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少女、軍制

それからの貴族達の行動は早かった。あんなにエルフ奴隷に頭を下げることを拒んでいた貴族達は、次々とエルフ奴隷を解放して、ボスの真似をするように市民権や商業権を与え、ある領主は自らの側近をエルフ族から雇ったと言う話も聞く。これだけ貴族達からエルフ奴隷の解放を理解を理解を得ることができたのだ、最早フランドルとの約束を達成したと言っても過言ではない。


王会議から2ヶ月後、ボスはこの日フランドルとの会合のため、旧フランドル領の要塞都市、カムランに足を運んだ。フランドルが会合の場として、最近流行っているエルフ族発祥の喫茶店に貴族とバレないように単独で訪れた。


「お待ちしていましたよ、ルセイン殿」


護衛二人を両脇に抱え、紅茶を啜るわけでもなく、礼服を着て静かにボスの到着を待っていたようだ。護衛が椅子を引いて着席を促され、素直に座ることにした。前の交渉ではボスに刃を向けてきた蛮行極まりない行いをした過去があったので、ボスは護衛二人を警戒しつつ、フランドルとの会合を始めた。


「お前が望んだ通り、他の貴族からの理解を得ることが出来たぞ。これで商売でもなんでもやるといい。だだし、俺のとこの領法に引っかからない商売ではあるがな。後はお前が約束を果たす番だぞ」


「わかっておりますとも。これをお受け取りください」


フランドルは懐から家紋入りの筒を取り出し、ボスの前に差し出した。ボスは受け取り、筒から書状を取り出し確認して見ると、領土主権委任状と書かれていた。


「それで私の領土は貴方のものになるはずです。しかし聞きましたよ。なんでも今までに類を見ない兵器を開発したそうですね。出来れば私に幾らか売ってくれませんか?

代金は弾みますよ」


「ドライゼ銃の取引は禁止している。指定した工場以外での複製、また盗難は死罪だ。よく覚えておけ」


「そうですか、残念です……」


それだけ言うと、フランドルは立ち上がってボスに一礼すると、護衛とともにスタスタと去っていった。土産代わりにボスとの商談をこぎつけようとしていたのだろうが、そうはいかない。折角手に入れた悪魔の武器だ。有効に使わなければならない。


「さて、俺も仕事に戻らないとな」


ボスも立ち上がり、喫茶店を後にして馬車駅に向かう。今日はフランドルから領土を確かに受け取りに来ただけなので、これからルセイン領に戻り、フランドル領の資料に目を通すために館に戻らなければならない、が、その前に少し寄りたい場所がある。馬車駅に到着したボスは目に付いた馬車に乗り込んだ。


「お客さん、どこにいきますか?」


「フランドル領とルセイン領の境界線に大規模な軍事訓練場があるの知ってるか?」


「ええ、わかりますよ。そこまで行きますか?」


「ああ、頼む」


ボスがそう言うと馬車はゆっくりと目的地に向けて動き出し、ボスも目を閉じて暫し軽い休息を取る。この2ヶ月色々あった。貴族達はエルフ奴隷を解放してからというもの、エルフの技術をなんとかして手に入れようと躍起になっている今、ボスはドライゼ銃の実用化を目指している。アリサがドライゼ銃を開発した時点で、実用化の計画が始まり、王会議の終了直後にすぐ訓練場を建設した。

この訓練場は、通常の歩兵の育成を目的に建設したが、思いの外訓練場のスペースに余りがあったので、ボスは偵察、強襲、潜入などの任務を行う特別部隊を編成し、現在実戦に備えて訓練に励んでいる。


「お客さん、着きましたよ」


馬車に揺られること数時間、ボスは訓練場に到着した。訓練場の入口に当たる厳重な門には警備兵二人が出来立てホヤホヤのドライゼ銃を装備して、不審者がいないか目を光らせている。ボスは色をつけて金貨を数枚握らせて馬車を帰らせると、警備兵がボスに近づいてきた。


