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異世界行ってもボスとは・・・・  作者: 神成泰三
マリーとルセイン編
92/100

少女、悲劇

「あっ、帰ってたんだ」


執務室で留守にしていた間に溜まった書類を読み漁っているルセインに、アリサが扉を少しだけ開けてひょこっと顔を見せた。なんともわざとらしいセリフと行動だろうか。あれはアリサ流のあいさつなのだろう。だが、いつも部屋に閉じこもっているアリサが顔を出したと言うことは、何か話があるのだろう。それも、ルセインにとっても有益な話だ。


「ねえねえ、使ったんでしょ、ドライゼ銃。どうだった?」


「ああ、なかなかの威力だった。少なくとも従来の戦争の常識をひっくり返すには充分過ぎる代物だ」


「えへへ〜本当に〜?」


ルセインからの賞賛の声に、アリサは二ヘラと頬を緩ませた。アリサのような研究職兼技術者には、これ以上ないくらいの賞賛だろう。そんな様子を見ながら、ルセインも微笑を浮かべ、話を続ける。


「ああ、本当だ。ドライゼ銃はなかなか優れているよ……今だけはな」


ルセインの刺のある言い方に、先程まど頬を緩ませていたアリサの表情は一変し、口を尖らせ、不満を顕にした。さっきまで上げておいていきなり突き落とすルセインのやり方に、先程まで喜んでいた自身がバカみたいだと言われているような気がしてならない。


「む〜、私のドライゼ銃は充分優れているって貴方言ったじゃん。何が不満なのよ〜」


「ドライゼ銃自体に不満は一切ない。だが、2年後も、いや、1年後も優れているとは限らない。事実、ドライゼ銃を開発した時点でドライゼ銃の情報はウィルデット王国に知れ渡っており、今この瞬間にもドライゼ銃が他の領主の手により研究、開発されているかもしれん。故に、今だけだ。領主として言わせてもらえば、ドライゼ銃だけでは満足できない」


「…………ふぅん。もしかして、私がドライゼ銃を開発して以降、なにも作っていないとでも思っているの?」


アリサの不敵な笑みに、ルセインはほう、と期待に満ちた声で答えた。ドライゼ銃以外の兵器開発にすでに着手しているとは、少しアリサを見くびっていたようだ。ルセインは立ち上がり、興味津々な様子でアリサに問う。


「では、今度は何を作ったんだ?」


「ふふん、実物を見せてあげるから研究室に着いてきて」


そう言うと、アリサは執務室を出ていき、ルセインもあとに続いた。アリサが次に作り出すもの、それは何かは解らないが、ドライゼ銃を開発した時点で、作れる物は大体予想はつく。アリサは研究室に着く前に、解説がてらその兵器の開発過程を話しはじめた。


「そもそもの話、私が言うのもなんだけど、ドライゼ銃は色々と踏むべき過程をすっ飛ばした代物なんだよね。だから私も気に入っていたんだけど、すっ飛ばした弊害を見落としていたんだよ。だから、1から見直して新しく、かつシンプルな火器が出来ないかと模索したら、威力だけならドライゼ銃を遥かに凌駕する兵器が完成したの。名付けて『戦場の女神』だよ」


「ほお、なかなか勇ましい名前を付けたな。期待できそうだ」


「ふふふ、きっと実物をみたら期待を遥かに上回るよ」


アリサがここまで自分の作った兵器を自画自賛するのは、ルセインの記憶が正しければ、これが初めてだろう。それだけ自身があるのだ、ドライゼ銃よりも価値のある兵器なのだろう。となると、一体何を作ったのだろうか?

ドライゼ銃の応用だとすれば、火器なのは間違いなく、もしかしたら戦略兵器を作ったのかもしれない。期待に胸を膨らませて、ルセインはアリサに導かれ、吸い込まれるように研究室に入った。


「…………やはり、これか」


ルセインは目の前に置かれた重量感ある新兵器を目の前に、予想通りだと言わんばかりに、特に驚きもせずに呟いた。だが、この新兵器の存在はドライゼ銃と等々、またはそれ以上の価値がある代物だ。ルセインは新兵器に手を置くと、アリサに尋ねた。


