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リリィとレインは満月を笑う  作者: 千のエーテル
3/16

お腹を空かせたケット・シー02

五月三日

 教室に入り自分の席に座り、スマートフォンのミュージックプレイヤーをOFFにしてから、空模様のヘッドホンを鞄にしまう。

 私は昨日のリリィが言ったことを想い出していた。ヴァンパイアの生まれ変わり。まあ間違いではないけど……


「おはよう。レイン」


 振り返るとそこにはリリィが笑顔で立っていた。


「おはよう。今日は一日の始まりに何をしたの?」

「今日はノラ猫に小説を読んで聞かせた」

「猫に小説?」

「ああ。あいつ絶対続き読めってまた来るぜ」

「どうして?」

「その本の一番先が気になるところで、読むのを止めた」

「それ可哀想すぎ」

「アタシが立ち上がって、今日はここまでって言ったら、え? そこで止めんの? って顔したから、おもわず爆笑しちゃったよ」

「それ本当の話?」

「本当だって。それよりクラス、隣りだったんだ」

「そうなの? C組?」

「ああ」


 その時私の隣りの席にいる、デリカシーのない男子ナンバー1の近藤が近くにいる笹川と木下に得意げに話している声が私の耳に届く。できることなら早朝からこいつの声は聞きたくなかった。


「マジだって。俺昨日見たんだってグレーの猫。なあレインは信じてくれるよな?」

「信じるもなにも、なんの話してるのか分からないんだけど」

「おいレイン。なんだこの頭悪い国の王様みたいな奴」

 リリィが私の左肩に肘を乗せながら近藤の雰囲気を的確な言葉で表現した。

「リリィすごい。良くわかったね。彼は私の隣の席で名前が頭悪い国の王様って言うんだよ」

「変わった名前だな。C組の五月雨リリィだ。よろしくなっ 頭悪い国の王様っ」

「オイお前ら、その辺にしとかねえと俺もキレるぞ」

「わかったわかった。そんでなんの話?」

「ああ。昨日グレーの猫を見たんだよ。セブンに寄った帰りに」

「それがなにか凄いことなの?」


 近藤は笹川と木下を見る。二人は少し笑っていた。近藤は私に向き直りやれやれといった表情をした。


「お前知らないの?」

「だからなにが?」

 近藤は再び大きく左右に首を振り、やれやれと今度は直接声に出して言った。なぜ私が近藤のような人間にこんなリアクションをされなければならないのか理解できない。


「売れない役者みたいな安っぽい芝居はいいから、勿体つけてないでさっさと口を動かせよ。お前それでも王様か?」


 恐らく私と同じ苛立ちを感じていたリリィが王様を責める。


「いや王様じゃねえしっ 最近この辺で人を襲うグレーの化け猫が出るって話だよ。その猫を昨日見た」

「人を襲う化け猫?」

「ああ。間違いなくあいつがそうだ」

「人がそのグレーの猫に襲われてる瞬間を見たってこと?」

「いや」

 きっぱりと王様は言い切った。やっぱりただのアホだ。

「じゃあそれって、ただのグレーの猫じゃん」

「いや違う。背筋伸ばして二本足でしっかり歩いてるのを見たんだ」

「え?」

「人を襲う化け猫だ。二本足で歩いたって不思議じゃない。絶対あの猫が化け猫だ」

「ムービーとかに撮ってないの?」

「携帯出した瞬間に俺の存在にあっちが気づいて、そしたら二足歩行を急に止めて逃げてった」

「そもそも人を襲うってどういうこと? 噛み付いて来るってこと?」

「俺も詳しくは知らないけど、なんでも噛みちぎってその肉を喰うらしいぜ」

「人間の肉を……喰う?」

「だから化け猫なんじゃね?」

「まっ そんな危険な猫ちゃんがアタシの街に本当にいるのなら、対化け猫撃滅兵器、五月雨リリィが相手になってやろう」

「お前絶対俺の話信じてないだろ? マジでやばいって。都市伝説とかじゃないんだぞ」


 今この街にそんな噂があるなんて全然知らなかった。まあ人間の肉を喰うって辺りに胡散臭さを感じなくもないけど、恐らく本当の話だろう。根拠は無いけど分かる。問題なのは望んでもいないのに、気づけばいつだって自分がそんなエピソードの中心いるという事態に陥ってしまうことだ。近藤が私にこの話をしたことが、一つのフラグなのだろう。そして多分リリィは今の話を信じてないんじゃなくて心から楽しんでいる。そんな気がした。


