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少女、対立

「よーし、お前らよく聞くんだ!」


隊長が声高々にエルフ近衛兵の隊列と自分の部隊員達の注目を集める。エルフ近衛兵達は相変わらず鉄仮面で目元を隠し、表情が読めないが、目線は恐らく隊長の方を向いているであろうから問題はないだろう。


「つい先程領主様から直々に命令が下された!

我々警備隊は予定通り逃亡奴隷を搜索、確保するわけではあるが、その際誤認逮捕をしてしまわぬようにエルフ近衛兵と二人一組で行動してもらう、このことに関してはアーシャ女王殿と領主様との間で既に合意済みである、俺からは以上だ、では搜索を始めてくれ!」


隊長が号令を発すると、エルフ近衛兵と警備隊員が入り乱れ、それぞれが自然と二人一組になっていく。思いの外スムーズに二人一組になっていく様子にひとまず安堵を覚える、ボスからコージュラ皇国との戦闘の際に協力して防衛できるように、ということも備えた今回の作戦は非常に重要であると言われ、少し緊張していた隊長ではあったが、今のところは順調そうである。


「ねえねえ、エルフのお姉さーん」


どこか気の抜けた、任務に集中していない感丸出しの声が隊長の耳に入り、嫌な予感を覚えて首を声の聞こえる方へ向けると、案の定あの新兵だ。


「俺グラハム・アーサーって名前なんだけどお姉さんの名前は? 聞きたいなー」


不真面目な面と態度で新兵はバディのエルフ近衛兵に馴れ馴れしく話しかける、エルフ近衛兵は仮面をしているので目元こそ解らないが、眉を顰めて迷惑がっているに違いない。


「グラハム、てめえ真面目にやりやがれ! 玉もぐぞ!」


隊長の怒号にグラハムは飛び上がるように体を震わせ、ピューンと自分の担当区域までいってしまった。残されたエルフ近衛兵は呆れたようにため息をつき、後を追いかけに走ることとなった。


「全くあの野郎…………さて、俺は俺で仕事をするとしようかね」


―――――――――――――――――――――


「はあ、はあ、はあ、やっと見つけた……」


グラハムの後を追いかけて、やっとの思いでなんとか追いついたエルフ近衛兵は、息せき切って手を膝についた。当のグラハムはエルフ近衛兵に気づくと、ニコッと笑って駆け寄る。


「いやー、ごめんねエルフのお姉さん、俺あの人怖くて」


両手を合わせて謝罪の意を表してはいるが、まるで反省しているようには見えない。こんなふざけた人と一緒に仕事なんて、と自分の不幸を恨むエルフ近衛兵ではあるが、仕事は仕事、真面目にこなすのがエルフ近衛兵。


「もういいです、仕事をしましょう」


エルフ近衛兵は腰にかけてある戸籍謄本を書き写した記帳をペラペラと捲り、担当地域の戸籍を頭に叩き込む、それをグラハムは暇そうに除き込むと、エルフ近衛兵は邪魔だと言わんばかりにグラハムの顔を押しのける。


「記帳が読めません、どいて下さい」


「むあー、そんなこと言わずにいいじゃんよ、俺だって仕事なんだからさ」


「本当に迷惑です、離れてください」


本気で迷惑そうなのでグラハムは素直に離れる、グラハムは度の過ぎた悪ふざけをするほど不真面目ではなかった。やっと落ち着いて目を通せる、と息を吐いて安堵し、再度記帳を読み進める。


「…………ふう、読み終わりました、これで仕事が出来ます」


「お、じゃあ早速巡回しようか」


「はい」


巡回開始、エルフ近衛兵が巡回する邸宅まで先導し、グラハムはその後を付いていく形で二人は歩き出した。心なしかエルフ近衛兵は早足で歩き、着いていくにはちと辛いといった早さで歩くので、グラハムは一言エルフ近衛兵に提言した。


「ちょ、ちょっとお姉さん、少し早くない? もう少しゆっくり歩こうよ」


「そうですか、貴方は兵卒とはいえ軍人なので、このくらいでいつも歩いているのかと思っていたのですが」


少し棘のある言い方でエルフ近衛兵はグラハムに返答する。しかし歩くスピードは一向に変わらず、グラハムの提言を聞く気は更々ないようだ。


「………ねえ、お姉さん名前は? さすがにお姉さんなんて呼ばれたくないでしょ?」


「私は名前で呼ばれる方が嫌ですが……………タンチャンカと言います、覚えなくても結構です」


やはり棘のある返答、タンチャンカはグラハムをあまりよく思っていないことがよくわかる。グラハム自身も自分を嫌っていることがひしひしと伝わってきてはいるのだが、なんとなく、タンチャンカは他の警備隊の兵士にも同じ対応をしそうな気がするのである。


