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少女、三領同盟

「……エルフ族解放の共同声明?」


何を言っているんだこの人は、ボスはつい先程 までやっていた行いを全否定するようなお願い に、いささか不機嫌になった。逃亡奴隷を逃が

さす全て返還しろといった癖に、何故エルフ族 解放の共同声明なんぞやらんとならないのか。 そんな思いを知ってか知らずか、アルフレッド は話を続ける


「うむ、某もエルフ族の奴隷化は昔から快く 思ってなくてな、だが臣下の手前、なんとか皆 が納得する理由を模索していた所で、ルセイン

殿に白羽の矢がたったのだ」


「エルフ族の文化を取り入れることによって領 を潤わせ、部下を納得させるその手腕、我々に 貸していただけませんか?」


フランドルもボスをヨイショし始め、二人でボ スをエルフ族解放の共同声明に引きずり込みた い様だ。だが、この行為は結果的にボスから不

信感を引き出してしまうわけである。


「………エルフ族解放の共同声明なんて勝手にや ればいいじゃないか、俺を巻き込む必要がどこ にある?」


ボスの質問に、フランドルとアルフレッドは少 し口を噤む。ボスは交互に二人の顔を見て更に 不信感を強めた、理由を話すこともできんよう

な内容なら即刻手を切るべきそうすべき。


「俺は帰る、逃亡奴隷は後日返還するから安心 しろ」


「ま、待て!ちゃんと話す」


馬車から降りようとするボスに、アルフレッド が制止をかけた。理由を話すなど当然だ、交渉 する気あるのか?と内心愚痴るボスだが、ここ

は素直に席に戻り、話を聞くことにする。


「……ルセイン殿は、余り他の貴族のパーティー や王族会議には出席せぬ故、解らないかもしれ ないが、我々のようにエルフ族解放という考え

はよく思われておらんのだ、まあエルフ奴隷の 売り上げで食っている領主もいるわけだから当 然といえば当然だが、そこでルセイン殿の実践

したエルフ族の文化の取り入れだ、それを我々 の先頭をきって他の貴族に理解を求めて頂けれ ば、と………」


「………ようは、俺に他の領主共から守る盾にな れってか?冗談じゃねえよ」


刺々しくボスはボヤき、不快を顕にする。だが ボスのいうことは最もである。恐らくアルフ レッドとフランドルはただエルフ族の解放だけ

が目的ではなく、ボスのようにエルフ族の文化 を取り入れ、新たな儲けを出したいのだろう。 しかしアルフレッドの言ったように、大半がエ

ルフ族解放を快く思ってはおらず、転換するに 出来ないのでボスがエルフ族解放へ誘ったよう に見せ、批判の矛先をボスに向くようにしてい

る、そうとしかボスは考えられなかった。


「そのようなつもりはありません、ただ、貴方 のような変革者が先頭をきれば、賛同する領主 も増えると思ったので………」


フランドルが相変わらずにこやかに弁解する が、どうだか………とボスは疑いを深めるばか り、今のボスには、フランドルもアルフレッド

もゴミ箱にたかる蝿にしか見えない。


「仮にそんなつもりはなくても、現実俺が他の 領主共の噂の的になるのは目に見えるわけだ、 そうなったらお前ら何してくれるんだ、いや、

今すぐ俺に何をしてくれる?無料で動くほど俺 は出来ちゃいねえぞ?はっきり言って俺から見 てお前らはハイエナにしか見えん」


ボスのハイエナ発言に、アルフレッドは勢い良 く立ち上がり、馬車の天井に頭をぶつける。こ んな狭いところで…………とボスは思っていた

が、アルフレッドにとって酷く名誉を傷つけた らしい。青筋が浮かび上がり、怒りに震えなが ら静かに口を開く。


「我々がハイエナだと?ルセイン殿、言ってい いことと悪いことがありますぞ」


「なら、エルフ族解放が成功した時、エルフ族 に対して課税をせず、エルフ族の自治政府を許 可しろよ?エルフ族の出した儲けはエルフ族

に、だぞ?構わないよな、エルフ族の解放が目 的なんだからよ!」


腹の汚さを認めないアルフレッドにボスも怒 り、アルフレッドにメンチを切って睨みつけ る。何か言いたげなアルフレッドではあるが、

すぐに言い返さない辺り、ハイエナ行為しよう という考えはあったのだろう。浅はか、愚か、 滑稽、ボスはアルフレッドとフランドルにお似

合いの言葉を探し出すか、そのくらいしか思い つかない。


「アルフレッド、ルセイン殿、少し落ち着きま しょう」


火花散るルセインとアルフレッドに、フランド ルは涼しい顔で制止をかけた。フランドルはア ルフレッドとは違い、あまり感情に流されず事

を運ぶのに長けているようだ。その仮面のよう な笑みが、ボスの方に向き、話を続ける。


「確かにルセイン殿にかかる不利益については 考えが浅かったようです、しいては我々も、そ れ相応の礼をするつもりです」


「ほう、具体的に何をするんだ?」


あまり信用できたいと顔に思いっきり出ている ボスに、フランドルはフフフ、と気品溢れた声 色で返す。しかしそれ相応の礼と豪語するの

だ。莫大な金貨だろうか、それとも財宝だろう か、そんなつまらない物なら即刻帰る心構えで ボスは構える。


「私の領土でどうでしょう?」


「………………へ?」


領主が領土を譲り渡す、こんな非常識なことは 完全にボスの想定外の事態である。ボスが想像 していた財宝や金貨などというチンケな物とは

比べ物にならないような代物だ。開いた口が閉 じない、といった表情でふとアルフレッドを見 てみると、アルフレッドも似たような表情だ。


「満足出来ませんか?」


「い、いやいや待て、お前自分が何言っている のか理解していってるのか?」


「まあ、もしかして私の事を心配してくださっ ているのですか?嬉しいですわ〜」


顔を赤く染め、両手で頬を抑えながら照れるフ ランドルに、ボスは最早恐怖を覚えた。領主が 領土を譲り渡す、それはつまり職を失うのと同

意義である。そのことをフランドルはよく理解 できているのだろうか。


「でも心配ご無用です、元々私の家は貴族では なく商家で、今の地位もお金で手に入れたもの です、なので領土を譲り渡したら商人に戻りま す」


「………あんた、そこまでなんでも譲って、あん たに取り分があるのか?」


ボスの問を聞くと、ずっと仮面のような笑みを 顔に張り付かせていたフランドルの表情に、こ ころなしか欲の見えたイヤらしい笑みに僅かで

はあるが、変わっているように思える。


「エルフ族解放だけが目的……とは、言えません ねぇ……そう、これは投資です」


「投資?」


「ええ、もしあなたが私との取り引きに応じて エルフ族解放の共同声明が成功したならば、私 は貴方の加護の元、エルフと堂々と商売ができ

るわけです、商売は早い者勝ち、多くのエルフ と多くの取り引きをして私は投資した分を取り 戻し、将来的に更なる儲けられると確信したの

で、こうして話をしているのです、この意味、 わかりますか?」


本性を表したフランドルのこの言葉、領土を譲 り渡すという捨て身の行動、失敗したら少なく ともフランドルは大損もいいところだ。つまり

フランドルの言いたいことは…………。


「失敗したら許さないってか?」


「はい、絶対に殺します」


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