少女、招集
「………くだらない?」
ボスの発言に、アルフレッドは眉を顰める。決して怒っているわけではないだろうが、ボスの発言に異を唱えようとしているのは間違いない。そのことをお見通しと言わんばかりに、ボスは反論が飛ぶ前に自らの主張を言い放つ。
「ああ、少なくとも領主が率先してやることじゃない。そんなことでお前の領土は安泰か? 腹は膨れるか?
どっちも達成できないだろ。バラが散るような美しき大恋愛をするのは高貴な身分の特権なのかもしれねえが、巻き込まれた方はたまったもんじゃないぜ。そんなことも考えず自らの欲望のために俺を脅す、くだらないだろ」
「…………そうか、そうかもしれん。どうやら心底貴殿とは気が合わないようであるな」
「ああ、どうやらそうみたいだな」
惨劇になることなく、今回はお互い刃を収める。フランドルの返答次第ではあるが、ボスはこれから今回回収した逃亡奴隷エルフの斡旋をしなくては行けなくなった。これから深夜まで起きて毎日残業、そして新規の戸籍調査をしなくては行けない。エルフ族のことはアーシャ女王に任せるとしよう。
そうこう考えていると、フランドルが思考をやめ、1人頷いている。どうやら決意が固まったようだ。
「お待たせしました。ルセイン殿の出した条件、飲むことにします。そのかわり、失敗しないでくださいね?」
フランドルがあざとく首をかしげ、フフフとえみをこぼす。脅しをかけてきた時のフランドルを見たボスにとって、もう違和感バリバリすぎて気持ちが悪い。
「そのキャラ疲れないのか? 凄く気持ちが悪いぞ」
「フフフ、乙女の深部を見せるのは、心に決めた殿方だけですわ」
「そりゃよかった」
どうやらボスは心に決めた殿方とやらになれたらしい。ただその深部を見たいとは誰も思わないだろう。少なくともボスはもうフランドルの深部を見ようとは思わない、だって怖いから。
「そんなことは今どうでもいいのです。受けていただくからには貴方には今月末にある王会議に参加してもらいます。いつもならただ領土の様子を報告するだけで済む会議なのですが、そこに貴方がエルフ族解放の演説をする時間を作ります。そこに出席している名高い貴族や王の前で、エルフ族解放の理解を獲得してください、これ、王会議の招集状です。では、頼みましたよ」
「ああ、わかったよ」
――――――――――――――――――――
「ほ、本当かい!」
ベッドから飛び出さん勢いでアーシャ女王は驚愕した。ボスは先程までの会談の説明をした所、なかなかいい反応を見せ、ボスは少し後ずさりながら話を続けた。
「あ、ああ。だから今日から牢屋に閉じ込めている逃亡奴隷は皆開放だ。それと悪いんだが、俺が今回の会談で得ることになっている領土のエルフ達の面倒を見て欲しいんだが、頼めるか?」
「うん、わかったよ。君もその王会議とやらで貴族から理解を得ないといけないんでしょ? 成功を祈るよ」
「ああ………じゃあ、話も済んだし、そろそろ館に俺は戻る。これから忙しくなるからな」
ボスが軽く頭を下げて別れの挨拶をすると、アーシャ女王も手を振って返した。ドアを開けて退室すると、マリーが外でスタンバッていた。ボスに気づいたマリーは汽車のような勢いで駆け出し、ボスに飛びついた。
「ルセイン! 良くやったぞ!」
思いっきり飛ばされたボスの体をギュウウとマリーの両腕が容赦なく締め付ける。咄嗟に対ショック姿勢をとることが出来たからいい様なものの、一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていただろう。
「ど、どうしたマリー?」
床にぶつけた頭を摩りながらボスは上半身を起こす。マリーは凄く嬉しそうな満面の笑みをボスに向け、まるで自分の事のように喜んでいる。
「奴隷達を解放するように便宜を図ってくれだろ? やっぱりルセインは頼りになるな!」
ふふ〜ん!
と上機嫌にボスに甘えるマリーだが、甘えている最中にカサ、となにかボスの胸ポケットから書状を発見した。これが結果的に悲劇を生んでしまうのである。
「あ? ああ、それは王会議の招集状らしい、月末に使うんだ」
別に嘘はついていないし、本当に招集状なのだ。それ以上説明しようがないし、何もやましいことなど全くない。ない筈なのだが、招集状を手に取って見てから、さっきまで上機嫌だったマリーのはずが、見る見るうちに鬼のような形相に変化していく。え、俺何か悪いことしたか?
「…………ほう、これが招集状なのか?」
マリーは力強く招集状をボスの眼前に突き出し、これ見よがしと強調している。何が気に入らないんだとボスは招集状の内容を確認してみる。前文は堅苦しい挨拶から始まり、そのまま読み進めていっても問題点が特に見当たらない。生理中なのか?
と最後まで読み進めていくと、目を見開くようなとんでもない一文を見つけてしまった。
期待してますよ、私の未来のパートナーへ
問題の分の後ろにはご丁寧にキスマークがつき、傍から見ればその手の関係の決定的な証拠にしか見えない。恐らく書いている本人はそんなつもりはなく、商人としてのパートナーという意味とほんの少しの冗談のつもりであろう、しかしマリーを怒り狂わすには充分であり、その被害を現在進行形でボスは受けてしまった。不運である。
「あ、あの野郎余計なことしやがって………」
「この浮気者! 私というものがありながら何処の女狐と密会してきたんだ! はっ! もしかして今回逃亡奴隷が解放されたのはそういうことか!」
「んな訳あるか! 今回逃亡奴隷が解放されたのは向こうの領主の領主の気まぐれだ! つか、結婚してるわけでもないのに浮気ってなんだよ!」
「あ! 認めたな、今認めたな!? うう〜やっぱり早く子供を作って他に目移りしないようにしなければ!ルセイン!今夜は覚悟しろ!!」
凄くうるさい。