「こいつの弾は何種類ある?」


「とりあえず榴弾、それと散弾も撃てるよ。その気になれば、釘を詰め込んでも撃てるよ」


「そうか、まあ構造自体は単純だからな。まずは榴弾を見せてくれ」


ルセインの頼みに、アリサは少し待ってね、と言って鍵のかかった鉄製の金庫の扉を開け、榴弾を取り出してルセインに手渡した。興味深そうにルセインは観察を始め、頷いた。


「ほう、ドライゼ銃とは違ってペーパーカートリッジを使わずに、布袋を使うのか。まあ、こいつをペーパーカートリッジで撃ち出すのは不安だしな。撃ち出す時に火口から針で穴を開けて、そっから雷管をセットするわけだな」


納得したようにルセインはまた頷き、次に新兵器の発射口を覗いた。ここはドライゼ銃と同じく、螺旋状のライフリングが掘られており、命中率、飛距離ともに投石器よりも格段に優れた物になるのは言うまでもなく、また、威力に関しては天と地ほどの差があるだろう。ルセインはニヤリと笑みを浮かべ、アリサに顔を向けた。


「アリサ、よくやった。こいつは披露宴で使わせてもらおう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「その話は本当なのか?」


カミエルは披露宴の計画等の書類から目を離し、怪訝な表情で女中を見定めた。女中は無言で頷くと、説明を始めた。


「あの話が私の聞き間違いじゃなければ、マリー様のお腹の中にいる子供は領主様の子ではありません。部屋の中を覗いた訳ではないので、誰と話していたかまではわかりませんが、恐らくマリー様の愛人関係にある男、と思われます」


「………滅多なことを言うんじゃない。俺以外誰にも喋っていないだろうな?」


「はい」


「よし。もしその話が漏れてしまっては領内の混乱と領主様の名誉に関わるところだ。今後もしゃべらないようにしてくれ」


「わかりました。しかし、何時かバレてしまうのではないでしょうか。それならば早目に言った方が………」


「………真実はわからん。わかったとしても手を出さない方がいい……とも、言ってられんか。まずは事実確認からだな」


「なにか方法が?」


女中の問に、カミエルはああ、と少し苦しそうに答えた。確かにないわけではないのだが、正直に言ってなかなか心苦しい限りである。もちろん、自らの主である領主の体裁を守ろうという忠誠心はカミエルのなかにあるが、それと同時に、あんなに中の良かったルセインとマリーの間に大きな亀裂を作るきっかけを生み出そうとしているからだ。しかし、ルセインに忠誠を尽くそうと思うなら、迷わず事態の真実を明らかにするしかないだろう。


「有り得ないとは思いますが、もしかしてマリー様に直接尋ねる気なのですか?」


「俺がそんなマヌケに見えるか? 昔っから確かめる方法があるんだよ。ちょっとついてきてくれ」


そう言うと、カミエルは部屋から出ていった。慌てて女中はカミエルについていく。赤い絨毯が引かれた長い廊下を歩いていくと、鉄製の頑丈な鍵が施された部屋の前に、カミエルはとまった。ここは普段立ち入りが禁じられている部屋であり、女中はおろか、カミエルも数回しか入ったことがない部屋である。カミエルは部屋の前で、忠告するように女中に声をかけた。


「この部屋のことは、誰にも言わないでほしい。例え領主様に問われたとしてもな」


「………この部屋には、一体なにがあるのですか?」


「地獄だよ」


それだけ言い残し、カミエルは鍵を解除すると、躊躇することなく扉を開けた。中は薄暗く、奥まではよく見えはしないが、とにかく異臭がひどい。まるで獣のような臭いが立ち込め、むせ返りそうである。そんな中、カミエルは付近においてある蝋燭台に火をつけ、明かりをともした。全体を照らすにはまだ光が足りないが、目が徐々に慣れていくにつれ、解決していった。まず最初に見えたのは、鉄格子である。どうやらこの部屋は牢屋のような作りになっているらしい。女中は更に目を凝らしてみてみると、牢屋の中に何かがいる事に気づき、やがてその全貌が目に写った時に、思わず声を上げそうになりそうな所を、カミエルに抑えられた。


「むぐ!」


「叫ぶな。奴を刺激する」


カミエルの忠告に女中は頷くと、カミエルはゆっくりと女中の口から手を離した。女中の目に写った光景、それはおとぎ話に出てくる、口からはみ出した牙、緑色の肌、

そして人間とは比べ物にならない筋骨と体格を誇る化物、オークである。今は横たわって寝ているようであり、女中が叫べば大変な事になっていたであろう。


「も、もしかして、確かめる方法って………」


「こいつと一晩過ごしてもらうんだ」


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