表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/100

少女、逃亡者

「なにぃ、伝令ミスだと?」


要請を受け、3万の軍勢を引き連れてきたボス は、眉にしわを寄せた。今回の為に、新設した ドライゼ銃部隊を一個師団ほど連れてきたのだ

、何もありませんでしたと言われればここまで の行軍費が全て無駄になってしまう、少なくと も行軍費に見合う土産が欲しいところだが、目

の前の王国士官には罪はない。


「す、すいません。境界線に人影があると言わ れたので、コージュラ皇国軍かと思ったのです が、なんでもエルフの子供だったようで」


「エルフの子供? それはそれで奇妙な話だな。 それで、そのエルフの子供はどこにいるんだ? 」


「はい、とりあえずの所は我々で保護していま す。軍医は栄養失調になっていると言うので、 今は食堂で食事をしていると思います」


「案内しろ」


ボスは連れてきた軍に待機命令を出すと、士官 に連れられて食堂へと直行した。食堂は大型テ ントに食堂、と書かれた立札がたっているだけ

で、中は木製の机と椅子があるだけの質素な作 りであり、その奥の方に確かにボロボロの服を 着たエルフの子供達がバクバクと机に並べられ

た食べ物を口いっぱい詰め込んでいた。これだ け美味そうに食べてもらえば、作った料理番も 作ったかいがあったと言うものだ。


「おい、ちょっといいか?」


ボスが声をかけると、子供達は皆一斉に顔をボ スに向けた。皆顔が痩せ細り、体中泥だらけだ 。どうも偶然その場にいたとは考えにくい風貌

に、ボスは顎に手を当て考える仕草をした。


「お前ら、ウィルデット王国の人間ではなさそ うだな。もしかして難民か?」


「父さんと母さんを助けて!」


子供達の中で最年長であろう、銀髪に蒼眼の少 年エルフが、突拍子のないことを言い出した。 こいつ話聞いてるのか、そう思いつつもここは

子供の話に耳を傾ける。もしかしたらコージュ ラ皇国の内情を知ることが出来るかもしれない 。ボスは子供の隣に座り、尋ねた。


「まず、お前がどこの誰かわからないと何も出 来ない。お前は誰だ?」


「ぼ、僕はノエ。僕はコージュラ皇国の国境沿 いの森林の村に住んでいたんだ。知っていると は思うけど、僕達エルフ族は、見つかると奴隷

にされちゃうから、誰にも見つからないように 生活していたんだ。でも、ある日ウィルデット 王国に行けば、エルフでも不自由ない生活がで

きるって聞いたんだ! だから、村ごとウィルデット王国に引っ越すことにしたんだけど、その道中に、兵隊に見つかって……………」


そのまま、ノエは固く口を噤んだ。察するにそ こで両親は捕まったんだろう。それで子供だけ でも逃がそうとしただろう。しかし、子供だ

けでよくこの国境警備隊の砦までたどり着く ことができたものだ。そこには強い執念を感じ 取ることができる。だが、現実は残酷。


「残念だが、お前らのお父さんとお母さんを助 けることは現状難しい。コージュラ皇国とウィ

ルデット王国は今戦争中でな。俺の一存では軍を動かすには限界があるし、簡単に軍は動かないんだ」


「で、でもおじさんは領主なんでしょ? ここの兵隊さんが言ってたよ。軍隊を引き連れて来た領主がおじさんだって。領主だったら、

軍隊を動かすぐらいできるんじゃないの?」


「動かすこと自体はできるぞ、だがその大義名分はどうする? 大義名分もなしに他国に攻め行ったら戦争中でも蛮行もいいところだ。それに、戦場に兵士が

いるだけで金がかかる。しかし誰かの救出だけ じゃ元が取れない。以上の二つを踏まえて、俺 は他国に攻め入る気になれい。率いた軍隊も撤退する予定だ」


「そんなぁ……………」


見てわかるほど落胆するルエではあるが、ボス とて幾百万の領民を抱える領主ある。無駄に軍を動かし続けると領民の税が多くなり、領民の生活は困窮、商人も通らなくなり、都市も賑わいをなくしてしまう。そうなれば収入も