「タンチャンカさんさ、もしかして俺のこと嫌い?」


グラハムが軽い気持ちで質問するが、タンチャンカにとっては軽く済まされない、とても重い質問だったと後悔する。


「ええ、嫌いです、あなたを含めた人間全員」


そう答えるタンチャンカの声は、さっきまでの無機質な声色から一変、まるで凍った海の海底深くのような、冷たく重い声色に変わり、仮面から除く影のかかった目が、グラハムの神経のすべてを突き刺し、軽く身震いさせるほどである。


「勝手にエルフ族を支配して、奴隷にして、見下して、嬲って、今は自由になれたとは言っても、そんなのは与えらるものではなくて元々持っていた権利です、そんな種族を誰が好きになれますか?」


タンチャンカの主張に、グラハムは暫し口を噤み、沈黙する。タンチャンカの口調からして、もしかしたら知人が何人か殺されているか、はたまた親を殺されている位されているのかもしれない。そんな重い空気ではあるが、なぜかグラハムは笑ってみせた。


「そうなんだ、そこまで嫌いとは思わなかったよ、でも、同情はするよ」


知ったような口を、とタンチャンカはグラハムに聞こえるような声で吐き捨てるように呟く、しかしそんなことはお構いなしにグラハムは話を続ける。


「俺はね、実は孤児なんだよ、それも原因は君達エルフ族さ」


「…………え?」


タンチャンカは軽く困惑し、動揺した素振りをしたが、直ぐに平静を装い、グラハムの話に耳を傾ける。


「みんながそうじゃないけどさ、よくエルフ族は自分は被害者だ何だって言うけど、エルフ族だって人間と同じ事をしているよ、子供狩りとかそうじゃない、俺はその子供狩りの被害にあって両親を殺されて、危うく奴隷になる所だったんだ」


子供狩り、それはタンチャンカにとって日常であり、すっかり意識の外にあったことであった。まるでエルフ族の伝統芸能、その一環のように感じられるほど日常化された行為であり、無論、タンチャンカもその奴隷を使ったことがあった。


「タンチャンカさんは両親を殺されたことがあるか知らないけど、俺はある、あれはエルフ族の魔法なんだろうね、俺の父さんの死に様は体の四肢が膨脹して弾けたんだ、母さんはそれを見て反狂乱さ、俺はその時四歳で、よく理解はできなかったなあ、その後に俺達を襲ったエルフは、弾けた父さんの肉を俺と母さんの口に無理矢理押し込んだんだ、笑いながらね、その時の肉の味はまだ覚えてるよ、血生臭くて、ちょっと酸っぱかったね」


笑みを浮かべ、しかし真剣に話すグラハムの話に、タンチャンカは軽い目眩を起こした、自分達はそんな残虐なことをしない、もっと清廉とした、気高い種族だ。その固定概念が、音を鳴らして崩れるのを感じながら。


「母さんはその時に喉を詰まらせて窒息死、まあ、あの時では一番幸せな死に方だね、んで、遊び道具のなくなったエルフは、今度は俺を蹴って、這いつくばせたんだ、奴隷の烙印を襲うとしたのかな?

服を破って熱された鉄の棒を近づけられたよ、ああ、もうダメだって時に今の警備隊の隊長が来てね、その場でエルフはまっぷたつさ、全身エルフの返り血で熱かった、んで、その後はどういう訳か隊長が引き取ってくれてね、今は見習い一平卒さ」


ちゃんちゃん、と言ってグラハムは話を閉じ、タンチャンカに顔を向ける。タンチャンカは体を震わせ、今だ衝撃と自らへの失望に駆られていた、さっきの様な怖い視線と声色は何処へやら、おどおどした声でグラハムに訊ねる。


「その、憎くないんですか、エルフ族が……」


「最初はね、でもお互い様さ、それに領主が変わって新しい領主がエルフの里に拉致られた時の話聞いたらさ、びっくりしたね、自分は拉致られたのに堂々としていて、あまつさえ切られたって言うのに和平交渉をしたってことにね、なかなかできないよそんなこと、そんな話を聞くとね、まあ両親の死は悲しいけどさ、エルフと人が平和になるならさ、憎んでも仕方ないなってさ」


「そう、ですか………」


「うん、ちょっと話し込んじゃったね、さて、仕事仕事」


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