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その3.

「今度の日曜日、どこかにでかけないか?」

 唐突なサド男の発言に、一緒に昼食をとっていた私とヒデジと春名さんは絶句した。

 要するに、四人で今度どこかに遊びにいこう、というものだ。

 だがちょっとまて。ヒデジと春名さんはカップルだ。そうすると必然的にあぶれた私とサド男がコンビを組むことになる。

「一体どこに行くおつもりで」

「映画でも見に行かないか?」

 このメンツでか。ヒデジの二人きりのデートを邪魔する気満々だなこいつ。

 母お手製のお弁当を有難くいただきつつ、ジト目でサド男を睨む。妨害はよくないぞ貴様。

「映画かあ、なんかいいのやってたっけ?」

 意外と乗り気なヒデジと、どこか嬉しそうな春名さん。これで行かないとかいったらもしかしてKYですか私。

「確か高校生三人以上で一人千円だったから、貧乏な出海でもいけるだろう」

「無茶いうな」

 思わず速攻で首を振った。無理無理。

「三人以上なら三人でいってきてよ。私はやめとくよ。先日お小遣い殆ど使い切ったからね、引きこもる予定」

 実は先日、狙っていたゲームが発売されたのだ。お小遣いがなくなったのはそのせいでもある。

 よって休みの日は一日引きこもって、ゲーム三昧と決めている。

「なんだ、それなら貴様の分は俺が負担するぞ?」

 普段なら有り得ないサド男の提案に吃驚して、ヤツの顔を凝視した。

「もしかして、十一(トイチ)とか言い出すつもりじゃ」

「どこの高利貸しだ。ちゃんとおごってやる」

「えええええええええええ」

 こいつはなんでそこまで私を連れ出したいのか。あ、あれか。カップルに対し一人きりじゃ寂しいからか。そんなところで私の助力を求めるんじゃねぇよ。

「おお、優しいな渡」

 ヒデジも驚いている。そりゃそうだ。今までこんな発言、サド男からでたことないからな。

 そんな私達の様子を観察した春名さんは、とんでもない結論を出した。

「あの……もしかして、佐々君と浦河さんはお付き合いしてる、とか?」

「 」

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 人間、全く予想外の発言を食らうと、咄嗟に反応ができなくなるらしい。一体どこからそんな結論が。あ、箸から卵焼きが落ちた。でも弁当箱の上だったのでセーフ。ほっ。

「いやあの春名さん、何を勘違」

「ああ、先日からそういうことになった」


「「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」」


 私とヒデジ、全く同時に叫ぶ。何それ聞いてない。何の話だ今日はいつだ四月一日じゃないはずだな。

「ちょ、おま、血迷ったか渡!?」

 私に対し失礼な発言だが、今は赦すぞヒデジ。私も全く同意見だ。

「いたって正気だ。出海のように存在そのものが害悪でしかない輩は、誰かが傍で監視したほうがいいからな。仕方なく立候補した。力尽くで止められるしな」

 ちょっと待てコラ。喧嘩売るなら買うぞ?

 つかもうソレお付き合いじゃなくてど突き合いだよね。なんか意味がズレてるぞサド男。

「え、いや、あれ、そういう意味?」

 納得しかけるなヒデジ。お前勉強はできるくせに、どうしてそんなにチョロいのか。

「先日の日曜日、こいつが遊びに来てな。話し合いの結果、そういうことになった」

 なってねぇよ。そもそも遊びにいったわけじゃなく、母の土産物を渡しに行ったら和真氏に拉致られたんだ。

 大体、付き合うといったのはカラオケにであって、男女交際という意味ではない。

 しかし長年の付き合い故、こいつが何故こんなことを言い出したのかも理解してしまう。

 要するに、諦めたくても諦めきれず、かといって離れることもできないので、とりあえず私を強引に巻き込むことにしたようだ。

 私を彼女とするなら、一緒に行動してもダブルデート扱いだ。春名さんに警戒されず一緒にいられる。

 しかも私はサド男が春名さんを好きだと知っている上に、サド男に恋愛感情など欠片ももたないので、利用するには最適だと思ったのだろう。マジふざけんな。

 私が怒りの余り絶句しているうちに、サド男は淡々と嘘を重ねた。そして気づけば、何故だか日曜日はダブルデートなるものをすることになっていた。何故だ。

「説明を要求する」

 結局、私が怒りを訴えたのは下校途中の電車の中だった。ちなみにヒデジと春名さんは別行動中。カップルだししょうがないね。

 そもそもあんな大嘘をヒデジが信じたのが最大級の誤算だった。奴も恋愛脳で頭が回らなくなっているようだ。恋愛怖い。

「ああ、貴様には悪かったと思っている」

 全然、微塵も思ってないだろう貴様。

「俺も吹っ切りたいんだが、今のままではどうもな。なので、仲睦まじい二人を間近で見て諦めようと思ったんだが、流石にデートに一人お邪魔虫がくっつくのも悪い気がしてな」