減り、領土を運営出来なくなってしまう。仮に 、軍を本格的に動かすことがあるとすれば、ウ ィルデット王がほかの貴族を引き連れて進軍す

る時か、領土を守る為に出動する時である。


「まあ、だがここまでよくたどり着くことがで きた。お前達の親も命懸けで逃がしたんだ。お前達の命の保証は約束しよう。後で部下にエル フの里まで案内させる」


そう言うと、ボスは軍司令に撤退の命令を出すべく、待機している宿営地に行こうと歩き出し たその時、王国士官が急いでボスを引き止めた 。


「り、領主様、いま移動されると困ります!」


「なんだ、情でも移ったのか?」


「違います! 遂に出たんですよ、武装した兵士 が40人確認されたんです!」


「…………なんだと?」


王国士官の報告に、ボスは急いで防壁を駆け上り、境界線を目を凝らして見ると、確かに武装している集団を確認することが出来る。だが、

何かが違う。ボスが以前見たコージュラ皇国軍 の装備より、どこか貧相である。コージュラ皇 国の兵士は、一兵卒であっても鉄の鎧ぐらいは

支給されるはずだが、目の前の兵士達は、板切 れを繋ぎ合わせた鎧とも呼べない防具に、錆びまくった鎌やら斧やらに、酷いものは棍棒であ

る。こんな巫山戯た兵装をしているが、コージ ュラ皇国軍なのだろうか。もしかしたらコージ ュラ皇国はここまで困窮してるのか?

ボスは警戒をし、士官に尋ねた。


「警備兵は他に敵兵を確認してないのか?」


「はい、今警備隊全員に監視させていますが、 あれ以外見つけていないそうです」


「そうか、悪いが軍司令に総員戦闘配置って言 ってくれないか? あと、俺んとこにドライゼ銃兵を三百人連れてきてくれ」


「了解しました」


王国士官は頷くと、ボスの伝令を伝えに駆け足 で何処と消えていった。数分後、あちらこちら

で軍靴がドタバタと鳴り響き、ボスの所に伝言通りドライゼ銃兵三百人と補給兵百人が足並み 揃えてボスを中心に並列配置をした。そろそろ

だな、ボスは大声で敵兵に向けて、警告をした 。


「貴様等は境界線をこえようとしている! これ 以上こちらに来ると言うのなら、我々は貴様等に向け、発砲する!」


カタカタカタカタ、ボスが警告を聞いたのか、 板切れどうしが擦れるような音が聞こえ、足を

止めた。どうやら動揺しているらしい。これなら追い払えると確信したボスは、更に駄目出しと言わんばかりに、声を張り上げた。


「今から三つ数える! 三つ数える前に後ろを向け、向かなければ撃つぞ、いーち!」


これで帰るだろう。そう判断したボスは、ゆっくりと数え、敵兵の様子を見ることにした。なに、時間の問題だ、奴らが本当にコージュラ皇国軍かは解らず仕舞いだが、まあこれでいいだろう。ボスは軽い気持ちでいたが、どうやら事

態は単純ではないようだ。敵兵が、予想だにしない発言をしたのだ。


「こ、降伏しろ!」


敵兵の一言に、ボスを含めた兵士達全員、一瞬思考が止まった。この状況で降伏するのは、我々ではなく貧相な装備の貴様らではないか。しばらく静まり返っていたが、やがて誰かが、クスッと笑い声を上げ、それが波紋のように広がり、砦は笑いの渦に包まれた。


カハハハハハハ!これは傑作だ!

クククククク、クハハハハハ!

その板切れは伝説の装備なのか?聞いたことないぜ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!


「た、頼む! 降伏してくれ! じゃないと妻が、娘が殺されちまう!」


敵兵の嘆願に、兵士達は笑いながらも眉にしわを寄せた。変な降伏勧告だ、兵士達はその程度にしか思っていなかったが、敵兵の真剣さに、とりあえずは笑い声が収まった。一体、この敵兵は何があったのだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