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序章・第一章ー1

新作のスタートです。学園恋愛、推理、獣人バトルといろいろな要素を盛り込みました。よくばりすぎ? まあ、最後まで楽しんでいただければ幸いです。

   獣人事件 ~式 舞亜は暁の夜に遠吠えす~


         すべての、災厄は

         降りかかる呪われた、運命は

         地球規模の混乱は

         自分でまいた、『種』から生まれる

                『人気イラストレーターKの遺書』


                 序章


 明日の勉学に備え、さっさと寝なきゃいけなかったのだけど、書棚の中のふたつの映画が、ふと、視界に飛び込んできて、数回見たのに、またふつふつと欲望が膨れ上がった。

『スターリングラード』と『インランド・エンパイア』の二作品。手にとり、裏ジャケを眺めていると、がまん出来なくなって連続挑戦決定。一三一分と一八〇分で計三一一分、計五時間十一分。欲求はとめどなく膨れ上がり――はい、そうです、長期戦を危惧したけど、あえて、頑張りました。

『スターリングラード』では戦争とサスペンスの見事な融合に興奮して眠気なんてこれっぽっちもなかったけれど、問題は『インランド・エンパイア』のほうだった。鬼才デイヴィッド・リンチ監督ならではのすばらしい不条理サスペンスなのだけどいかんせん夜中にはきつい。物語を理解しようと謎を解こうとしているうちに、眠気が、じわりじわり、と忍び寄ってきた。

 映画と現実世界の狭間(はざま)でさまよう主演女優のローラ・ダーンが、甘い息をボクの耳に吹きかけながら『眠りなさい、続きはまた明日』と囁くけど、眠気様と睡魔様にボクは見事勝利した。勝どきを上げて、満足して、大あくびのあとに、寝た。眠りに落ちる瞬間、時刻を確認した。午前三時半を過ぎていた。うわあ、と思ったけど、二秒ほどで意識は遠のいた。


 睡魔……①ねむけが(もよお)すのを魔物の力にたとえていう語 ②勝ったところでたいしていいことはないこと


 これはぜったい授業中に熟睡だな、と後悔しながらも、良い映画だったからまあいいやと相反する気持ちを持ったまま階段を下りる。(結局、インランド・エンパイアの謎は解けなかったけど)とりあえず朝ごはん。あまりお腹はすいていないけど食べないと昼休みまで持たない。まともに勉強できない。まあ、できたとしてもしないけど、というのは置いとく。お腹を満たすとすぐに寝てしまうんだろうな、と不安になるけど、食べないと三時間目くらいから苦しむことになる。グギュルグウウウググンと騒音を立てて、周りの人に、聞こえたけど気づいていないふりをさせてしまう。ごちゃごちゃ考えていないでとにかく食べよう。そうしよう、と決めて、母親に、軽いご飯でいいよ、と伝えるためキッチンへ。

 台所に立つ母親の背に、その(むね)を伝えようとしたところでボクは固まってしまった。

 言葉が、(のど)の奥で、凍り、ついてしまった。


 何故ならば母親が、《イノシシ》に、なって、いたからだ。


 日常は、その日の朝、終焉(しゅうえん)を迎えた。




   第一章 獣人世界


     1


 阿仁(あに)(かく)高校の体育祭当日、事件は起こった。

 障害物競走で使われる予定だったアンパンや食パン、バナナやりんごといった食べ物が、保管していた冷蔵庫から忽然(こつぜん)と消えていたのだ。食べ物が置かれていたのは生物学教室の巨大冷蔵庫。生物の担当教師が帰宅するまでは、間違いなく、中にあったという。

 プライバシーなどの問題と校長の意向で、校内に、防犯カメラは設置されておらず、ただでさえ人の出入りがはげしい学校という場所なので、迷宮入りするかと誰もが思った。ところがここで、「生物学教室から生徒が三人出てくるのを見ましたよ」という警備員の証言が浮上し、容疑者が絞られたのだ。

 体育祭は中止となり、翌日、生徒指導室に呼び出されたのは二年二組の三人。

 白家(しろか)まよい。時鮫(ときさめ)(そら)()外向(がいこう)リン。

生物の担当教師に質問があって教室に足を運んだらしい。ところがその教師は、用事があるとのことでニ、三質問に答えてカギをかけずに帰ったという。教室の外に出る前にひとこと、「お腹すいても冷蔵庫の食べ物に手を出すなよ」と冗談を云ったことから情報が漏洩(ろうえい)してしまい、食べ物の保管場所を知っているのは教師たちとこの三人ということになり、容疑がかかったのだ。