「レイン。今日も帰りにあそこに行こう」

「うん。いいよ」

「じゃあそろそろ戻るよ」


 リリィはそう言いながら自分の教室に戻っていった。チャイムがなり担任の上原が今日もハイパーテンションでやってくる。


「おーし席つけ。ホームルーム始めるぞぉ」


 遠慮なしの大きな声に全員が席に座る。


「えぇ みんなも知ってると思うが、我がクラスの委員長三島がもう二週間も休んでる。身体の調子が悪いとしか聞いとらんが、誰かお見舞いに行った奴いるか?」

 手を挙げる者は誰もいない。静まる教室。

「なんだお前ら、冷たい奴等だな。よし。今日誰か行ってこい。そうだなぁー」

 なんて強引な教師だ。みんなだって暇じゃない。そんなに冷たいと思うならあなたが一人で行って下さい。

「花園っ お前行ってこい。仲良かったよな?」

「ふぇ?」

「ああそうだ。そうだな。お前だ。お前だな。ありがとう。サンクス。助かるよ」

 なに言っちゃってんのこの人。まだ結婚も出来てないくせに。なに勝手に話し進めちゃってんの。乗ってる車ピンクの軽のくせに。ふざけんなこのへっぽこ教師。


「じゃあみんなそういうことだから。委員長に手紙とかなんか渡したい物あったら花園に渡すように」

「先生すいません。私今日……」

「はいっ じゃあホームルーム終わりっ。今日も一日がんばりましょう」

「……」


 そうして朝の茶番劇は幕を閉じた。私の身になにが起ころうと、こいつにだけは相談しないと心に誓った。そして仮に私がもし、結婚式を挙げる日が奇跡的に訪れたとしても、こいつだけは絶対に呼んでやらない。さらに私が同窓会の幹事に任命されたならば、こいつには適当なラーメン屋かなんかの住所を書いて送りつけようと、未来の自分と密約した朝なのだった。



 お昼休みも残すとこ十五分。そんな貴重な十五分にだけは絶対に話しかけて欲しくなかった隣の席の近藤がなぜか目を輝かせながら話しかけてきた。


「なあなあレイン、知ってるか? 三年のバスケ部キャプテンの話」

「知らない。ていうか馴れ馴れしくレインって呼ぶのやめてくれない?」

「細かいこと気にすんなって」


 今日も地球上で自分が一番カッコイイと思っているであろう細かいことを気にしない彼の前歯には、さっき食べた焼きそばの細かい青のりが、胃に納まる事なく取り残されていた。

