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少女、手助け

「…………そいつは、私の妹だ」


突拍子に出たマリーの嘘に、逃亡奴隷は驚愕し、警備兵は疑いの目を向けた。何を言い出すかと思えば突然の、しかも見え見えの嘘に引っかかるものなどいない、警備兵はうすら笑いを浮かべて口を開く。


「ほう、その割には全く似てないがな、なら戸籍を調べてやろうか? そうすれば直ぐに血縁関係の有無がわかるが、もし嘘だったらどうなるかわかるだろうな?」


早速嘘のメッキが剥がれてきた、どう見ても似ていない逃亡奴隷を庇ってしまったが故に自身も危機に立ってしまったにも関わらず、マリーは依然堂々としている。


「ふん、お前のような木っ端軍人には分からないかもしれないがな、エルフ族の戸籍は女王様が管理しているはずだ、お前達がエルフ族の戸籍なぞ分かるはず無いだろ?」


「なにぃ?」


マリーの言葉に、警備兵は唸り、こめかみに血液が集中して青筋が浮かび上がる、警備兵は怒りながらも困惑している、実際の所この警備兵が所属している屯所には戸籍謄本があるが、その全てに目を通しているわけではないので、マリーの言う事を否定できない。


「なら貴様の言ったことが正しいという確証はどこにある? 屯所の戸籍謄本を見てからでも充分真意を測れると思うぞ」


「いいのか? もし違ったら女王様に拉致されたと報告するぞ?」


マリーは余裕の表情で警備兵に伝えた、警備兵は更に唸るが、拳を固く握り締め、踵を返した。


「………今回は領主様の顔立ても考え身を引く、だが次はないぞ」


マリーを鋭く睨みつけ吐き捨てるように警備兵が言うと、ザッザッと軍靴を鳴らして去っていった。マリーはふう、と安堵のため息をつき、肩の力を抜くと逃亡奴隷に顔を向けた。


「危なかったな、次からは気をつけるんだぞ?」


「は、はい、有難うございます…………」


ペコリと頭を下げて礼をいう逃亡奴隷にああ、と一言だけ言って立ち去ろうとマリーは踵を返し、そのまま立ち去ろうと歩き始めた。

一歩進むと後ろからから余計に一歩歩く音が聞こえ、更に一歩進むとまた後ろから一歩歩く音が聞こえる。


「………いつまでついて来るんだ?」


「あの……迷惑なのはわかっているんです、でもお願いします、私をエルフの里まで連れてってください!」


「………私だって、同胞が困っているのを見捨てたくないよ、でも、助けたら仲間やルセインに迷惑がかかる……」


そう言ってチラッと逃亡奴隷の顔を確認する、マリーの言葉にしゅんと顔を俯かせ、目尻に涙を貯めて泣きそうな顔でマリーに嘆願の目を向けていた。マリーは一瞬ギョッとして、慌てて顔を正面に向けて歩き出すが、やはりまた逃亡奴隷はついて来る。


「……ふぇぇん」


堪えきれなくなったのか、逃亡奴隷の口から泣き声が漏れてしまった、泣き声を聞いてマリーは歩きながらまた後ろをちらっと見ると

逃亡奴隷は先程から貯めていた涙を大粒にまで膨らませて零し、頬を伝う涙を両手で何度も拭う、その様子はまるで迷子のようである。


「………わかったよ、連れてくよ、だから泣くな」


参ったと言わんばかりにマリーは溜息をつき、足を止めて逃亡奴隷の頭を撫でた。


―――――――――――――――――――――


「やあ、2度目の会談だね、今日はどういった用事だい?」


アポライト神殿会議室にてアーシャ女王とボスは机を堺にお互い対面し、アーシャ女王はにこやかに挨拶をした、しかしずっと真面目な顔をしているボスに首をかしげ、アーシャ女王は少し困った顔をした。


「あー、なんか気に障るようなことをしたかな?」


「……いや、今日はちょっと伝えずらい内容だからな、なんと言ったらいいか、いやはやまったく」


はぁ、と溜息をつくと、覚悟を決めたようにボスは自分の膝を叩くと、よし、と一言いって本題を持ち出した。


「近頃、ルセイン領に近隣している領の領主からルセイン領が逃亡奴隷の逃げ場になっている、と言われてな、このまま近隣領主との関係を考えると対策を取らなければならないんだ、つまり、このエルフの里も協力してもらわないと困る」


「………具体的には何をすればいいんだい?」


「エルフの里に俺んとこの警備兵を配備する、お前んとこの兵士と連携して逃亡奴隷狩りをしてほしい」


ボスの言葉にアーシャ女王の息が詰まる、一度はエルフを守るためにルセイン領軍と戦い、なんとか和解してエルフの里に平和をもたらしたと言うのに、ボスの要求を飲んだら今まで行ってきたことに矛盾してしまう、全てを守る事が出来ないのはわかっているが、それを容認するのは酷な選択である。


「……どうしてもかい、どうしても逃亡奴隷を受け入れちゃいけないのかい?」


「ああ、少なくともルセイン領にいるエルフ達を守りたいのならな、じゃないと俺もお前達を守りきれない」


アーシャ女王はコメカミに人差し指を押し付け、眉間にシワを寄せる、そこには普段から見る小さな子供のような可愛らしい女王から一転して、正に支配者、統治者といった貫禄がにじみ出ている。


「………わかったよ、協力するよ、それしか平和な道がないんでしょ?」


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