食事
命令を聞いてから、町の中をなんとなく歩いていた。道行く奴らに人間などおらず。また俺の話を聞いてくれそうもない。
現状を説明するならば四面楚歌という言葉ほど似合うものはない。門を出た瞬間から俺は命令に従い、それを完遂しなければいけないのである。そうと決まれば方法を考えなくてはいけない。
反乱か?それは難しい、この世界は命令された奴しかいないから少ない数での戦争になるだろう。いや、そもそも戦うっていったい誰と戦うというのだ?守衛か?この世界の兵士って彼ら以外見たことがないからもしかするとそうなのかもしれない。しばらく探検する必要があるな。
「いたいた待ってください!同士!」
ガシャンがシャンという金属のこすれる音と一緒に後ろから声をかけられた。蝶だ。どうやらあの屋敷から走ってここまで来たようで息を切らせてこちらによって来た。
「これ、この札を持っていってください、あなたの命令が書いてあります」
そういって彼女は首にかけるのであろう紐で結ばれた木製の札をこちらに手渡した。そこには確かに「国を乗っ取る」と書いてあった。ずいぶん大胆と書くな、というかこれをみて蝶は何も思わないんだろうか?もしそうだとしたら相当肝っ玉の据わった人だ。
「ああ、どうもこれみんなつけてるのか?」
「ええ、私だってほら」
なるほど確かに首にかけてある。
「そうだ!観光ついでにこの後食事でも行きませんか?」
「はぁ、ずいぶんと親切にしてくれるな同士」
「ええ、影との約束でしばらくあなたの面倒を見ることになったんです」
「え?そんなこと話してたっけ?」
「いえ?貴方が来る前に話してましたから、本人がこの生活になじむまで生活を見てくれって」
「それいつのことだ?」
「二年前です」
影もずいぶん根回しのいいやつだな。
「飯か、でも俺金ねぇぞ?」
「そんなもの必要ありませんよ、給仕もこの街では命令の一つです、ほかには住むところも空き部屋ならどこでもいいですし着る物だって支給されます」
そうか、ずいぶんといい街だな。
「じゃぁ住居を探すついでに行ってみるかな?」
「はい!ついてきてください同士!」
彼女に誘われうしろについていくことにした、往来がある大きい道を行くが店や住居の庭、広場、ちょっとした上り角にやはり春の植物のが咲いており。桜、梅、牡丹、などの色鮮やかな春が見られ。その木に止まっている鳥たちもヒバリ、ツバメなどの春独特の物が見られる。
「なぁ、ここはどんな食い物があるんだ?やっぱり春の食べ物なのか?」
「春かどうかは知りませんが、ワズラヒやフシとか食べれえますよ?」
ん?なんだって?
「それは魚か何か?」
「鳥です!ドロドロしててとてもおいしんですよ!」
「えぇ、そうは思えませんがね」
「まぁまぁ、ここですここ」
そういわれ指さす建物の外見は現代の食堂のようなもので馴染み深いものがあった。いや、完全に食堂だ。
「店主!この同士に『ア』をください!」
「あいよ、同士、『ア』といつものおいとくから、席に座りな」
どこからともなく声がする。これが店主なんだろう。
「なぁ、誰が話してるんだ?」
「誰ってい言われると困りますけど、店主です」
「店主も何も、この空き家にいるのは俺と同士だけだろ・・・確かにこの食堂?は広いがあかりがないせいで反対の壁まで見えないじゃないか?」
入って驚いた、まさか食堂に見せかけた唯の空き家だったのだ、あたりはほこりまみれで当然客はいないし汚いし、机やいす、箸なども見当たらないし、この食堂は表からのさしこんでいる光源とコンクリートの床で支配されているようなさびしいところではないか。その証拠にここの静寂さときたら外の往来の声と正反対なぐらいだ。どうやらこの蝶という人物もなかなか特殊な人らしい。
「いいえ?ここは確かに食堂ですよ?」
「ふ、じゃぁ座るところ探そうか?あ、すいませんお隣いいですか?あれ、ここにおとなりいるのかな?それとも俺はただパントマイムさせられてるだけなのかな?空気椅子では食事は困難かな?」
「何やってるんですか、席はこっちです」
彼女はそういうと、手招きしか見えないほど暗い食堂の一角に連れてこようとしていた。どう見てもそんなところで食べるやつはいない。玄関からの光しか照らさないこの部屋でそこにいたくはない。
「そこに椅子はありますか?」
「ええありますよ?何してんですか迷惑になりますよ?」
「迷惑もへったくれもないでしょう、だってここには我々二人しかいないじゃないですか?」
「聞き捨てならんな、我々は同士にはカウントされんのか?」
男の声がしてその方向を振り返るも誰もいない。やはり俺しかいないのだろうか?ではあの声は誰が発したものなんだろうか。声の主がいそうなところを探す。暗闇、薄暗い闇、かろうじて見える壁の角、だめだ見当たらない。いや、闇に参れて動いているものがある。ひょっとするとこれか?あ、影か。とするとこの闇の向こうに台所がありそこから店主の声が聞こえたのか?
