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少女、第二波

「…………ッ! ルセイン大丈夫!?」


気がつくと剣から人の姿になったデュランダルに抱 えられ、ボスの上半身は所々包帯を巻かれていた。 辺りを確認すると、先程まで死闘を繰り返していた 指揮所は見る影もなく瓦礫とかし、辺りにはちょっとした肉片が飛び散り、兵士達が後片付けをしてい た。メーチェルがまさか自爆できる術を用意していたとは全く想像がつかず、不覚をとってしまったが、なんとか生還することが出来た。


「ああ………大丈夫だ。味方に被害は出たか?」


「爆発範囲は指揮所だけだったから味方に被害はなかったわ。それよりあなたの方が心配よ!指揮所から吹き飛ばされて、地面に叩きつけられたのよ!! 」


「そうか、道理で体中痛い訳だ………お前は大丈夫なのか?」


「私は剣に変身してたから、ちょっと擦り傷が出来ちゃったくらい、貴方よりマシよ」


デュランダルの言葉に、ボスは自らを支えているデ ュランダルの腕に視線を落とした。確かに細かな擦り傷が点々としてはいるが、火傷や大きな切り傷もなく、大怪我は追っていないようだ。デュランダルの安全を確認したところで、ボスは自身の体の怪我を確認する。包帯が巻かれているのは右肩から左胸にかけて巻かれており、血が滲んでいる。擦れるだけで激痛を伴うところから、恐らく大きな火傷を負ってしまったのだろう。治る頃にはケロイドになってしまうかもしれないが、死ぬよりはましである。 両腕両足も確認するが、特に大きな怪我を負っているわけではなく、今後も問題なく動くだろう。


「………おお、夜明けか」


ふと空を見れば、あれだけ長かった夜は終わりを告 げ、日輪が空を支配しようとしていた。ボスは目を 細めながら日輪を眺め、三日目も生き残る事が出来 たことを確かめ、深く息を吐いて安堵するが、それもつかの間の喜びであった。斥候の格好をした兵士 が慌てた様子でボスに駆け寄り、報告した。


「領主様、報告します! コージュラ皇国軍が予備 兵も引き連れてここに向かっています!! 恐らく死に物狂いでこの砦を奪取しようとすることが予想されます!」


「………はぁ、頭を切り落としても動くとはな……」


脅威が去ったと思えば、また次の脅威が現れる。ボ スはやれやれと首を右に左に動かし、目の前の新たなる敵に嘆くが、敵も待ってはくれない。幸いにも 味方の援軍は到着している。ボスはデュランダルに、連れてきた援軍の数を確認する。


「デュランダル、援軍はどれほど連れてきたんだ?」


「ルセイン領に残っている兵士はあまり居なかったから、旧フランドル領から兵士をかき集めてきたわ 。ほとんどが銃兵で、2個師団ほどね。本当はもっと兵士が残っていたんだけと、基礎訓練が終わっていない兵士が殆んどだから、連れてこなかったわ。 あと、エルフの里の近衛兵が遅れて援軍に来てくれるらしいわ、光の騎士教団はまだ本格的に動くことは出来ないけど、代わりに兵士の居なくなったルセイン領と旧フランドル領の治安維持をしてくれるらしいわ」


「そうか…………つまり、こちらの手勢は5万か、差は1万、ドライゼ銃で埋められるか、だな」


ボスは顎に手を当てて、相手の出方を予想する。コージュラ皇国軍が予備兵すら連れて出兵したということは、向こうにはあまり余裕がないということだ 。当初圧倒的な物量で短期間での制圧を考えていたが失敗してしまい、あまつさえ最高指揮官であるメーチェル・ラングラーを失う結果になってしまった 。最高指揮官を失った時点で兵の士気は下がるのは明白、普通なら撤退するはずだが、撤退した後に受けるであろう国内の貴族達による批判を恐れ、全力出撃することにしたのだろう。斥候の言っていた通り、死に物狂いの猛攻が予想される、こちらも犠牲を覚悟しなければならないが、逆に言えば、ここで勝つことが出来れば、こちらから奪われた土地を取り返すことが出来るとも言える。


「よし、斥候、各軍司令に今から言う事を伝えてくれ。防壁には銃兵ではなく弓兵を配置し、突破してくる兵士には軽装歩兵に対処させろ。それで、銃兵と重装歩兵は―――――」


―――――――――――――――――――――――


「………ティック、兵の士気はどうだ?」


ルノー将軍は、引き連れている兵士をこまめに確認しながら、念の為とティック補佐官にも確認を取る 。見る限り兵士達の足並みは揃っているとは言えず、列も乱れかけている。こんな状況で敵めがけて突撃することなどできるのか不安な所だが、何も功績を上げずに引き上げるわけにはいかない。


「お世辞にも意気揚々、とは言えませんね。メーチェル様の死去ともなれば、当然といえば当然なんですが………」


「それでは困る。君も私も今背水の陣なのだ。国境 砦を数日で落として見せると議会の貴族どもにメーチェル様が豪語してしまった手前、しかも豪語した 張本人であるメーチェル様は今や肉片だ。つまり、今撤退して真っ先に責められるのはメーチェル様の臣下である我々なのだ。わかっているかね?」


「わかってはいますが、そんなこと兵士達には蚊帳の外ですからねぇ………………ルドルフさえ生きてい ればこんな事にはならなかったんですが………」


「今更悔やんでも仕方ない。そもそもメーチェル様 がルドルフに依存しすぎていたのだ。いつかはこうなる事を考えなかった我々にも責任はある」


そう言い、ルノー将軍は顔を再び前に向け、前方警戒に努める。斥候の報告では、砦にはすでに援軍が到着していると報告もあった。このまま放っておけば、ルノー将軍の手勢を遥かに凌ぐ規模の軍勢が砦で組織され、守るだけだった彼らが転じて、今度は侵攻してくるかもしれない。しかしまだ、今ならなんとか攻め落とす事ができるかもしれない。これ以上相手に時間を与えない為にも、ルノー将軍としてはもっと行軍速度を上げて素早く到着したいのである。


太陽の朝日が差し込むようになった時、見通しの良い野原に出ることが出来た。砦を確認することができる。やっとここまで来たかと 歩を進めようとした時、あるものが目に入り、ルノ ー将軍は眉を顰める。


「なんだ、あれは?」


ルノー将軍が見たもの、それは一昨日は砦の中で篭っていたはずの重装歩兵と銃兵による布陣である。 重装歩兵が大盾を持ち、横一列になって鉄壁を形成し、その後ろで銃兵が三列でならんでいるのである 。それが砦の門の外に配置され、いつでも動けるようにスタンバイしているのだ。一昨日篭っていた兵が外に出ている。これはつまり、ウィルデット王国側も、この戦いでけりをつけるつもりなのだろう。


プァー、プァー……………


砦の方からラッパの音が鳴り響くと、重装歩兵の鉄壁が足並みを揃えて前進を始め、その後ろを銃兵がついていく。どうやら、ここにいるルノー将軍達の軍勢の位置がバレたようである。


「………私の前哨戦に、相応しい規模だな」

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