時間は止まったのに物語は動き出す
時間は止まったのに物語は動き出す。
俺は食われないことがわかったので敵対はなさそうだ。だが奴は体を戦闘態勢から解放しようとはせずピクリとも動かないそれと対照的に割った窓のカーテンは乱闘を伝承するように小刻みに振動していた。
「つまりそれは俺が捕食対象ではないという考えでいいんだな?じゃあなぜおれを攻撃した?」
影に対しそう質問すると。こぶしで返答が返ってきた。
「っぶねぇ!」
すかさずよけるも第二第三の攻撃に苦戦する。
「おまえには死んでもらわなければいけない、これは決定事項だ、八宇治様の意思なのだ」
「んんんんん?」
なにやら聞いたこともない名前が出てきやがった。ハチウジ?誰のことだ?おれの混乱を雰囲気から察したか、影は一時的に攻撃を中止する。
「ふ、しょせんは『異邦人』、その名前を聞いたところで理解もできまい」
まったくできんね、というより、そんな理由で死んでたまるか。
「お前は理解できなくても、死んでしまえば問題はない。それで私は『救済』され、この忌々しい体から解放される」
またわけのわからんことを・・・・もしこれが小説だったら、伏線の入れすぎで作者が死ぬぞ。
「解放?うわ!」
話そうとしたとき、今度はガラス片を投げられ方足を負傷する。やばい、このままでは俺はじり貧となってしまう。それを物語るように俺の靴下は血に染まっていった。
「そう、この体からの解放、そして世界からの・・・な」
一歩後退し、二階に上がろうとするため、壁まですり寄った、しかしここであることを理解する。それは相手には目がないのにどうして見えているのか、それは見えていない。つまり影がもともと持っている耳によってこちらの場所を特定していたのだ。
そこで試しにその場で止まって黙ってみる。
「解放にはなにがひつようだと思う?それは『命令』、我らが神、『命令権』をもつ八宇治様の命令によって奉公し、その御恩に救済されるのだ、そうだろう?我らについてわかったか?返事をしろ、それが礼儀というものだ」
やはり応答を聞くため、何度も質問するが、窓付近から一歩も動こうとしない。これはチャンスだ。壁にある照明の電源を見てすかさず俺は走った。
「そこか!」
影はおれが先ほどいた場所と自分の付近によられたのを感じ、ガラスを電源ボタンになげ拳を上げる応戦するも、もう、そこにはこぶしはない。いや俺が「奴が触ってから振動で動くのを見ていたカーテン」を閉めた後、確認していなかっただけかもしれん。夕方といえども七時半は人影を維持するには暗すぎるから。
「・・・やったか?」
「んなわけねぇだろ」
強烈な影の気配を察する、絶望と言わざるを得ない気配は部屋全体から伝わった、真っ暗なのだ。あたりまえだろう。
「どっからしゃべってんだよ!」
そうすると家から聞こえてきた。
「家からだよ」
そう聞こえた途端、急にあたたかな暗闇が世界を覆ったのを感じた、いやおそらく死んだのだろう、感覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚、もうすべて奪われてしまい、俺は意識のみ存在した。その俺には確かに無に、いや影に少しづつ体を蝕まれるのがわった。それは生物が感じられる死と理解するのに遅れたのは俺が幼いからだろう。しかし死んでしまうとわかることがある、それは気分が高揚するわけでもないが、死んでいるときは神羅万象すべてを知るものとなるということだ。その理由は死んだから。もうこういう話になると訳が分からないだろうが、生きる者にはわからないそういう感触と、考えが流れてくるのだ。
ねぇ?聞こえるぅ?
どこからか女の声がする。十代ほどの若い声なのに、とても穏やかで妖忌な雰囲気が不快感を与えた
きこえるぅ?
ああ、きこえるさ、俺をなぐさめてくれるのか?
そんなわけないでしょう?クスクス、弱った「異邦人の男」ってみんなそういうの?
俺は弱ったのか?
・・・ええ、弱っているし衰弱している。「死」はもうすぐ。
いやだ・・・いやだ!
じゃあどうするの?閻魔にでもいうのぉ?くっくく、なかなか面白いわねぇあなた
俺を助けろ!誰か!
あはははは!その口調じゃあ、私でさえ助けないけどぉ?ねぇ?助けてほしい?
ああ、命を!俺に『生存権』を!
何でも言うこと聞く?
ああ!なんでも!なんでもする!
人殺しは?
いやだ!いやだ!
怪物に転生してあげようか?
あああ!おれの体がいい!苦しい!はやく!『救済』を!
影は?一回私の言うことを聞けばこの世界からでさえ解放されるわよ?
おれは!体がほしい!このからだがぁ!
それじゃぁ誰かさんの臣下は?
ああ!もうそれでいい!頼む!救済をぉ!
クスクス、忠誠の言質がほしいわ、それが契約よ
ああああ!嗚呼!星!星遼太郎は!今より『八宇治』様の臣下としてぇ!この身をささげることを誓う!
『誰』の臣下なんてふつうわかるはずもないのに俺はその人の名前を自ら言った。これが先ほど言った神羅万象というやつだ。俺には分かる、この声の主も、その思惑も。、
刹那、あたりから彼女の反応がなくなった。暗くなった部屋いったいはもう気配すらない。それに攻撃もない。耳鳴りはし、汗は体から発せられ夏のにおいも目も見えた、生きる証として呼吸確保の咳をした。脳が生きている!
「ゲホゲホ!うぇ!・・・・っはぁはぁはぁ、っくくくくはははは!」
勝った、俺は勝った!
「よーく考えたな、さすがにあせったぜ、八宇治様の命令に失敗したのかと思ったよ」
俺の声じゃない。後ろのカーテンから聞こえる。
「夕方の外でなければ人型の俺は消滅、暗闇で形成できず失敗し救済もなく私は亡き者になっただろう、だがもう攻撃はできない、お前さんがカーテンを開けんと・・・な」
途端に奴が俺を殺そうとしたことを思い出す。その憎さがにじみ出て、同時に敗北も理解した。だが相手は外だ、こちらから攻撃できそうだ
俺は反撃の咆哮を上げるべく、返答した。窓を開けガラスを手に持ち一刺しするため全力で走った
「お前は別の窓わって侵入できるだろ!?しねぇぇえ!・・・え」
その時抱えた疑問、それは一つしかない。
「動いたろ・・・・『物』」
「え・・・なんで?そんなはずは」
「許されたのさ、八宇治様にな」
「は?なんで急にそいつの名前が」
「この世界の『命令権』はあの人しかもっていない、お前は気に入られたのさ、ようこそ同士、この世界へ、四年後またお迎えに行くぜ、これも命令さ」
「は?殺しは?」
「ん?なしだってさ・・・礼を言う、同士、お前の契約が私を殺人鬼にしなかった」
そういって夕方さる八月の午後七時半、影は夕方の我が家の庭から消えた。