その数十四。

私は視力がとてもいい。こんな風に望んでいないものまで色々見えてしまう。


「バスケ部キャプテンの織田先輩がどうかしたの?」

「一週間家に帰ってないらしい」

「一週間? それって家出ってこと?」

「ちげーよ。行方不明ってこと」

「……行方不明?」

「ああ。携帯も繋がらない。織田先輩と仲の良い連中が総出で探してるけどまだ見つかってない」

「警察は?」

「家に帰らなかった翌日に織田先輩の両親が連絡したらしい。もう一週間になるし警察が見つけられなかったら……」

「なに? 死んでるって言いたいの?」

「さあどうだろうな。レインはどう思う?」

「どう思うって言われても……なんで私に聞くの?」

「レインが織田先輩探してみればいいんじゃねえの。得意じゃんそういうの」

「やらない。別に得意じゃないし」

「まあどっちでもいいけど」

「最初から気づいてたんだけど前歯に十四の青のり付いてるよ」

「え? マジ? いや気づいた時に言えよっ」

「細かいこと気にすんなって」

「うわマジで付いてるし……」


 近藤はスマートフォンをカメラモードにして口を横に広げ、画面を見ながら残念な歯を確認している。

 変な顔。


「どう? 私の視力」

「マジで十四あるし……」


 織田先輩は学園内で中々有名な人だ。身長が高くて頭も良く顔もカッコイイ。確かファンクラブもあったはず。私が知る織田先輩の情報はその程度。

 そんな先輩が行方不明。それと人を襲うグレーの化け猫。この街で今何が起きてるんだろう?何かが起きているんだろう。





 イライラを溜め込んだまま授業は進み、リリィにも強制お見舞いのことを伝えられずに放課後を迎えた。

 ちなみに誰一人お見舞いの品や手紙を私に渡した生徒はいなかった。どうやらそんなことにも時間をさく暇はないらしい。そんなこんなでリリィが私を迎えにきた。


「レイン。さっさと帰ろうぜ」

「ゴメン。リリィ。今日はあそこに行けない」

「なんだよ。真冬に蚊取り線香万引きして捕まったみたいな顔して」


 今の自分がそんな微妙な表情をしていることに驚いた。


「どうした。居残り?」

「そうじゃないんだけど……」

「学園は出るんだろ? だったら歩きながら話そうぜ」

「聞いてよ。私の不幸」


 私は席を立ちリリィと教室を出る。


「なんだよ大袈裟だな」

「ウチのクラスの委員長が二週間くらい休んでるんだけど、担任の上原が今日私にお見舞い行ってこいとか言いやがってさぁ」

「仲良いの?」

「小学校からの幼馴染」

「アタシも付き合うよ。どうせ暇だし」

「トマリもビックリするだろうし、リリィにも悪いよ」

「外で待てば問題ないだろ」

「本当に行くの?」

「さっさと行こうぜ。ここから近いのか?」

「うーん。少し歩くかな」

「りょーかい」


 そう言ってリリィは右手を挙げ私達はトマリの家がある常磐町を目指した。


 

 そんなこんなで三島邸に到着である。

 ごく普通のサラリーマンの父親が購入した我が家より立派な、三階建ての大きな大きな白いオシャレハウスが視界を覆う。


「デカイ家だな」

「トマリのお父さんは、ダイノ・コア製薬のお偉いさんだからね」

「へーそりゃこんなデカイ家も建つわけだ」

 リリィはオシャレハウスを囲むブロックで作られた壁に、腕を組んでよりかかる。

「じゃあアタシはここで待つよ」

「じゃあ私はチャイムを押すよ」

「そんなこといちいち報告すんなっ」


 オシャレハウスなだけあってチャイムもオシャレだ。気のせいかコンクリートから生えた名前の知らない雑草にすら、国宝級の気品のようなものが感じられる。さらに本来なら家主の頭の構造を疑いたくなる、一軒隣の全面ピンクに塗装された家までがどういうわけかオシャレに見えてくる。早急にここら一帯を世界遺産に登録しなければならないという勝手な思考が芽生え始めつつ、オシャレホワイトハウスの、オシャレホワイトチャイムに手を伸ばす。

 ストップ。ちょっと待った。

 こんなオシャレ結界のような場所に立つ私も、リリィの視点から見ると最上級にオシャレな人間ということにならないだろうか?


