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少女、脅威

「………光の騎士教団?」


ボスがドライゼ銃の精度を見る為、中庭で射撃をしていた所、門番が駆け足で近づき、そう報告をした。ボスは今まで宗教関係には全く手をつけてこなかった為、ウィルデット王国にどの様な宗教があるのか解らないボスは、門番の報告に首を傾げながらも、門番の話に耳を傾けた。


「それで、どうかしたのか?」


「はい、光の騎士教団教徒の女と思わしき者が、門前にて領主様との面会を望んでいます。どうしますか?」


「どうもこうも、見ず知らずの宗教団体の人間をホイホイ入れる訳にはいかんだろ。追い返せ」


「………よろしいんですか?」


ボスの返答に、門番は少し表情を曇らせた。何か不味いことでも言ったつもりはないのだが、それほど光の騎士教団とは大きな組織だったのか。とりあえずボスは門番が何を怪訝しているのか尋ねた。


「なにか問題があるのか?」


「ええ、まあ。光の騎士教団と言えばウィルデット王国の国教であり、名家揃いの騎士団ですからね。ウィルデット王国内で大きな影響力を持っておりますので、下手に追い返すと後で何があるかわかったものではありません」


「そうか………」


ボスはふ〜、とため息をして、光の騎士教団の教徒とやらを入れるかどうか深く考察する。正直言ってボスは宗教団体は大嫌いだ。自分の考えを押し付け、自らの宗教とは違う宗教には激しく否定的になる。それが影響力を持っているとなると尚タチが悪い。何しにきたか分からないが、絶対敷地内に入れたくない。しかし、追い返すと後がめんどくさい………。


「仕方ない、丁重に応接室にお通ししろ」


「はい、了解しました」


門番は一礼すると、素早くその場を立ち去った。ボスはドライゼ銃を近くにいた給仕に渡して、倉庫に片付けるよう指示をすると、ボスは又ため息を吐いた。


「さあて、仕事をするかな〜」


―――――――――――――――――――――


応接室の扉を開くと、赤と青のツートンカラーが特徴的な、まるでバチカン市国の衛兵のような格好をした長い金色の髪が特徴的な淑女が座っていた。その淑女から醸し出される雰囲気は、如何にも神に仕えし者、という印象を受ける。淑女はボスに気付くと、ニコリと柔らかな優しい笑顔を浮かべ、挨拶の言葉を述べた。


「ルセイン領主様、急な訪問申し訳ありません。私はアルダーナー枢機卿にお仕えする、マナと申します。

今日はアルダーナー枢機卿から伝言を預かっており、お伝えに参りました」


「伝言だと?」


ボスはドカッと音を立てて座り、訝しげにマナの言葉に耳を傾けた。枢機卿と言うことは、光の騎士教団の中でもトップクラスの階級だ。そんなやつが使いをよこすとはますます怪しい。宗教団体らしく金をせびりに来たのか、それともルセイン領に大規模な教会を建てたいのか、もしそんなことを言ったら叩き出してやると一人意気込んでいると、マナの返答は意外なものだった。


「はい、アルダーナー枢機卿はルセイン領主様を大層評価しております。エルフ奴隷を他の貴族の目を気にすることなく解放し、内政も上々で今までの領主には到底できないことをしてきたそうですね。アルダーナー枢機卿は、そんなルセイン領主様の聡明さに、感銘を受けております」


「ほう、随分おべっかが上手いんだな。どんなに褒めても援助金は出さねえし、領内に大聖堂なんか建てさせねぇぞ」


「そんなつもりはございません。ただ、アルダーナー枢機卿はルセイン領主様を食事会にお誘いしたい次第なのですが、ルセイン領主様も日夜内政でそんな暇はなさそうですので、今日の所はこれをお届けに参りました。どうぞ、お受け取りください」


そう言うと、マナは手さげ袋から、黒塗りされたワインボトルを取り出し、それを机の上に置いた。ワインボトルは日光を反射して見事なワインレッドの影を机に写し、高級感を漂わせている。


