍しいんだな、他にはいないのだろうか。


「お前、この世界に来る前は何者だったんだ?」


「何者?そりゃぁ、どっかの世界で生きていたなんかだったってのは覚えてるよ、だけどそれ以上はねぇ、どうでもよくなって長くここにいると忘れてきちまうねぇ」


この反応は蝶とまったくそっくりだ。この街のやつはむかしのことはわすれているのか?そもそもこいつらは俺と同じように拉致されるようにここに来たのだろうか。まだまだ聞きたいことは山済みである。


「ま、一つゆうなればここじゃその手の話は厳禁だってことだね、あまり過去を詮索する奴は好かれやしないよ、あの影みたいにね」


そういうと店主はさるを店先から覗くように見ながらつぶやいた。


「あいつはそういう話が大好きだからここらじゃ嫌われ者だよ、あんたもあいつとつるむんだったら気を付けるんだね、箒もやったし、他に欲しい物あるかい?」


「なぁ、あいつ本当に影なのか?なんか俺でも普通に触れるし手から温かさすら感じられたぞ」


「え?しなかったのかい?あいつはカゲじゃないよ、よく体を見てみな」


そういわれてみてみると物陰にいたときは気づかなかったが、腰から下がスカート、いやそもそも全身をマントでかぶってるようにも見えた。つまりなんだあの落書きみたいな口は本当に落書きだったってことか。


「あいつは、影のふりをしてそこらを嗅ぎまわってるのさ、自分の顔がばれたりでもしたら誰も自分を信用しないからってねまったく汚いやつさ」


そこまでするようなやつなのか。なかなかスパイのようで気合が入っているじゃないか。いや、というかおれは相手の素性も分からず信用してついてきたというのか。案外この店主に話を聞かせてもらって正解かもしれない。


「噂じゃその情報を八宇治様に夜な夜な報告しているらしいよ、あんたもあいつといるなら仲間と勘違いされないようにしな」


「肝に銘じておくよ」


店を後にするも店主の言葉を聞いて少し安心したことがある。それはこの影が信用できる奴だとまではいかないも言っていることは本当だとわかったからだ。こいつは人に嫌われるまで本当に調査を続け、相当ため込んでいる。協力者として改めてほしい人材だと思った。だけどそれと同時に俺にうそをついているということも、わかった。俺はてっきりこいつは食堂で出会ったやつかと思っていたがそんなことはなくそれどころか影ですらなかった。こういう詐欺師のようなやつはさっさと利用して捨てるのが定石というものであろう。そうでなければ周りからどんな目で見られるかわかったものではない。


「ささ、同士速くこっちだー!」


元気のいいジジィの声が俺を呼び、また同時に周りから注目された。どうやらもうお仲間になったと噂になっているのかもしれない。先が思いやられることになる。


そこからのやり取りは似たようなものだった。たとえば大工の長屋に頼みに行ったときは


「てめぇまた悪びれもなく入ってきやがってなめてんのか!は?客だぁ!んな分けねぇだろ!」


と罵声とトンカチを投げられ俺が説明するまで信じてもらえずまた布団屋に行ったときは。


「塩だ!塩まけー!っておい人間がいるぞ!あいつお客だ!」


と俺は自分の布団を塩まみれにされそうにもなった。そうなると次に行く雑貨屋はこいつを連れていくとろくなことがないと学習し、道案内させて近くに来たら物陰に隠れさせ一人で行動した。そのおかげで無害となり万々歳だったが本人は不満げだった。


「・・・それじゃぁ同士、これで住める程度の問題ない民家にはなっただろ」


「ああ、まさか今日一日でできるとはおもわなかったよ」


あの後、家具をそろえ、大工を呼び、この廃屋を治すためにいろいろな奴らに会いに行った。この老いた影モドキはあまり歓迎されてはいなかったが、依頼自体にはとても好印象をもたらされたようで多くの化け物が協力して夜にはあかりのあるこじんまりしたお家が完成した。


「そうだな、これで信用する気になったか?同士」


玄関口から満足そうな声で影モドキが言う。


「ああ、ま少しぐらいはな」


それに対し玄関から応答する。


「それで何だがな、お前さんに頼みがあるというかだな」


何やらとても重要そうな話である。その証拠に俺は家の戸を閉め、どんなな頼みからも退避するため入ってこれないようにした。無論本物の影なら潜り抜けられようが。


「なんだジジィ、札なら帰るときにやる」


「いや、そうじゃなくな」


「明日聞くからもういいだろ、夜も遅いし帰れジジィ、お休み」


「そ、そんな!こんなに親切にしてやったのに野宿とは!おいバカ開けんか!俺を泊めろ!」


「いやだよ自分の家くらいあるだろ!」


「こんな夜道歩けるか!泊めてけ!」


「お前影だろ一番本領発揮すべきところだろうが!」


「影がみんな夜が好きなわけではない!中には嫌いな奴もいるんじゃ!」


どんどんとたたく音がするがひっかえ棒が入れようとはしない、気にしない気しない、新調した布団で寝るとするか。


「たのむー、グス入れろー、グスグス」


ん?まさか泣いてんの?


「怖いぃー、こんなことなら親切なんざするんじゃなかったぁ、ッヒック」


おいおいマジかよ老人どんだけ夜が怖いんだよ子供か!


「うう・・・ヒック、ヒック・・・ううう」


「わかったよ開けるよ開ける、明日には帰れよ」


よくよく考えてみればこの老人にはそれ相応の恩があり、またそこまで鬼畜にはなれない心もあり。俺はつっかえ棒を外し老人を家の中に入れることにした。


「ほら入れよ・・・・!?」


おれは確か老人といたはずだ。その証拠にそいつはかすれた声をしていた。背が低かった。だがそれは証拠不十分だということを、おれは知るべきだった。いまだに衝撃を隠せないが玄関口で座って泣いているのは肌もしわがなく、うるんだ瞳と、傷んでいない黒色の長髪を兼ね備えた14ほどの少女がマントかひょこっと顔をだし手で必死にマントをつかんでいる姿だった。


「おい、じじぃ・・・だよな?」


俺の問いに対し、少し鼻水をすすって少女は言った。


「泊めて・・・ください」


無論、朝まで一睡もできなかった。


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