「だからといって私を巻き込んだことに罪悪感はないのかと」

「だから悪かったと思っている、と言っただろう。俺とて貴様ととか不本意過ぎるんだ」

「不本意ならそもそも言い出すんじゃない!! ああもう学校の女子全部を敵に回した気がする。くそう」

 以前も書いたが、このサド男はサドの癖にモテる。何故だろう。皆顔が良ければいいのか。それとも家柄か、金か。外見が良くても中身をみたほうがいい。中身は大事だぞ。

 かくいう私の容姿は十人並だ。凡庸だ。性格がアレなのは認めるが、外見的には大衆に紛れたら確実に溶け込める、平々凡々な一般市民でしかない。

 腕っ節に関しては一応、子供の頃から剣道をやっていたし、握力腕力その他筋力には自信がある。そして脂肪は少ないほうだ。体重は言えないが。筋肉は重い。

 身長は百六十センチ前後を行ったり来たりしている。いっそ超えてくれればいいものを、何故か縮むときがある。人体の神秘。

 ちなみに過去、といっても昨年の話だが。血迷ったサド男のファンが、田舎のヤンキーを炊きつけて私を襲わせたことがある。

 素手での喧嘩も、子供の頃から二人を相手に容赦ない喧嘩をしていたお陰で多少はできるが、相手が複数だったので素手では心許なかった。

 結果として相手はナイフを持ち出し、私は正当防衛の大義名分を手に入れた。たまたま近くの道端に転がっていた棒を拾ったので、容赦なく反撃した。まあ一応、打擲する場所は選んだ。過剰防衛怖い。

 こういう時、田舎の舗装されてない道端は嬉しい。これが都会となると、道端に棒切れなど落ちてはいまい。

 ちなみに自己防衛のためとはいえ、私闘に剣道を使ったことで師匠に少しだけ怒られたが、相手の車の中や所持品から危険なシロモノがボロボロでてきたので、無罪放免になった。

 そりゃもう手錠とか吸入麻酔薬染み込ませた布とか縄とかとても怪しい大人の玩具イロイロとか拘束具とかビデオカメラとか照明道具とか、うん、そんなもの持ち歩いちゃいけないよ。どう考えても犯罪臭たっぷりです。

 結局捕まった奴らは誰に依頼されたとかまでペラペラ喋り、結果、該当の女生徒は否定したが、何分田舎なものであっという間に噂が広まり、一家揃って引っ越していった。

 この一件で何故か私の悪名も一気に高まった。非常に不本意な話である。襲われて自己防衛して、何故我が身に悪評がたてられるのか。踏んだり蹴ったりだ。

 まあそれ以後反省し、サド男ファンとはそこそこ仲良くやっている。うん、やっていたというのにだ。

「私がこやつに惚れるなど、天地がひっくり返っても有り得ないと信じられているからこその平穏なのに!!」

 嘘とはいえ付き合うことになっては、その大前提が崩れ落ちる。最悪だ。

「まあ、それでも今更お前に手は出さんだろう。色々と知られているし」

「そもそも強くなったのって、お前ら空手やってるくせに一切手加減なしで私と喧嘩してたからだよね」

 小学生に男女の区別は殆どない。女の子らしい子は子供の頃から大人しいが、私は現状見て分かる通り、同性より異性の友人の方が多い乱暴者だった。

 生傷絶えない子供だったが、母はそのあたり大らかで、子供は怪我してナンボという考えだった。余所の家の保護者が聞いたら目を剥きそうだ。

 中学時代は一応大人しくしていたが道場通いは続けていたし、同小出身の子たちはそれを知っていたので私に喧嘩をふっかけるような真似はしたことがない。

 その頃からヒデジとサド男がモテだしたが、私は同性に反感を買っていたものの、「浦河を怒らせちゃいけない」という不本意な不文律ができあがっていたらしく、そのようなトラブルはあまりなかった。そもそも私は女子に手を挙げるような真似はしたことがないんだけどな。野郎は容赦なくぶちのめしたが。

「それもあるだろうが、貴様、自分を妬むような発言をした女子は、問答無用で捕まえて俺たちのところに連れてきて、紹介していただろう。アレで怯えて下手な真似をしなくなっただけじゃないか?」

 一応断っておくが、善意でやった。

 サド男の傍にいるなんて図々しいとか言われたので、それじゃ一緒に遊べばいいという短絡思考で、強引に引きずって来ては「一緒に遊びたいんだって」と紹介した。

 しかしその度に彼女たちはビビって逃げ出した。何故だろう、妬むくらいなら行動すればいいのに。

 ちなみに無視された時は他のクラスの友達のところに遊びにいったら、そこから話が広まり何故かうちのクラスの女子が糾弾されて色々面倒なことになったとか、まあ、思い出してみればあまり平穏でないことは度々起こったが、最後の一年は平穏だった。

「そういうところが天然で恐ろしいんだろう。たとえ俺達が付き合ったところで、お前に今更手をだす莫迦はまずいまい。むしろ俺の趣味が疑われるだけで」

 そういって何故か落ち込むサド男。心の底から失礼な奴だ。

「いやなら今すぐ撤回すればいいだろう。まだあの二人にしか言ってないんだし、今ならやり直せるぞ」

 私の忠告は無視された。くそう。

「とりあえず親には内緒にしておこう」ということで話はまとまった。

 だがしかし、よく考えたらヒデジがヒデジの両親に喋ったら終わりだということを失念していた。

 うちの親たちは仲がいい。確実に伝達される。

 そして案の定、翌日の夜には、我が家で赤飯が炊かれていた。ヒデジの大莫迦野郎。今度奴の奢りでファミレス制覇してやる。

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