「これは光の騎士教団で、門外不出とされた特別な製法で作られた約60年物のワインです。大変人気があり、これを王都で販売しようとすると、一本金貨64枚の値がつきます」


「ほお、そうか」


金貨64枚。恐らくこのワインは光の騎士教団の大切な収入源の1つなのだろう。もし、そんな大切な収入源であるワインを一人でも無料で渡してしまったら、このワインを買った貴族や豪商は激怒するに違いない。もしバレてしまったら大切な収入源をひとつ潰してしまうことになる。そんなリスクを追ってまでボスに渡そうとするとは、絶対に裏があるはずだと判断したボスは、即座に断ろうと、ワインを返そうとした時だった。


ジーーーー…………。


扉から突き刺さるような視線を感じ、振り向いて見ると、どこから臭いを嗅ぎつけたのか、デュランダルが獲物を追い詰めた狼のような目で、今ボスが突き返そうとしているワインボトルをただジーーーと眺めていた。酒豪といったらマリーであるが、ワイン好きと言ったらデュランダルである。ボスが少しでもワインボトルをマナのほうにずらすと、デュランダルはミシミシと握り潰す勢いで、扉を掴んで抗議をしてくるのだ。


ボスはシッシッと、手を振ってデュランダルを退散させようとするが、ここで退散したら二度と金貨64枚のワインは飲めないと、デュランダルは断固として動かない所存のようだ。


「…………有り難く頂こう、アルダーナー枢機卿殿によろしく言ってくれ」


「はい、では失礼します」


マナは立ち上がり、初めから気付いていたのか、扉にいるデュランダルにも一礼すると、デュランダルの隣を通って応接室を出て行った。見計らったデュランダルはそそくさと応接室に入り、マナの置いていったワインボトルを確認するように手に取り、悦に浸るように表情が和らいだ。


「これが………これがあのウィルデット王国一番といわれたワインなのね!」


「おう、お前のせいで俺の面子丸つぶれだぞどうしてくれる」


「ふふふ、だって飲みたかったもの。それとも、頼めば買ってくれたの?」


デュランダルの言う事に、ボスは唸りつつも何も言えなかった。買うか買わないかで言えばボスは絶対に買わないだろう。別にボスは領主業で結構いい稼ぎをしているのだが、生来貧乏肌の性分なので、領主業で得た金は、いざという時の臨時資金に回している。仮に金貨64枚もあったらドライゼ銃の改良資金に回すだろう。


「まあいい、最初の一口は俺が貰うぞ」


「あら、味がわからないんじゃないの?」


「このままだとお前が独り占めしそうだからな。雰囲気だけでも俺は楽しみたいんだよ」


「何それ、ふふふ」


デュランダルは機嫌よく応接室に設置してある戸棚からワイングラスを取り出し、ボスに一つ手渡した。ボスはワイングラスを手に取り、コルクを抜くと、ニヤリと笑った。


「悪いなデュランダル。これは俺が全部貰うぜ!」


「え!?」


デュランダルの戸惑いもつかの間、ボスはワインボトルを煽り、ラッパ飲みでワインを飲み始めた。どんどん無くなっていく高級ワインに、デュランダルは慌ててワインを奪おうと、両手を伸ばして抗議した。


「ちょっと! 全部飲むなんてずるいわ! 私の分もちゃんと残しなさいよお!!」


ガシャーン!……ゴポ


「ぐぶ…………」


ボスの手からするりとワインボトルが抜けていった次の瞬間、口に入っていたワインと一緒に、大量の血液を床にぶちまけた。やがて立つことも出来ず、腹を抑えて床に倒れ込み、もがき始めた。


「………………ルセイン?」


急な一連の流れに、全く反応が出来なかったデュランダルは、床に伏せるボスに、癇癪を起こした子供のように、悲鳴をあげた。


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