「お待ちしていました領主様!」


「ああ、早速訓練を見学したいんだが、よろしいか?」


「もちろんでございます!」


そう言うと、警備兵二人は、踵をかえして門の警備に戻り、ボスは顔パスで入場する事に成功した。

門をくぐれば、教官の罵声と訓練兵の叫び声があちらこちらから聞こえてくる。宿舎の周りをひたすら走る訓練兵もいれば、的に向かって射撃訓練を行う訓練兵もいる。見る限りでは特に問題はなさそうだが、これが戦場でどのような結果になるのか楽しみである。


今現在、この訓練場には約2000人の訓練兵が日夜修練に励んでおり、この先も志願兵は増える傾向にある。その理由は、貴族達がエルフ族を解放したのも、一つの理由だ。解放されたエルフ達は自由を約束され、都市に住み着く者が多く現れるようになったが、都市に住み着く以上金が必要である。そこに、常に求人募集をかけている兵隊なら手っ取り早く職につける上に金も手に入る、という理由があるのだ。


「ん? あそこにいるのは………」


ボスは訓練場を見回っていると、射撃訓練区画に見覚えのある顔をした訓練兵が、教官に派手に怒られているのを見つけた。目を凝らして見ると、逃亡奴隷の搜索でエルフの里に派遣された警備隊の若手兵士ではないか。ボスは撃たれないように手を挙げながら射撃訓練区画に足を踏み入れると、若手兵士を叱っていた教官がボスに気づき、姿勢を正して敬礼をした。


「領主様、ご無沙汰しております」


ご無沙汰?見たところエルフ族の教官のようだが、見覚えがまるでない。ボスが訝しげに教官を見ていると、察したのか、教官は姿勢を正して自己紹介を始めた。


「私、逃亡奴隷搜索で御一緒したタンチャンカです」


「ほう、つまり元近衛兵か。教官を務めるとはさすが近衛兵、凄いじゃないか。どうだ、特別部隊にでも異動しないか? なんなら推薦状を書くぞ」


「いえ、結構です」


ボスとタンチャンカが談笑に花を咲かしていると、若手兵士が今のうちとコソコソとその場を立ち去ろうとしたが、タンチャンカは見逃すことなく、先程のように物腰柔らかな態度から一変、鬼の形相で若手兵士に一括した。


「グラハム!! 誰が動いていいと言ったんですか!」


「うお!バレちまった! 領主様お助け〜」


グラハムはふざけた様子でボスの後ろに隠れ、ボスを盾に陣取ってタンチャンカからの制裁を逃れようとしているらしい。全く呆れた警備兵だ。主である領主を盾にする兵士など聞いたことがない。こんなのがルセイン領を警備していたと考えると、枕を高くして眠ることができない。


「お前は逃亡奴隷の件から心配だったが、相変わらずだな」


「だって領主様、こいつ少しでもミスをするとグーで殴るんスよグーで! 隊長がここで銃の使い方学んでこいって言ってなきゃ即やめてますよ!!」


「そりゃお前の自業自得だろ、軍隊は殴られてナンボだ」


「だって〜」


クネクネしながらグラハムは言い訳をし、指をくわえてボスに見せる姿が如何せん気持ち悪い。ボスが嫌悪感から後ずさりすると、タンチャンカが風を切る勢いで右ストレートを放ち、グラハムの顔面に炸裂した。グラハムの顔はグシャと音がなると同時に一瞬ひしゃげ、体が高速右回転スピンを3周半して地面に勢いよく叩きつけられた。


「が………あばばば…」


全身を痙攣させ、白目をむいているグラハムの顔から、タンチャンカのストレートの威力がどれだけのものか安易に想像がつく。こんな強烈なパンチを毎日のように食らっているのなら、普通ミスをしなくなると思うが、これだけの威力だ。殴られると同時に殴られた記憶がなくなってしまうのかも知れない。ボスは十字を切り、グラハムに祈りを捧げた。


「………うう、ちょっとやり過ぎました。ごめんなさい」


恐らく聞こえてないであろうが、タンチャンカは伸びているグラハムに申し訳なさそうに謝罪し、屈んでグラハムの頭を撫でた。他の訓練兵が見ている中で謝罪が出来るとは、なかなか見所があるが、もし自分なら絶対にこの教官の下で訓練したくない。お大事に、と心の中で呟き、ボスは訓練場を後にした。


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