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第二章ー1

   第二章 弱肉強食


     1


 木曜日、午前七時。体育館の中央に倒れている女生徒を、朝練のために登校してきた女子バスケットボール部員たちが発見した。ざわつく中、三年生のキャプテンが彼女に近づき、死亡していることを確認。警官たちが五分くらいで駆けつけ、死因が発覚した。

 被害者は二年二組、外向(がいこう)リン(ブタ)。墜落死。

 体育館の天井は半円のアーチ状になっていて、強度を増すために白く塗装された鉄筋がいくつも張り巡らされている。外向リンが落ちている場所のちょうど真上の鉄筋に、少しだけ熱せられた跡がついていたが、それが彼女の死因に関係するかは不明。目撃者なし。死亡推定時刻は昨夜午後九時から十時半の間。事故死の可能性大。先日の体育祭の件で罪を思い悩んでの自殺も考えられる、と警察が発表した。

 だけど、とボクは思う。はたして、あれくらいの罪で死を選ぶだろうか。それに、体育館の中での墜落死。そんな不可解な現象を、事故、と云えるだろうか。

 だからボクは、自殺や事故だとは思わない。殺人事件。それも推理小説に出てくるような(たぐい)の不可能犯罪。ワクワクしてくる。人が死んでいるので不謹慎だとわかっているけど、この興奮はボクの心の中で沸騰しているのだから仕方がない。そして、犯人をかならず見つけてやる、という闘志が湧いてくる。ボクは推理小説をそんなに読むほうではない。むしろ、ファンタジーやホラーが好きだ。だけどそれらには、どうやって危機を乗り越えるのか、どうしてこんな世界が出来上がったのか、何が原因で幽霊や怪物が誕生して、如何(いか)にして困難を解決するのか、といった推理がある。推理小説に触れてないけど推理はしているのだ。

 事件の解決にはまず現場を見なければならない。状況を聞いただけで犯人を当てる名探偵もいるがそんなの無理。メタ探偵だかなんだか知らないけどボクには出来ない。そもそもメタってどういう意味? そんなことはどうでもいい。とにかく体育館へ行き、この眼でしっかりと確認するのが先決だ、と意欲満々で向かったが、警察の捜査のために生徒は全員帰されることになった。仕方がない、解決は明日だ。


 メタ……①~以上 ②日常会話で女性に使うと間違いなく「この人かなりキテるわ」という眼で見られる。もしくは「かなりの推理オタクね」と云われる。もしくは「何云ってるかわからない」と云われること


 翌日は、ある計画があって、ホームルームが終わった後はスケジュールがびっしりと詰まっていた。低血圧そのものと云った担任のあいさつを聞き流し、一時間目の授業が始まる前に教室を出る。すると、はい来ました。予想はしていたけど。

「こら~恵造(けいぞう)! 今日は登校そうそう気持ち悪い顔をしていたからどうもおかしいと思っていたら、案の定、妙な行動を取るわね。いったい何処へ行くの?」

 超低空まわし蹴り。少林寺拳法もしょせん人間の技。しかし彼女――乱舞(らんぶ)(らん)の蹴りはまさしく兵器だった。人間の反射神経で避けられるはずがない。来る、とわかっていてもクリーンヒット。ボクは、トヘッ! という惨めな悲鳴を上げて顔から地面に落ちた。先日傷つけた下唇の裏側が再び開く。ボダッボダッ。


 体育館の入口には黄色いテープが張られていた。もちろん、それを無視して中に入る。規制線なんてボクの足止めになんかならない。

 床一面には、外向(がいこう)リンの死体の状況が白い染料によって描かれていた。手足のいびつな歪み。それを見ると、彼女の死の状況が、壮絶だったとわかる。大きな塊とは別に少し離れたところにもいくつかの小さな円が描かれている。それらが、外向リンの身体の一部だとわかるのに時間はかからなかった。

