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少女、一喜一憂

「……九死に一生を得たようだ」


寝室にて、顔に血の気を取り戻したボスは、安 堵のため息を吐きながら自らの体の安全を確認 した。毒を盛られたことは度々あったが、それ

らを舌で感知することが出来たことから起きた 今回の騒動に、大きな反省と後悔を生むことに なったが、これも一つの勉強だと1人納得するこ

とでボスの心の中で一見略着することにした。


「今回の件は、アルダーナーのせいでご迷惑を おかけしました。後ほど正式な謝罪と賠償金を 払いますので、どうかお許しください」


ボスの命の恩人となった解毒薬の届け人は、深 々と頭を下げて謝罪した。もしこの届け人が少 しでも解毒薬を届けるのが遅れてしまえば、ボ

スの命は今頃天に登っていた所だろう。ボスは 首を横に振り、届け人に顔を上げるよう促す。


「いや、謝罪も賠償金もいらん。ただ一つ聞き たい。デュランダルと言う名の女がお前らのと ころに行ったと思うんだが、しらないか?」


「知っております。アルダーナーに暴行を受け ていたそうなので、我々の手で治療を施してお ります。間もなくこちらに戻って来る頃かと」


暴行、その言葉にボスは痛烈な後悔の念を覚え 、こめかみを抑えた。アルダーナーは毒を盛る ようなろくでもない人物には違いないのに、止

めることが出来なかった。暴行の具合は大した ことなければいいのだが、不安は募るばかりだ 。


「しかし、デュランダル様のおかげでアルダー ナー枢機卿を失脚させることが出来ました。デ ュランダル様には気の毒ではありますが、アル

ダーナーがデュランダル様に目がいっていたお かげで、結果的にルセイン様に解毒薬を届けや すくすることもできました。感謝してもしきれ ません」


「そうか、デュランダルには大きな借りが出来 たな。しかし、お前のところも色々と大変そう だな。要するに内部抗争みたいなものだろ?」


「はい。今まで表面上になっていなかったので 流血沙汰にならなかったのですが、今回の事が きっかけで幹部とアルダーナーの間に大きな亀

裂が走りましたからね。アルダーナーも失脚し ましたし、次期枢機卿はメルル様でしょう」


「メルル? 紅騎士のメルルか?」


「はい、そうです。解毒薬を届けるように指示 したのもメルル様です」


メルル、武闘会で対決した相手ではないか。な かなか難のある性格の持ち主であったメルルが 自分を助けたことに、ボスは頭を抱えた。助け

てもらっておいてこんなことは考えたくないが 、あのメルルがボスを助ける理由が全く思いつ かなかったので、ボスの頭の中は困惑の一途を 辿った。


「あのメルルがねぇ…………なんか想像しにくい んだよなぁ」


「表には出しませんが、メルル様は貴方を一目 置いております。ここで死ぬには惜しい人だと 判断したのでしょう」


ガチャ


届け人と暫く会話をしていると、ドアが開き、 デュランダルが顔を出した。頬に少し青いあざ が痛々しく浮き上がっており、腕にも強く握り

締めたような後が見える。アルダーナーが残し た傷跡に、光の騎士教団で一体どんな目にあっ てきたのか手に取るようにわかる。ここまで自

己を犠牲にしてまで助けようと、デュランダル は動いてくれたのだ。


「デュランダル様がお戻りになりましたし、私 はこれで」


届け人は一例すると、そそくさとデュランダル の隣を抜けて寝室を後にした。デュランダルと ボスの二人っきりになり、暫くお互い無言でい

ると、先に口を開いたのはボスであった。


「……………デュランダル、済まなかった。単独 で光の騎士教団の根城に乗り込むのはさぞ怖か っただろう。暴行にも耐えたそうだな。そのお

陰でこうして生きることが出来た。ありがとう 」


ボスは頭を下げ、謝罪とお礼を述べた。恐らく 、ボスがちゃんと顔を見て謝罪とお礼をしたの はこれが人生で初めてだろう。今までなるべく

一人で解決しようと生きてきたボスは、命の危 機が迫った時にも基本は一人で回避していた。

しかし、今回はデュランダルの協力なしには回避することは出来なかっただろう。


デュランダルは、何をするでもなく頭を下げているボスをただ見続けているようで、なんの反 応もないデュランダルに、ボスは顔を上げ、デ

