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少女、援軍

「なにボケっとしてるの、早く取って!」


デュランダルの大声に、はっとしたボスは急いでデュランダルを手に取り、メーチェルとの距離を離した。何故此処にデュランダルがいるのか、それはデュランダルが飛んできた方向を見ればすぐにわかった。ウィルデット王国の旗を靡かせながら、どんどん砦の中に入ってくる軍勢…………援軍である。恐らくルセイン領軍に違いない、この調子で行けば、ウィルデット王国の常備軍も近いうちに来るであろう。


「貴方、また無茶したみたいね。まだ毒ワインを飲んでからそんなに日がたってないのに、そんなに大きな傷負っちゃうなんて、本当にいつか死ぬわよ」


デュランダルがため息混じりにボスに注意をした。そのため息には、いくら注意してもどうせ聞かないだろうと諦めが入っているに違いない。こんな小言を聞きたくないがためにデュランダルを置いて来たのだが、助けられた手前、ぐうの音もでないはずではあるが、ボスは苦虫を噛むような表情で、屁理屈をこねた。


「ふん、人間皆いつかは死ぬ。だが今俺は死んでない。それが全てだ」


「言い訳しないの! 全く、助けてくれてありがとうぐらい言えないのかしら?」


これ以上余計なことを言えば、デュランダルが面倒くさそうなので、ボスは口を閉じた。ぺちゃくちゃと話しているよりも、今はメーチェルとの決着をつけなければいけない。


メーチェルシーの剣は、デュランダルによって破壊されたので、実質今のメーチェルは丸腰、対してボスには決して砕けることのないデュランダルがある。先程までの立場が逆転し、ボスが有利になったのは言うまでもないが、メーチェルがこのまま諦めて大人しく首を差し出すとは到底思えない。窮鼠猫を噛むと言うぐらいだ。ボスは切っ先をメーチェルの眉間に向け、警戒を強めた。


「なんでまた邪魔が入るの………後少しで殺すことができたのに……ルーくんの仇がとれたのに………そうだよ、皆死んじゃえばいいんだ。こいつも、味方も、私も…………死んじゃえばいいんだ」


メーチェルは虚ろな目でボスを睨みつけはするが、特になんら抵抗をしようとはしない。ただブツブツと小言を言っているだけだ。あれだけ死ねだの殺すだの連呼していたメーチェルが、今のところ援軍の到来でここまで大人しくなっているのは、どうにも怪しい。


「………あのブツブツうるさい人、敵なのよね? なんか随分と病んでいるようだけど、貴方一体何をしたの?」


「…………別に言うほどの事はしてねぇよ」


訝しげに質問してくるデュランダルに、ボスは説明すると面倒くさくなりそうなので受け流し、メーチェルの警戒に集中をする。ただ立ち尽くし、ブツブツとうるさいだけの大人しい人に成り下がってしまったメーチェル。このまま切り捨ててもいいが、もし、このまま抵抗を見せないのであれば、コージュラ皇国と何かしら交渉する場面があった時に、交渉材料としてメーチェルは使うために、捕虜として捕らえたほうがいいのではないか。そう考えたボスは、切っ先を向けたまま、メーチェルに降伏勧告をした。


「おい、もう勝負はついたんじゃないのか? このまま殺されるのが望みってんなら殺してやってもいいが、生きたいなら捕虜として生かしてやる。どうする?」


「…………うふ、あははははは」


何が面白いのか、メーチェルは乾いた笑い声を上げた。その笑いはまるで全てを諦めたような、もう何もかもどうでもいいといった感情が読み取れるような乾いた笑いをしばらくすると、語るようにメーチェルは口を開いた。


「お前、私に確かに言ったよね? 人を殺すには、殺される覚悟と大切な人を殺される覚悟が必要だって。なら、試してあげようか?

お前にその覚悟があるのかどうか……」


そう言うと、メーチェルはただ、一直線にボスに目掛けて突っ走り出した。武器も持たず、ただボスに向かって走り出すメーチェルに、ボスはデュランダルを構えつつも、眉を顰める。一体何を考えている、丸腰で突っ走って一発ボスの顔面にでも食らわせてやろうという考えなのだろうか。いや、メーチェルとてそこまでヤキが回っているわけではないだろう。では、なぜメーチェルは切ってくださいと言わんばかりに、真っ直ぐ突っ込んでくるのだろう。そう考えているうちにも、メーチェルとの距離は徐々に近くなり、メーチェルの無機質な笑みが、不気味なほど良く見える。色々な可能性は思いつくが、現実的に選択肢は一つしかない。


ボスは、一直線に突撃してくるメーチェルの胴に向かって、デュランダルを横一線にふり、滑るようにデュランダルをメーチェルの肉体に食い込ませる。デュランダルは服を切り裂き、皮膚を押し切り、内臓を捉える。出来過ぎていると言っても過言ではない、そう言えるぐらい綺麗に捉える事ができた。否、捉えられるように自らボスの目の前に飛び込んできたのだ。


ズププ…………


デュランダルの刃は、メーチェルの背骨に引っかかって止まった。メーチェルは口から血を吐きながらも、顔は笑っている。その不気味さに、ボスが悪寒を覚え、デュランダルを引き抜こうとしたその時、メーチェルは両手でデュランダルを離さんといわんばかりに掴み、一言呟いた。


「吹き飛んじゃえ」


その言葉を最後に、メーチェルの体がハリセンボンのように膨らんだかと思えば、眩い閃光を放ち、指揮所を爆風で包んだ。


―――――――――――――――――――――


コージュラ皇国軍野営地にて、ルノー将軍はウィルデット王国国境砦で眩い閃光を、部下であるティック補佐官と共に確認した。その閃光から、メーチェルがあそこで何を行ったのかを察した二人は、特に驚く表情ひとつ見せずに、ただ眺めていた。


「ルノー将軍、最高指揮官であるメーチェル様は恐らく戦死なされました。現段階で軍の指揮権はルノー将軍に移りましたが、いかが致しましょう」


ティック補佐官は事務的にルノー将軍に質問すると、ルノー将軍は鼻で笑った。それは、指揮権が自分に移ったことに満足して笑ったのではなく、敵陣に一人で乗り込み、終いにはすべての責任を部下に押し付けて勝手に戦死したメーチェルを嘲笑ったのである。


「テントの中でゴソゴソと何かやっていると思ってはいたが、まさか自らが自爆できるように魔法を仕掛けていたとは、呆れた主君だな。ティック、もうじき夜明けだ。日の出と共に出撃できるようにと兵共に伝えろ。今なら敵も混乱の最中であろう。攻め込むなら今だ」


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