 蘭は口を覆い、眼を伏せた。

 はたして凄惨な事件はこれだけなのか、それとも、これからなのか、ボクの心は、灰色の不安に包まれた。

 異様に広い体育館の中は、リンの無念が充満しているかのように、よどんでいた。


     ☆


「やあ仲良しふたり組み」

 突然かけられた背後からの声に心臓が一瞬とまり、何故か「ニャッ!」と小さい悲鳴を上げた蘭にボクは蹴られる。痛くはなかったのでそのことにはつっこまずに振り返ると女子バスケット部キャプテンの(とうざ)西南(いみなみ)が憂いを秘めた微笑を浮かべながら立っていた。

「びっくりした~、ちょっと人が悪いですよ、南先輩」

 人を蹴るお前の方が悪いぞ、とは云わず、ボクは蘭の言葉に続いた。

「こんなところに、何しに来たんですか?」

「しばらく練習できそうにないからボールなどを取りに来たのよ。それにしても、ひどい事件があったものね」

 長身の南先輩は女子に人気がある。ボクよりも五センチほど高いだろうか、百八十! 高すぎるだろ。しかし、他をリラックスさせるような、キラキラ、ユラユラした瞳と、彼女の人当たりが、相手に長身を感じさせない不思議さを放っていた。だから今までこんなに背が高いとは気づかなかった。いや、気づいていたことに気づかなかった。そんなオーラを身にまとったおおらかな女性だった。

 落ち着きを取り戻した蘭はすでに、羨望(せんぼう)のまなざしを南に向けている。

「君たちは何しに来たの?」と南先輩が云う。

 ああそれなんですが、と答えようとしたところ、

「お願いがある。あそこに連れて行ってくれ」と割り込んで来たのは、こちらもいつの間にか背後に立っていた舞亜だった。彼女が『あそこ』といった場所は、体育館の天井だった。

 南先輩は少しだけ思案し、しばらくして「いいよ」と快く引き受けた。

 獣人トリが空を飛ぶところを他人に見せるのはかなり珍しい。トリは、私も飛びたいうらやましい卑怯不公平なんでトリだけといった嫉妬の的になっているからだ。ネコやイヌやクマやウマやサルなどの運動神経向上獣人は、しょせん人間の持つ能力の延長線上にしかない。だからトリの《飛ぶ》という能力は誰もが憧れる。みな、一度は空を飛びたい、と考えたことがあるはずだ。辟易して、嫌気がさして、トリが人前で飛ばなくなるのも無理はない。

 だから、ボクは驚いて言葉をなくした。ふたりは面識がないはずだ。とても信じられないことだった。

 南先輩が舞亜を背後から抱き、そのあと、背中から半透明の翼が生えてきた。ほんの数回だけど、トリの羽根を見たことがある。ボクはトンボの羽といっしょだな、と思っていたけど、蘭に云わせると天使の羽根らしい。まあどっちでもいいのだけど。

 翼を一回羽ばたいただけで、彼女たちの身体が上昇した。四、五回羽ばたくと、すぐに天井へ到達し、少し焦げたような跡がある、と云っていたところでしばらく停滞し、数秒後、今度は二、三メートル周りを旋回して、それからゆっくりと下りてきた。

「出ました。不可能犯罪。不可解事件」とブツブツ始める舞亜。

「どういう状況だったんだ?」というボクの問いに対し、

「鉄筋についていたあの焼けたような跡は何だろう。わからない。でも、あそこに、外向リンがいたことは間違いない。なぜならば、彼女のにおいがプンプン漂っていたから。それにもうひとつ、チョコレートと、何かのにおい。これは何を意味する? 出ました。難解な謎。それならば見方を変えよう。まずは――」

 舞亜はそこで言葉を止め、ボクと蘭に視線をめぐらせた。

「おや、通雲恵造と乱舞蘭ではないか。いつからここに?」

「ずっといただろ!(たよ!)」またこれか!


                つづく

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