「リリィ……」

「んあ。どした?」

「今の私の姿……写真に撮ってもいいんだよ」

「ええ? 待て待て待て、お前の頭の中で一体何が起きてる」

「そんな風に全力でツッコミをするリリィもオシャレだよ」

「わっかっんねえ。ぜんっぜんっわっかんねえ」


 私は宣言どおりチャイムを押す。プーという味気ない音が鳴った。もう少しメロディアスな音が鳴るのを想像していたのでヒューマンを馬鹿にするような電子音に少し拍子抜けした。


「……」


 もう一度押してみる。

 プー


「……」


 さらにもう一度押す。

 プー


「……出ない」

「どうする。帰るか?」

「せっかくここまで来たんだし勝手に入っちゃいます」

「入っちゃいますって玄関の鍵掛かってたら、入れないじゃん」

「トマリとは小学校からの幼馴染だから暗証番号知ってるんだ」

「強引なやつ」

「じゃあ行こうか」

「アタシは、行かない方がいいんじゃないのかよ?」

「ずっと考えてたんだけど、トマリにリリィのこと紹介したくなってきた」

「レインは自由だな本当。お前みたいな性格の奴がきっと、三万円握って地元飛び出して、ノリで沖縄とかに移住しちゃうんだろうな」

「なにそれ。知り合いの話?」

「ああ。アタシの髪切ってる行動力ある美容師」

「へえ会ってみたいな」


 私は白く塗られた柵の扉を開け、玄関のドアに向かう。


「暗証番号は何桁?」

「八桁だったはず」


 タッチ入力式の全面液晶ディスプレイに小学生の頃、何度も入力した八桁の番号を入力した。


「あれ?」


 無情にも画面に表示された文字はerror。

 三回連続で間違えると、コムソしてみますか?でお馴染みの綜合警備保障コムソの警備員が、瞬時にここに駆けつけるシステムになっている。

 二回目の入力の前にリリィがドアを手前に引くとドアはいたって普通に開いた。

「なんだ。開いてんじゃん」

「ホントだ。お邪魔します」


 静かだ。静かすぎる。

 家の中は人の気配がなく気味の悪いほど静かだった。

 玄関で靴を脱ぎ、階段を上り二階にあるトマリの部屋を目指す。二階にある五部屋の中でトマリの部屋は確か一番奥だったはず。突き当たりのドアの前でノックをする。


「トマリっ。レインだけど。入るよ」

「レインちゃん」

「うわっ!」


 階段を見るとトマリの父親であるコウジおじさんの姿があった。久々に見るその顔は大分やつれたように見える。


「おじさん。久しぶり。勝手に入っちゃった。トマリのお見舞いに来たんだけど」

「ああ……レインちゃん実は大事な話があるんだ。リビングで話そう」

「え? ああ。うん」


 リリィと私は階段を降り、二十畳はあるバカみたいに広いリビング中央に置かれたバカみたいに高級そうなコの字型のソファーに座る。いつ来てもどれに座ったらいいのか考えてしまうほどの数だ。コウジおじさんはアイランドキッチンで二個のグラスにオレンジジュースを注いでいた。


「おじさん。トマリ具合悪いんですか?」

「実はそのことなんだけどねレインちゃん……」


 コウジおじさんはオレンジジュースの入った二個のグラスをテーブルの上に置いた。


「どうぞ」

「いただきます」

「レインちゃん。恥ずかしい話なんだが、トマリは実は病気で休んでるわけじゃないんだ」

「え? どういうこと?」

「実は行方不明なんだ。今日で二週間になる」

「トマリが行方不明?」

「うん。最初は家出くらいにしか思ってなかったんだ。二、三日すれば戻ってくるだろうと考えていたんだけど、一向に帰ってこない」

「ただの家出じゃないって考える理由は?」

「いなくなった日、多分現金はそんなに持ってなかったと思うんだけど、トマリの預金通帳からお金が引き出されてないんだ一円も。もちろん携帯も繋がらない」

「警察には?」

「四日後に勿論通報した。だけど彼等なら確実にトマリを見つけてくれるとも思えなくてね」


 私の脳裏には織田先輩が行方不明であるという話をする近藤の姿が再生された。ここに来てトマリも行方不明。この二つは偶然なのか?そんなはずはない。同時期に同じ学園に通う生徒二人が忽然と姿を消すなどありえない。こんな表現は嫌い。嫌いだけど、これじゃあまるで神隠しだ。