 ボクは三人の名前を聞いて、すぐに、犯人がわかった。

 外向リン、だ。

 何故なら彼女は、ブタ、だからだ。


     ☆


「聞いた聞いた? 障害物競走食料紛失事件の犯人はリンちゃんなんだって!――て、おい! 来て早々寝てるんじゃない、恵造(けいぞう)!」

 腰の入ったネコパンチがボクの右わき腹にめり込んで昨夜観た『ジュエルに気をつけろ!』のリヴ・タイラーが悲鳴を上げながら消滅した。それと同時に、パウッ! という情けない声がボクの口からもれて眼を覚まして何が起こったのか周りを見渡すとみんなの注目を集めていることに気づく。それがとても恥ずかしかったのでボクはその恥ずかしさを怒りという表現で隠した。

「何するんだ。もろに入ったぞ、(らん)!」

「でも昨日云ってたよね。もしかしたら、リンちゃんが犯人じゃないかって。たしかに彼女の食い意地はすごいけど、いくらなんでも、それだけで犯人だと決めつけられないでしょ。何で気づいたの?」

 人の話をまったく聞いていない。あいかわらずのマイペースぶりだ。

『吾輩は』ではなく、幼馴染の乱舞(らんぶ)(らん)は、ネコである。

 X・デイならぬ、J・デイ――(獣人と女性のJである)――から半年。女性だけが獣人と化す病に対し、ボクたち男性は何の変化もなかった。いや、免疫が出来て、獣人である女性たちを見ても驚かない、という変化があるにはあるのだが。

 そもそも獣ではなくて《獣人》なのだ。

 怪物というよりコスプレに近い。ネコ耳娘やウサ耳娘などはそこらのアニメやコミックやゲームなどで描かれている。だから大して違和感はなかった。獣人と化した女性たちは、耳がその動物特有の形に変わり、しっぽが生えて、歯と骨格が少しだけ変形したくらいで、コスプレ・レベルなのだ。ブタは鼻が大きくなったりキリンは首が長くなったりゾウは鼻が長くなったりはしない。じゃあ何でブタをブタとわかるのか、それは謎である。中には判別が困難な動物もいる。しかしそれは、米国人か英国人かの違いであって西洋人と東洋人を間違えることはないのと同義。特徴のない動物に変化した女性を見ても、なんとなく、ああウマだな、ああキツネだな、ああサルだな、といったふうに、大まかにならすぐ識別は出来るのだ。

 そして、ボクに本物のネコパンチを食らわせたのは蘭。耳のてっぺん部分にとがった耳を生やしていて、瞳が黄色っぽく変色し、細い尻尾がある――ネコだ。

「何でリンちゃんが犯人だとわかったのか()いてるのよ。早く答えなさい!」

 ボウッとしているところに再びネコパンチ。すんでのところでそれを避けて、次が来ないうちに、ボクはいさぎよく答えた。

「リン(ブタ)と空子ナマケモノとまよい(ネズミ)が生物学教室から出てくるのを、警備員のおじさんが目撃したのは、十七時十分。生物学教室から校門まで急ぎ足で二十分かかる。彼女たちが校門で外出のための記帳をしたのが、十七時半」

「何も問題ないじゃないの」

「ところがだ、蘭。実はテニス部の連中と下校中の一年生の男子生徒が彼女たちを目撃していたんだ。一年が目撃したときは三人いたらしい、時刻は十七時十八分。つづいて、テニス部の連中がコート前を歩いているのを確認したのは、空子とまよいの二人だけだったという。時刻は十七時二十八分。その二分後には校門から三人揃って出るところを門番に確認されている。それともうひとつ、ここが肝心。教室から三人が出るところを見た警備員のおじさんは、ちょっと不審に思って引き返して生物学教室にカギをかけたんだよ。その時間が五時二十四分。さて、いったいどうやって三人揃って外へ出たのだろう。簡単なことだよ。これはとても、単純なことなんだよ」

 そこでボクが蘭の顔を得意げに見上げると、彼女は大きなあくびをしていた。どうやら飽きたらしい。ちょっと長かったか、と反省して(ネコパンチを恐れてではない。断じてそうではない)結論を告げた。

「一度、整理しよう。十七時十八分には三人揃って目撃され、二十四分にカギがかけられた、つまり、五分以内で生物学教室に戻り、さらに食料を調達して、十七時半まで――十二分以内に校門でふたりと合流しなければならないわけだね。ひとつ付け加えておくと、一年生が彼女たちを見た場所から、生物学教室、それからまた戻って校門までの距離はざっと一、二00メートルある。これがどういう意味かわかるかな?」

 考える時間を与えるためにここで言葉を切った。蘭は短い髪をゴワゴワとざわめかせ、機嫌(きげん)が悪くなってきている。これ以上じらすと、しっぽを逆立てるだろう。話を続ける。

「空子はナマケモノだね。全力疾走したとしても時速二キロメートル。まよいはネズミで時速十キロ。そしてリンは時速十七キロ。もうわかったかな。空子は論外、まよいでは、一000メートルしか進めない。間に合わないんだよ、このふたりでは。もうわかったね。限られた時間で校門にたどり着けるのは、リンだけ、というわけだ」


                           つづく

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