ュランダルの顔を見ると、ずっと真顔だ。なん だろう、もしかしたら何か気に食わないような 発言をしてしまったのかも知れない。ずっと表

情が変わらないデュランダルに、ボスは少し困 惑した様子で、一言デュランダルに声を掛けた 。


「………デュ、デュランダル?」


「……………………………………………………………う、 うぇぇぇ」


ボスの一声に、デュランダルは徐々に表情を崩 し、次第に嗚咽混じりの声と共に、ポロポロと 大粒の涙を流して泣き出した。普段デュランダ

ルの泣いているところを見たことがないだけに 、ボスは大丈夫か、とデュランダルの肩に触れ

ようとすると、デュランダルの方からボスに抱きつき、その場にボスが本当に立っているのか 確認するかのように、力強くボスに腕を絡ませ

、ボスのスーツに涙を滲ませた。


「うぐ…………ぐすっ、凄く怖かったんだからぁ ! 凄く痛かったし、もう会えないかもって凄く心配したんだからぁ!」


甲高い声で、少しヒステリックに話すデュランダルだが、それだけボスのことを心配していた 証拠だろう。ボスの胸で咽び泣くデュランダル

に、ボスは戸惑いながらも、優しくデュランダルの頭を撫でた。


「…………お前も、泣くことがあるんだな」


「誰のせいよ、バカ! もう心配かけさせないでよ!」


―――――――――――――――――――――


「今日も前線異常なし!」


警備兵が決まり文句のように、王国常備軍士官テントにて、報告を述べた。コージュラ皇国侵攻に伴い、ルセイン領とコージュラ皇国との境界線を警備する国境警備隊の人員は大幅増員され、毎日のように境界線の周りを監視するようになった。以前まではまさか侵攻してくることはないだろうと高を括っていた警備兵達だが、そのまさかが現実となってしまい、警備兵達は呑気に境界線を眺める仕事から、緊張感高まる戦場にいる兵士のような仕事になってしまった。お陰で昼寝の時間もなくなってしまい、昼も夜も立ちっぱなしである。


「ご苦労、引き続き警備を続けるように」


士官は警備兵の顔を見ることもなく、本部に送る報告書に書きなれた様子で異常なし、とだけ書くと、机の上に置かれたコップに紅茶をそそぎ、一息ついた。見慣れた光景ではあるが、この光景に警備兵は疑問を持ち、つい士官に質問をした。


「あの、士官殿」


「なんだ?」


「あれからコージュラ皇国の侵攻は一切確認されませんが、本当に侵攻してくるのでしょうか?」


「何を言っているんだ。実際侵攻してきたんだから、また来るに決まってるだろ。だから国王は警備隊を増強したわけだしな」


「しかし、ルセイン領主がコージュラ皇国を追い返してから大分経ちますよ? 普通ならすぐにでも第二次侵攻を仕掛けてくるもんじゃないんですか?

なのに、それらしい動きを全く見せませんし、一体コージュラ皇国は何を考えているんですかね?」


「さあな、だが、もしかしたら最初の侵攻で失敗したから、今度は更に軍を増強してから侵攻するつもりなのかもしれないな。もしそうならいち早くコージュラ皇国の侵攻を察知し、本国に知らせる必要がある。だからさっさと警備に戻れ、いいな」


「りょ、了解しました」


バサッ!


警備兵が嫌々テントを出て行こうと踵を返したその時、興奮した様子で見張り小屋でいつも居眠りをしている工兵が勢い良く垂れ幕を払って入ってきた。その慌てぶりに、警備兵も士官もただならる予感を覚え、士官が息を呑んで工兵に尋ねた。


「ど、どうした?」


「き、境界線付近で人影を確認! 数は20人前後だと思われます!」


「なに!?」


その言葉を聞くと、士官はバネのように立ち上がり、常に放って置いてある鉄帽を頭に被った。恐らくその20人は偵察隊であろうと判断した士官は、遂に侵攻しに来たかと、机の上にある物を全て床に散らかし、地図を広げた。士官にとってこれが初めての戦争なので、緊張のあまり手が震え、額には汗がにじむ。


「おい、そこの警備兵!すべての警備兵に戦闘準備をさせろ! その後はルセイン領主に軍の要請だ! それで工兵、お前が見た人影ってのはどんな武装だったんだ!」


怒号のように工兵に言うと、工兵はなぜか困ったような反応をし、少し口ごもったようすで話した。


「そ、それが……………全員非武装な上に、エルフ族の子供です」


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