「わかった。私の方でも探してみる」

「ありがとう。僕は正直言うと警察よりレインちゃんの方に期待してる」

「おじさん。帰る前にトマリの部屋見てもいい?」

「ああ。それは構わないが……でも僕も調べたけど、手がかりのようなものはなにも無かったよ」

「それでも見ておきたいの」

「場所はわかるよね?」

「うん」


 リリィと私は再び階段を上りトマリの部屋に入る。窓際に置かれたベッドの真ん中辺りに見なれないグレーのモフモフしたものが鎮座している。


「トマリ……猫飼いだしたんだ」


 そこには綺麗な毛並みのいいグレーの上品な顔をした猫が我がもの顔で座り、こっちを見つめていた。ちょっと待った。グレーの猫?


「リリィこの猫グレーだけど……関係ないよね?」

「そういえばそうだな。まあこいつが化け猫ならアタシが退治してやるから安心しろ」

「人間風情がこの私を退治するだと? 冗談の素質があるぞお前」


 気のせいかどこからか四十代くらいのおじさんボイスが聞こえる。


「え? 今のリリィ?」

「いやアタシじゃない」

「お前達が三島トマリを見つけるのは不可能だ」 


 グレーの猫が私とリリィを見つめている。そしてスラスラと人語を子供に読み聞かせるように話していた。


「え? 喋った? リリィ今この猫が人の言葉を話したような気がしたんだけど」

「いや、気のせいなんかじゃない。リアルに喋ってる。で? なにが不可能だって?」

「お前達が探そうとしてるのは、生きている三島トマリだろう? 行方不明になる前の元気な三島トマリに会うのはもう不可能だ。プロジェクトはもう始まってしまった」

「死んでるって……こと? そんなの嘘だよ」

「本当だ。もう死んでいる」

「お前がやったのか?」

「……」

「プロジェクトとはなんだ?」

「……」

「なぜこの街の人間の肉を喰う? 何が目的だ?」

「それを今説明してもお前には理解できない」 

「どうやら本当に化け猫みたいだな」


 リリィのいつものクールな言葉達はさらに温度を下げ始め、部屋を冷たくする。

「私は化け猫などではない」

「ほらっ どうやって噛みつくのか見せてみろよ」


 リリィはおもむろにブレザーの下に着ているYシャツをたくしあげ、ネコにお腹を見せる。

 グレーの猫は突然少しだけ小さく丸まる。

 細いくびれと脂肪のないお腹を出しながらも、右脚を一歩後ろに下げ、ジッと待つリリィ。

 グレーの猫が大きく飛び上がる。

 高速にスピンする四本足の生えたラグビーボール。

 まるで発射された弾丸。

 リリィはその動きに答えるように、一時停止させていた右脚を蹴り上げる。グレーの猫はその動きを予想していたのか、リリィの加速する蹴りをギリギリのラインで交わした。それは絶対に人間には反応できない速さ。グレーの猫は地面に着地するのと同時にリリィの股のしたを駆け抜け、部屋から出て行った。階段を勢いよく降りて行くカシャカシャという音だけが耳に残る。リリィもグレーの猫を追って階段を降りて行った。

 私はその場にペタンと座り込んでしまった。トマリが死んだ?信じられない。そんなこと信じられるはずがない。それが人間の言葉を話すグレーの化け猫に伝えられたとなればなおさらだ。


「レインっ あの化け猫がいない。消えやがった。トマリの父さんもいなかった」

「リリィ……さっきあのグレーの猫が言ったことって……」

「ここでトマリが生きてるのか死んでるのか議論しても仕様がない。今日はもう帰ろう」


 リリィが私の腕を掴み引き上げる。

少し痛いぐらいの強さで

少しだけやさしい顔をして

少し強引に私の手を握った。


 私とリリィはゆっくりと階段を降り、玄関で主人の帰りを待っていた靴達に足を押し込み三島邸を後にした。


 リリィと私は帰宅途中、結局一言も話すことはなかった。

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