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少女、踏んだり蹴ったり

「殺すか、あんた顔に似合わず物騒なことを言う御仁だね」


ずっとにこやかな表情のフランドルに顔に似合わす、と言う表情が正しいか良く分からないが、少なくともフランドルの口からそんな言葉がでるとは、ボスも、アルフレッドも想像すらしなかっただろう。そんな責任を感じさせる事を言われて応じる人はそうそういないだろう。


「失敗したら殺されるんだろ? なら尚更共同声明なんかしない」


当然だ、と言わんばかりにボスはきっぱりとフランドルに告げた。頭に血が登りやすいアルフレッドに交渉で相手を脅すフランドル、この二人は本気で交渉する気があるのだろうかとボスは少々呆れてきた。


「………そうですか、これだけは使いたくなかったのですが……」


「あ?」


勿体ぶった言い方をするフランドルに、ボスは奥歯に何か挟まったような感覚を覚え、思わず口に出してしまった。少なくともこの流れでこんな事を言うわけだから、確実にまともなことは言わないだろう。


フランドルは先ほどまでのにこやかな表情から一変し、ベビのような鋭い目つきでボスを睨みつけ、ボスに歯を剥き出す獣のような表情で口を開いたのだ。


「交渉に応じないならば、貴様をこの場で切り殺す!」


フランドルの言葉を待ってましたと言わんばかりに、フランドルの隣に座っていたアルフレッドが火花を散らして抜刀し、刃先をボスの喉に軽く添えた。まるで濡れているかのように妖しく光る剣は、少なくともボスを木っ端微塵に切り裂くことなど簡単であろう。そんな窮地に立たされているはずのボスではあるが、何故だか表情は余裕そのものだ。


「なんとも花がないな、口で言うこと聞かなければ直ぐこれか? お前らやっぱり交渉する気ないだろ」


「黙れ、貴様には今二つの選択肢しかない。一つは共同声明に応じる、そしてもう一つはここで首を切られるか、その二つだ」


もう笑わなくなってしまったフランドルと剣を抜いてから終始真顔なアルフレッド、ボスは今この瞬間、なんとも面白味の欠片もないような二人に狙われてしまった、と場違いな事を考えていた。


「ルセイン殿、ここは自ずの命を優先すべきではないか?」


アルフレッドも便乗して剣片手に脅しをかける。元々綺麗事ばかりいって善人には見えなかったアルフレッドだが、こうも簡単に表を出すとは予想してはいなかった。フランドルにそそのかされて言っているのかも知れないが、領主が領主に剣を向けて何も無かった事にはならない。つまり、それだけの覚悟でフランドル同様アルフレッドもこの場にいるのだろう。


「やっと本性出しやがったな。そんな奴だろうと思っていたよ」


「なんとでも言うがいい。我が領土と領民の繁栄の為ならばどんな汚い手でも使ってみせよう」


「おいおい、まだそんなこと言ってんのかよ。自分の為の間違いだろ、領民まで巻き込むんじゃねえよ」


ボスは安い挑発を試みるが、先ほどの様にアルフレッドは目くじらを立てたりはしなかった。これ以上は相手にしないと言うことだろうか、もしそうならば、ハイエナ発言の時に怒ったのは演技だったということになるだろう。末恐ろしい役者領主だ。


ここまでフランドルとアルフレッドを色々とこねくり回していたボスではあるが、現状を打開するような突破口は全く見えず、結果ずっと絶体絶命の状況にいるのにかわりはない。このままではアルフレッドの剣がボスを切り刻むまであまり時間は残されていないだろう。いつもなら隣にはデュランダルが居たので、そもそも絶体絶命が存在しなかったが今は違う。さて、どうする?


「……俺から出す条件を飲むのなら共同声明とやらに参加する」


「条件? 状況がわかっておるのか?」


ガチャリと音を立てて、今こそボスの喉を貫かんとアルフレッドは剣を握りなおす。もう少し余裕はあると思っていたのであるが、当てが大きく外れてしまったかもしれない。


「お待ちなさい、アルフレッド」


フランドルがアルフレッドの剣に手を添え、剣を下ろさせた。いつの間にかフランドルの口調はまた元に戻り、表情も先程までの背筋が凍るような表情ではなくなり、またあの張り付いた様な笑みを浮かべていた。何はともあれボスの提案をフランドルはなにか思う所があったようで、なんとか命は助かったようだ。


「ルセイン殿、それで条件とは一体どのようなものですか?」


「簡単だ、一つはコンプライアンスを守ることだ」


「コンプライアンス?」


フランドルは聞いたことのない単語に首を傾げる。もしかしたらヴィルデット王国には商法の法整備があまり整っていないのかもしれない。だとしたら、この国は大分商人に良いようにされてる気がしてならない。


「コンプライアンス、法令遵守だ。お前が俺の加護の元で商売がしたいのならば、俺の領での法律に必ず従ってもらう。もし法を犯すような事をしたら、我が領土内外では商売はできないと思え、次に慈善事業の展開だ。俺の領民の為になる金にならない事業をしてもらおうじゃないか、どうだ?

出来るか?」


ボスの説明に、フランドルは顎に手を当てて暫し思案にふける。少し時間がかかりそうなので、今度はアルフレッドに視線を向けた。よく考えてみればアルフレッドは金に目がくらんでこんな事をしているのだろうか、それならこれよりもっと効率的に稼ぐ方法があるだろう。もしかしたら、それよりも重要な何かがあるのかもしれない。


「お前はなんでこんな事をしているんだ? アルフレッドさんよ、剣なんかで脅さないといけないほどあんたの領内は貧乏なのか?」


「………いや、そうではない」


アルフレッドは苦笑いを浮かべながら、頭を掻いた。金ではないのならば、一体なんなのかボスは実に気になって仕方ない。


「ほう、では、何の為に?」


「………エルフの娘と、結婚したいのだよ」


「oh......」


ここで側室か正室か聞こうとボスは思ったが、そんなふざけてまた剣を抜かれたら面倒なので、ここは押し黙る。


「某には幼馴染みのエルフがいてな、彼女とは里さえない森で出会った。まだ年増もいかない小僧だった某は、退屈な城の生活に耐えられず、抜け出し、森で迷い込んだのだ。その時に人里まで案内してくれた。それからそのエルフとよく密会し、その内に恋仲になった。だがエルフと人間が結婚することも、あまりいい目で見られない。だから、この共同声明はそれだけ価値があるのだ」


まるで安い恋愛映画のような、そんな話ではある。だが、決して悪くはない内容だ。ボスは静かに話を聞くと、何故か深いため息をついた。


「………はあ、それはなんともくだらない理由ですな」


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