「我々も、人間なんてこの世界で初めて見たが、まさかこんな失礼な奴とはな」
「あ、影が話してたのかそれはそれは・・・」
そういって俺は理解した。おそらく蝶のあたりが相当暗いのはカゲが集中していてわからなかったのだ。そうとわかればおそらくそこいらにたくさんの『客』がいるのだろう。今のところ、一人しかわからないが。
「もう!入り口にいては迷惑です!ここの椅子ですよきてください!」
見かねた蝶が暗闇からやってきて俺の手を取り一気に引っ張り連れていった。おかげで何も見えない。
「暗いな・・・あかりはないのか?」
「だから人間は・・・そこ椅子ありますよ」
そういわれ誘導に従うと確かに椅子らしいものがあった。まぁ見てないのでわからないんだが。
「もう注文したものも来ています、さっさと食べてください」
「そうは言われてもそれらしい食器は見当たらないんだが・・・っていうか何料理?
」
「和食です」
「箸はどこだ?」
「これです」
「え?どれ?」
「もう!ちゃんと見てくださいよ!これですってば!」
「いや見えないからわかんないよ!どれだ!」
「もう!もう手で食べてください!食器はこれです!」
そういわれ彼女に文字どうり手取りで誘導され食器を触りとにかく食べようと手でつかんで鶏のから揚げらしきものを食べた。汁物ではなかったので安心して食べられた
「・・・なんか砂みたいな触感がする」
無味無臭で不気味である。
「ええ、『ア』ですから、甘くないですか?」
「いやわかんない」
「なんちゅうもん注文しとるんじゃ、おい人間お前にはそれはまずかろうからこいつを食え」
「うお!びっくりした~」
「なんだ失礼な奴だな」
「なんか急にいい匂いがするなどこだ?」
「それはおまいさんみたいなやつが好んで食べるものだからな、これだこれこのどんぶり」
「これ?」
「それ『ア』、これ」
「どれ?」
「これ」
「これか、クンクン、においも同じだしそうだろうこれ箸か」
食べてみると雑炊だった。とりあえずそれを食べ、昼食は終わることにした。
食事も終わりハラハラな食堂から解放され一安心といったところなのだが。手に何やら粉のようなものがついているのに気付いた。それはどうもあの『ア』を食べたときについたものらしい。紫色で少し粘着質なところがあった。再び匂いを嗅いでみると少し甘いにおいがするのに気付いた。これは花粉だ。『ア』とは花粉の練り物のことだったのだ。
「はぁ、ご飯に時間かけすぎちゃったなぁ・・・急いで帰らないと」
蝶は不満気な顔でお腹をさすりながら道を歩きつぶやいた。対する俺は急に明るくなっていて何も見えない状態であった。
「なぁ、同士、一つ聞いてもいいか?」
蝶に尋ねると少しうつむいてこちらを振り向いた。
「なんですか~」
「俺ってこの世界じゃ珍しい?なんかさっきから見られてる気がするし、食堂でも気配半端なかったんだけど?」
「まぁ『動かない人間』は腐るほどいますけどその反対は貴方しか見たことありませんねー」
「じゃあさ、同士は蝶になる前は何だったの?」
「何でもないただの生き物ですよ」
「じゃぁ、人間ではなかったの?」
「人間かどうかだったなんて忘れました」